85: 加賀 :2020/02/15(土) 21:29:01 HOST:softbank126209039214.bbtec.net



「何!? ソ連義勇艦隊!? 何処だ!!」
「日本艦隊からの情報によればこの海域かと……」

 仁川沖を航行するイギリス東洋艦隊旗艦『ヴァンガード』の艦橋で司令長官のフレーザー大将は参謀から示された海域を見ていた。

「長官、直ぐに援軍を……」
「……援軍は不要だ」
「長官!?」

 フレーザー大将の言葉に参謀は目を見開いた。その意味合い的には日本艦隊を見捨てるという事だったが参謀を見たフレーザーは苦笑する。

「今、我々が行けば日本は私達が横取りしたと思われるぞ。それでも良いのかね? 更に我々は仁川に上陸船団を護衛している身だ」
「うっ……」

 フレーザーに指摘された参謀は黙る。

「此処は彼等にとってはホームグラウンドであり聖域でもある。我々は下手に動くべきではない」
「……分かりました」
(そう……我々に後は無いのだ)

 沖縄沖海戦後、イギリス海軍の栄光は地に落ちたに匹敵していた。特に東洋艦隊は40サンチ砲艦の『ネルソン』級を保有していたのにも関わらず、格下とも言える二隻の航空戦艦と酸素魚雷に破れたのだ。海戦後、ローリングス大将が有無を言わさずの予備役行きはフレーザーも記憶していたのだ。

「では仁川への砲撃に急ごう。紳士は時間に正確でなくてはな」

 フレーザーは己に課された責務を果たすがために艦隊を前進させる。後に第二艦隊の支援に行かずに仁川への艦砲射撃という責務を果たすフレーザーの評価は日米共に高い。

「目先の栄光より軍人としての鏡を果たした」
「米軍の戦艦がいない中での仁川への艦砲射撃は的確であった」

 等々とイギリスの首の皮一枚を残す事はおろか、後に日英の防共技術協定が結ばれる要因になる功績をフレーザーは残すのである。
 それはさておき、第二次日本海海戦はそろそろ佳境を迎えようとしていた。

「逃げろ!! 急ぎこの魔の海域から脱出するんだ!!」

 艦隊が壊滅状態に近いソ連義勇艦隊は義勇艦隊司令長官の命令を忠実に守ろうとしていた。なお、反対を唱えていた政治士官は流れ弾による戦死を遂げていた。(公式上)

「左舷からズイウーン!!」
「何!?」

 司令長官が左舷を見ると発動機から火を噴きながらも接近してくる瑞雲がそこにあった。

「『長門』を……艦隊をやらせはせん……やらせはせんぞォォォォォォ!!」

 後部座席にいる戦友は既に靖国へと旅立ち、パイロット自身も致命傷を負っていた。ならば一太刀とパイロットは最期の力を振り絞ったのだ。

「馬鹿な……」

86: 加賀 :2020/02/15(土) 21:30:18 HOST:softbank126209039214.bbtec.net
それが義勇艦隊司令長官最期の言葉だった。瑞雲は『ソビエツキー・ソユーズ』の艦橋に体当たりを敢行、義勇艦隊司令長官以下艦橋にいた全員は戦死するのであった。その直後、『長門』が放った第29射目の41サンチ砲弾が二番砲塔を叩き割る事に成功した。砲弾は砲塔員を即死させながらも艦体奥深くに食い込み爆発、その爆風と熱風は弾薬庫にまで届き次々と誘爆させていき……。

「敵一番艦爆発!!」
「……弾薬庫の大爆発か」
「あれでは長くは持ちませんな……」

 『ソビエツキー・ソユーズ』は二番砲塔を震源とする弾薬庫の大爆発が発生、艦体は真っ二つに折れたのである。
 一番砲塔以前の艦首付近は暫くは航行していたがやがては波間に没したのである。艦橋以降の艦体も徐々に破壊口からの大量浸水により沈降していった。

「砲撃目標を二番艦に変更する」
「了解しました」

 二番艦の『ソビエツキー・ウクライナ』は炎上こそしていたが未だに有効弾は出ていなかった。まだ健在の二番・四番砲塔は旋回して『ソビエツキー・ウクライナ』に照準、砲撃を開始する。
 距離も近かった事もあり砲撃は初弾から命中弾を与えて有効弾を得ようとする。そして戦艦を沈めようとするのは何も戦艦だけではない。

「水上電探に反応!! 来ました、二水戦です!!」

 やってきたのは酸素魚雷の次発装填のために一時戦場を離脱していた精鋭二水戦だった。彼女達は酸素魚雷の次発装填を終え最大速度で戦場に戻ってきたのだ。

「二水戦の突撃を支援するぞ!! 三戦隊、突撃ィィィ!!」

 態勢を建て直した『妙高』以下の三戦隊も二水戦を支援するために突撃を開始する。特に砲弾は徹甲弾ではなく三式弾や榴弾で砲撃して人員の殺傷や炎上を優先して二水戦の突撃を支援するのである。

「最適地点!!」
「魚雷撃ェ!!」

 最適地点ーー距離一万にて二水戦は酸素魚雷を発射し離脱する。その間、義勇艦隊は反撃しようと砲撃していたが、司令長官以下の幕僚陣が戦死しているため義勇艦隊は適切な命令を出す者がいなかったのだ。その為、義勇艦隊は砲撃はしているが各艦バラバラの砲撃をしているため命中弾はほぼなかったのである。
 そして二水戦が放った酸素魚雷も次々と義勇艦隊に命中した。義勇艦隊も回避運動をしていたが到着する頃には無航跡となる酸素魚雷の発見は困難であり、全ての回避は出来なかったのだ。

「やりました!! 戦艦に水柱です!!」

 古参の見張り員は水柱を噴き上げ、行動を停止し大傾斜をする戦艦『ソビエツキー・ウクライナ』を見て涙を流した。この時、『ソビエツキー・ウクライナ』の他にも『ボロジノ』『シベリア』等々の大型艦艇にも酸素魚雷が命中していたのである。特に『シベリア』は『雪風』が放った酸素魚雷が右舷艦尾に命中、右舷機関室が全滅した事と左舷機関室にも浸水した事で航行不能となり漂流を開始するのであった。

「生き残っている全艦艇に発光信号!! 直ちに現海域を離脱しウラジオストクへ向かえ!!」

 漸く義勇艦隊は戦艦『ガングート』艦長の統制により混乱から回復してきた。そして残存艦艇は現海域を離脱しようとする。その残存艦艇を守るために『ガングート』は現海域に残る選択をしたのだ。

「いいか!! 一隻でもこの海域から離脱しウラジオストクへ辿り着くのだ!! 我々の……この真実の戦いを後の世に伝えるために!!」

 そう叫ぶ『ガングート』の艦長だったが次の瞬間、『伊勢』から放たれた35.6サンチ砲弾が『ガングート』艦橋に直撃し艦長は肉片残らず吹き飛ばされるのであった。

87: 加賀 :2020/02/15(土) 21:33:18 HOST:softbank126209039214.bbtec.net
次回で最終話となります(多分)
  • フレーザー、英国紳士
  • 『長門』奮戦
  • 気付いたら台詞が0083関連(だって0083は好きだもの……)

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最終更新:2020年02月19日 21:58