601: ham ◆sneo5SWWRw :2020/04/28(火) 22:06:56 HOST:sp49-98-148-207.msd.spmode.ne.jp
前回のマレー沖夜戦について書こうと思ったけど、こっちが思い付いてしまって書いてしまった・・・

海の神兵という言葉がある。
これは大戦末期、海軍陸戦隊の空挺部隊の功績が陸軍より劣るため、知名度アップを図った海軍のアニメ映画の題名として使われた言葉だ。
海軍空挺部隊は初戦のメナド攻略、クーパン飛行場占領で活躍したが、それ以降は活躍の機会に恵まれなかった。
アッツ島の救援やマリアナ強襲コマンドの剣作戦等も検討されたが、結局、空挺訓練を重ねた彼らはマリアナで空から降りることもなく地上で散っていった。
陸軍の挺進連隊は『空の神兵』と称され、その伝統は陸上自衛隊の第1空挺団に引き継がれたが、海軍空挺部隊の伝統は引き継がれなかった。
もし彼らが功績を挙げ、その伝統が引き継がれる部隊が居るなら・・・これもまたifであろう。
そして、それを実行しようとする者が居るのも・・・


戦後夢幻会ネタ ham世界線 海の神兵戦闘録 デルモンテ基地強襲

パラオ諸島。
その飛行場では、96式陸上"輸送機"(96陸輸)48機がエンジンを始動し、轟音をあげていた。
96式陸輸だけではない。製造数が少ない零式輸送機や試作の深山、さらにそのモデルとなり、格納庫で埃を被っていたDC-4Eまで居る。
そして、それぞれの機体の後方には1機ずつグライダーが連結されてある。
先頭の96式陸輸が発進し、続いてワイヤーで繋がれたグライダーが続く。
96式陸輸全機が発進を終えると、零式輸送機、深山、DC-4Eの順にさらに大型のグライダーを牽引して発進する。
既に読者諸君らも気付いているが、これらの輸送機、グライダーに搭乗するのは海軍空挺部隊たる横須賀鎮守府第1特別陸戦隊(横1特)と同鎮守府第3特別陸戦隊(横3特)だ。
彼らの目標は、フィリピン・ミンダナオ島のダバオ市、そしてカガヤンデオロ市の郊外にあるデルモンテ社の農場だ。
なぜ農場を?と思われるが、これはフィリピンに潜入したとある転生者のスパイからの報告が原因だった。

「デルモンテ社の農場を利用した秘密飛行場を確発見。B17約2個中隊以上は居るものと認む」

この飛行場は、史実では開戦時に第19爆撃飛行群の第14、第93飛行隊の16機が退避しており、マッカーサーがB17でオーストラリアへ脱出に使った飛行場である。
空の要塞と称されるB17が居るという事実に、海軍上層部は大いに頭を悩ませた。

B17の航続距離からして、この飛行場が使われたなら、北はルソン島の飛行場を経由し台湾を、東は余裕でパラオを、西と南は攻略予定の蘭印が攻撃可能圏内となる。
おまけに、陸軍と第11航空艦隊で計画している北比爆撃を行っても、この基地のB17が無事であれば意味が無い。
ならばここも爆撃するか?と考えたが、基地の全貌がまだ掴めていない状況では、航空戦力が圧倒的に少ない南比部隊では難しい。
上陸しての占領も、その前に飛ばれて脱出されては元も子もない。
迅速に且つ確実にデルモンテ基地を無力化できる方法はないか?
頭を悩ませる上層部に、ある男たちが名乗りをあげた。

「我々にやらせてください。このための第1001実験ではないですか!」

そう言ったのは横1特の隊長、堀内豊秋中佐である。
なるほど、空挺強襲ならば迅速に制圧できる。
それに飛行場となれば陸戦要員は限られるので、数でも練度でも有利だ。
さっそく計画が練られた。
当初は破壊工作のみであったが、可能なら鹵獲したい、どうせなら支援としてダバオ攻略も派手にやろう!と、あれよこれよと加えられ、最終的にミンダナオ島全域への大規模空挺・上陸作戦へと発展した。

602: ham ◆sneo5SWWRw :2020/04/28(火) 22:07:38 HOST:sp49-98-148-207.msd.spmode.ne.jp

「まさかこんな大作戦になるとはなぁ・・・」

"グライダーの操縦席"で、堀内中佐は独りごちた。
史実転生者である彼は、史実での搭乗員訓練での事故を回避して無事にパイロットになったが、何の因果か陸戦隊を経験し、第1001実験こと、海軍空挺部隊編成に初期から参加することとなった。
その過程で、夢幻会と偶然知り合い、パラシュート以外の降下方法としてグライダー部隊の編成を主導、自ら操縦桿を握り、グライダーによる降下部隊を編成した。
史実では十六試特殊輸送機と称されたこのグライダーは、倉崎翁と蒼空会の山本晴之技師らの手によって早期に実用化され、史実より早く稼働した日立航空機の千葉工場や広工廠、渡邊鉄工所等で大急ぎで生産されたものだ。
一式特殊輸送機として採用されたこの機体には、操縦士2名と兵員11名の13名が乗り、96式陸輸によって牽引されていた。

また、零式輸送機や深山、DC-4Eが牽引する大型グライダーは、英軍のエアスピード・ホルサを参考にしたもので、操縦士2名と兵員25名の27名が搭乗。
半数の6機には兵員を11名にして94式速射砲を1門ずつ載せていた。
グライダーだけではない。牽引する96式陸輸には12名ずつ、零式輸送機には28名ずつ、深山とDC-4Eにはそれぞれ50名もの落下傘兵が搭乗していた。

「そういう俺は陸戦経験は幾度と経験しているが、空挺降下は2度目の人生でも初だぞ」

堀内中佐にそう言ったのは史実転生者の安田義逹大佐。「安田陸軍大佐」の異名を持つ太田実と並ぶ陸戦のプロだ。
横1特と横3特の降下兵たちは、館山で嫌というほど降下訓練をしていたが、史実で陸戦訓練は開戦直前に初めて行ったほどだった。
そのため、堀内らは史実知識で空挺研究を早め、グライダー降下も合わせて早期に陸戦訓練を実施。指導役に館山で砲術学校教頭だった安田を招き、速成で鍛えていった。
この縁もあり、本作戦に合わせて横1特と横3特によって横須賀連合特別陸戦隊(横連特)が編成され、その隊長に安田が抜擢された。
安田は陸戦のプロだが、空挺降下は未経験であるために堀内の操縦するグライダーに同乗していた。
安田のように、グライダーには落下傘訓練で技量の劣る者や増員された未経験者、報道班などが搭乗していた。

やがて、ミンダナオ島に近付くに連れ、編隊は2つに分かれる。
福見幸一中佐指揮する横3特はダバオ市に、そして、安田大佐の横連特司令部と堀内中佐の横1特はデルモンテ基地を目指した。
やがて目標近くになり、グライダーを牽引しているワイヤーが切られ、グライダーは滑空状態になる。
現地に潜入している工作員によって灯された目印を頼りにグライダー部隊はデルモンテ基地の滑走路に強行着陸を開始した。

「敵襲だ!」

突然滑走路に強行着陸した機体の日の丸を見た見張りが叫び、警報を鳴らす。
夜間の奇襲、しかも予想だにしない空挺降下、おまけに存在を秘匿している秘密飛行場ということで油断しきっていた米軍側の対応は完全に後手に回った。
飛行場の周囲の平地にも落下傘兵が続々と降下を始め、飛行場は中と外から攻撃を受けることとなった。
大型グライダーからも速射砲が出され、抵抗する基地守備隊へ支援砲撃が加えられる。
B17の搭乗員や整備兵も拳銃だけでなく、旋回機銃で応戦しようと機体に向かう者もいたが、激しい攻撃で途中で倒れる者が多く、運良く反撃できても砲撃で機体ごと制圧されるだけであった。
まもなく飛行場は占領され、B17は5機が戦闘で破壊され、残る11機がほぼ無傷で鹵獲されることとなる。

だが、これで終わりではない。
同島のダバオにも横3特が空挺降下し、さらに第3艦隊の支援の元、陸軍の坂口支隊が上陸しているとはいえ、ここデルモンテが敵中にあることに変わりはなかった。
ダバオと陸路で連絡する手も有るが、間に標高2000m級の山々があり、しかもフィリピン最高峰の火山、アポ山もあるため、連絡は難しい。
となれば、さっさと撤退するしかない。

603: ham ◆sneo5SWWRw :2020/04/28(火) 22:10:51 HOST:sp49-98-148-207.msd.spmode.ne.jp
もちろん方法は考えてある。
安田大佐は直ちに基地の通信施設を使って作戦成功の暗号電を打たせる。
打電を受け、パラオ基地から東港航空隊の97式飛行艇が徴用した民間型や輸送型と合わせて、順次発進していく。
さらに、スリガオ海峡の東側に近付いていた第2水雷戦隊の神通と陽炎型駆逐艦8隻が速力を上げて突入を開始する。
打電を終えた陸戦隊は、岡村徳長少佐らグライダー操縦士の中から無事な者を集め、鹵獲したB17に搭乗させる。
他の陸戦隊員は、基地の車両や人力で滑走路に展開しているグライダーを解体、あるいは破壊して撤去し、滑走路を開ける。
そして夜が明け、無事始動した機体から順に発進し、誘導役の97式飛行艇の誘導の元、パラオ諸島に向けて発進していった。
B17の発進を見届けた残る安田ら横連特司令部と堀内ら横1特隊員は、直ちに基地の弾薬で即製爆弾を作るなどして飛行場施設を爆破し、捕虜を連れて海岸に向かった。

カガヤンデオロ市の沖合には2水戦と東港航空隊の飛行艇が到着しており、発進した大発や内火艇が海岸に展開して陸戦隊員を待ち受けていた。
到着した彼らは急いで乗船し、雪風以下第16駆逐隊と97式飛行艇に次々と収容される。
一方で、親潮以下第15駆逐隊は周囲を警戒し、旗艦神通は艦載機の95式水偵の弾着観測の元、滑走路に砲弾を叩き込み、使用不能へと追いやる。
最後に安田大佐と堀内中佐が共に雪風に収容され、飛行艇はパラオへと発進し、2水戦は反転してスリガオ海峡を突破し、ダバオへと向かった。

マッカーサー以下ルソン島のアメリカ軍司令部は、午後になって市民の通報でようやく事態に気付いたが、陸軍は北部の飛行場が空襲されて動けず、止むなく海軍に救援を要請した。
アジア艦隊司令長官のハート大将はパナイ島のイロイロ港から重巡ヒューストンを急行させたが、カガヤンデオロに到着した時には既に日本軍は撤退しており、事後調査をするしかなかった。

一方で、セブ島沖を航行していた軽巡ボイシも連絡を受けて急行した。
こちらは薄暮の頃にスリガオ海峡の西側入口で2水戦を捉えることに成功したが、午前中に97式飛行艇に見つかっていた。
そのため、ダバオ沖の龍驤から発進した97式4号艦攻からの雷撃、さらに第11航空戦隊の千歳、瑞穂から発進した零式水偵や瑞雲の爆撃で中破し、速度を大きく落としていた。
それでも夜の闇が深くなりつつ海峡へ、2水戦を追いかけて突入したが、海峡出口近くで突如爆発に襲われた。
敷設艦八重山が2水戦通過後に大急ぎて敷設した六号機雷だ。
突如として機雷原に突入してしまったボイシは夜間ということもあって身動きがうまく取れなくなった。
さらに、ダバオ攻略隊から分派された那智と合流した神通と第15駆逐隊の反撃を受けることとなり、ボイシは海峡に沈むこととなった。

一方で、飛行艇の誘導でパラオに向かった11機のB17は、10機が無事に到着できた。
残る1機はどうしたかというと、基地の直前て不時着してしまったのだ。
この機体は、岡村少佐が操縦していたが、彼は計器のヤードとメートルを誤って読んでしまい、基地の手前で高度を下げ過ぎてしまったのだ。
幸い基地近くということもあり、岡村ら搭乗員は全員無事だったが、岡村は減俸の上、新編される第13設営隊に飛ばされてしまうのだが、それは別の話である。
さて、到着したB17は一旦飛行場の脇へと移動させた後、カモフラージュされ、その後、星マークを日の丸に描き換えて日本へと旅立った。
3機が陸軍に譲渡されることになるこれらは、分解解析で様々な技術的ショックに襲われ、倉崎翁のクラサキノートと合わさり、日本航空に大きな影響を与えることとなった。

ともあれ、これにより北部の空襲と合わせてマッカーサーは数少ないB17をほとんど失うこととなった。
唯一動けるのは空襲を助かった2機のみであり、彼は史実よりもさらに苦境に立たされることとなる。
しかもデルモンテ飛行場が破壊されたことで更なる問題も起きた。
史実ではコレヒドールからデルモンテに至り、そこからB17でオーストラリアへ脱出した彼だが、デルモンテ飛行場が露見したことで安全でなくなり、飛行場を利用した脱出が不可能となった。
やむを得ず、本土からの指示の通り潜水艦で脱出することになるのだが、生来の閉所恐怖症である彼にとって拷問であった。
潜水艦での移動時間を極力減らすため、ミンダナオ島西端まで魚雷艇で移動し、
潜航中は睡眠薬を飲んで強制的に眠って過ごし、
安全圏で飛行艇に乗り換えてなんとか脱出した彼は、日本軍への復讐心を史実以上に燃え上がらせることとなる。

604: ham ◆sneo5SWWRw :2020/04/28(火) 22:13:54 HOST:sp49-98-148-207.msd.spmode.ne.jp
以上です。
海軍空挺部隊を活躍させたくて書きました。反省はしていません(オイ)
言い訳と言いますか、弁解として、B17鹵獲の利点はノルデン照準器も有りますが、防弾や通信機器等の各種航空艤装で改善を図る目的があります。
ロッテ戦術等の連携戦術では航空無線がカギですし。
マッカーサーはこの襲撃でデルモンテが使えなくなり、潜水艦となりました。
閉所恐怖症の彼はもう日本へ恨み骨髄です。

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最終更新:2020年04月29日 22:07