514: モントゴメリー :2020/12/10(木) 00:21:44 HOST:116-64-111-22.rev.home.ne.jp
二藤部内閣総理大臣の憂鬱

大日本帝国 東京 総理官邸

大日本帝国内閣総理大臣、二藤部新蔵は廊下を早足で歩きながら応接間へと向かっていた。
その間も補佐官たちからの報告を聞き、指示を下していく。
この数時間で帝国政府は大混乱状態へと陥っていた。
その原因は大きく分けて2つ。どちらも発生場所は佐世保だ。
1つ目は「ヤルバーン乗員の誘拐事件」である。
これによりティ連加盟のお祝いムードが吹っ飛んだばかりか、帝国の面目は丸潰れである。
まあ、そちらの方は「適任者(柏木ティエルクマスカ担当大臣)」に丸投g…対応を一任しているので何とかなるだろう。
そして二藤部が応接間に向かっているのは「2つ目」の原因に関係している。
ようやく応接間の前にたどり着き、扉を開く。そして室内にいた人物に向き直り、言葉を発した。

「大使殿、お持たせして申し訳ありません」
「いえ、Monsieurニトベ。こちらこそ急な来訪を謝罪いたします」

こちらの謝罪に目の前にいる女性、在大日本帝国FFR大使はそのあどけない顔立ちに若干汗を滲ませながら立ち上がり返礼する。
彼女の容姿に惑わされてはならない。
確かに、学生服を着て街中にいればお嬢様学校の留学生と見分けはつかないだろう。
しかし、この乙女は現FFR大統領の「学生時代からの友人」である。
つまり実年齢は『そういうこと』であるし、身体能力は空軍士官学校時代の水準をほぼ維持している。
(FFRでは、各軍の士官学校間の交流をとても積極的に行っている)
実際、彼女の胸には航空徽章が今も輝いている。休暇で本国やエストシナに行った際に実機訓練を行っているらしい。
また、大使館内には各種シミュレーション装置とトレーニングルームがあるという噂だ。
つまり、一朝有事とあらば目の前のお嬢様は空駆ける戦乙女へと早変わりする。
…「一人でも多く、兵士となれる人的資源を確保する」という、FFRの執念には脱帽だ。
彼女たちに見られる「超抗老化(スーパーアンチエイジング)」技術はその執念の結晶である。
(ちなみに、在大日本帝国FFR大使館職員は過半数が彼女の様な女性である。FFR政府内での別称は「対MMJ決戦部隊」だ。)

515: モントゴメリー :2020/12/10(木) 00:22:25 HOST:116-64-111-22.rev.home.ne.jp
閑話休題。
横道にそれていく思考を修正しつつ二藤部はソファーに座り、それに応じて彼女も座り直す。
そして本題に入る。

「それで、本日の来訪は如何なるご用件で?」
「……訊かずとも、お分かりでしょう」

大使は居住まいを正して切り出した。

「『Notre commandant(我らが指揮官)』、戦艦リシュリューの艦娘についてですわ」

興奮しているのだろう、言葉に母国語が混ざっている。

「単刀直入に申し上げます、Monsieurニトベ。あのお方を、リシュリューを我々FFRに保護させて下さい」
「それに関しては当方もやぶさかではありません。ですが、我々帝国政府も彼女の居場所を未だ特定しておらず…」
「嘘ですわね」

大使はぴしゃりと断言した。

「嘘ですと?何故そう断言なさるのです?そのような嘘をついても帝国には何の益もありません」

二藤部は困惑を隠しきれずにそう尋ねた。
それに対して大使はこう応える。
「…何故あのお方が日本で降臨なされたのかは分かりません。いえ、艦そのものが今現在日本に寄港しているので
ある意味当然なのかもしれません。ですが、何故日本に寄港している時に降臨なされたのかという疑問は残ります」
「はぁ…まあ、そうですな」

どう答えていいか分からず相槌を打つに留める。

「…ところで、日本人は『神に賄賂を渡す』ことができるとか」
「そのような事実はございません」

この風評被害(神に賄賂)いつになったら払拭できるのだろう?
日露戦役前後かららしいから、かれこれ120年は言われ続けているぞ。
ただ単に神社にお参りするときにお賽銭を供えているだけなのに…。

「そこで、我々FFRはこのような仮説を立てました。
…『日本は天上に何かとてつもない貢ぎ物をして、女神たる艦娘に降臨を願ったのではないか』と」
「………は?」

どうしよう、とんでもないこと言い出したぞ。この合法美少女。
それに気のせいだと思いたいが、彼女の目からハイライトがだんだん失われていっているように見受けられる。

「女神、それも戦艦級に降臨していただくとは、一体どれほどの貢ぎ物をしたのですか?方法共々是非ご教授願いたいですわ。
…やはり、あの『星の王子さま』たちの技術を使ったのですか?」
「お、お待ちください大使!
佐世保の一件について、帝国政府は本当に何も関与しておりません!!」

二藤部は狼狽を隠し切れずにそう主張する。しかし…

「『金剛』の艦娘がリシュリューと共に降臨しているのが何よりの証拠です!!
第二次世界大戦中、リシュリューと金剛は何の接点もありませんでした。なのに艦娘が行動を共にするのはあまりに不自然です⁉
おそらく帝国政府は、金剛の降臨を試みたのでしょう。
そして、偶々日本に寄港していたリシュリューもそれにつられて降臨なされた。そうではありませんか!?」

ハイライトがほとんど失われた目で、大使は二藤部を見やる。

「まだ隠し立てするつもりですか?
…まさか、リシュリューを人質にするおつもりで?それとも…ッ⁉」

突如、大使の顔色が変わる。

「よもや、リシュリューのお体を使って何か人体実験めいたことをしているのではありますまいか⁉」
「そんなことはしていません!!」

大使の叫びに、二藤部首相も思わず声を張り上げて返答してしまう。

「仮にそんなおぞましいことをしているならば、フランス連邦共和国は国家の存亡も考慮の外として貴国に対して『総力戦』挑みかけます!!
4億を超える全フランス人が、最後の一人となるまでリシュリューを救うために戦い続けるでしょう!!!」

大使はハイライトが完全に失われた眼を見開きながら再び叫んだ。

516: モントゴメリー :2020/12/10(木) 00:23:00 HOST:116-64-111-22.rev.home.ne.jp
…本気だな。
二藤部はそう確信した。少なくとも、目の前の彼女は心の底からそう考え発言している。
そして、彼女の思考はFFR国民の「常識」から大きく逸脱はしていないだろう。

FFR国民がリシュリューに向ける「信仰」の強さを二藤部はよくわかっていた。
というより、政治や外交に携わる者で理解していない人間を探すほうが難しい。
リシュリューにもしもの事があれば、フランス人たちは大使の言葉通り『最後の一人まで』狂戦士となって戦いに赴くだろう。
現に、FFR本国では動きがあるようだ。
軍からの報告ではフランス国家憲兵隊の「国家憲兵隊治安介入部隊(GIGN)」と陸軍の「第1海兵歩兵落下傘連隊」
更には外人部隊の「第2外人落下傘連隊」と宇宙軍の「第1軌道空挺連隊」に非常招集が発令されたらしい。
オランダやドイツ、イタリアといったOCU各国からも同様の観測結果が連絡されてきているため、まず間違いない。
……FFRが保有する特殊部隊が勢ぞろいじゃないか。他人事だったなら、興奮しながらテレビにかじりつくのだけれども。
おそらく、FFRでは『日本がリシュリューの艦娘を拉致監禁している』とでもいった誤解が広まっているのだろう。
このままでは第三次世界大戦へまっしぐらだ。それだけは止めなければならない。

「大使殿。我々帝国政府にはリシュリューを害する意図は全くありません。
また、彼女の居場所も本当に知らないのです。現在、総力を挙げて捜索しておりますので
発見次第、貴方にお伝えいたしましょう。」
「…ならば、我々FFRからも人員を出しましょう。その方がお互い楽ではありませんか?」
「お断りいたします。どの様な理由があろうとも、同盟国でもない他国の軍隊を国内で活動させるわけにはいきません」

「フランス特殊部隊欲張りセット」の活躍は見てみたいですがね、と二藤部は続けて言った。

「とにかく、今回の件は我が国の国内問題です。我々が責任を持って対処します。必ずやリシュリューをFFRの皆様へお引き合わせしましょう」
「……そのお言葉に、嘘偽りはありませんね?」

政治の世界ではあまり聞かれない問いに対し、二藤部は一瞬どう応えるべきか逡巡してこう言った。

「『戦艦金剛に』誓いましょう」

軍艦に誓いを立てる文化はフランス人が世界に広めて以降、徐々に各国で使われ始めている。主に、相手がフランス人である場合に。

「…わかりました。『金剛』の名に敬意を表して、閣下のお言葉を信じましょう」

流石に「女神」の一柱の名前を出されればここは引き下がるしかない。
大使は今後、事態に進展があった場合の緊密な情報共有を改めて要請し、帰途についた。
しかし、この世界の混乱はいまだ収まる気配を見せない——

なお、同じころ佐世保にいる某高速戦艦4姉妹の長女はくしゃみをしていた。

517: モントゴメリー :2020/12/10(木) 00:26:01 HOST:116-64-111-22.rev.home.ne.jp
以上です。

635氏の作品内の
ニュースサイトでは在大日本帝国FFR大使が緊急で総理官邸を訪れ艦娘リシュリューの所在確認と引き渡しを求めるニュースがトップとなっている。

という描写からこの光景が思い浮かびました。
いやぁ、FFRの皆さんが
「こんな素晴らしい作品を創っていただいたならば、何かお礼をせねば失礼にあたる!!」
というのでなんとか特急で仕上げました。

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最終更新:2020年12月10日 15:18