791: 加賀 :2021/01/11(月) 15:28:44 HOST:softbank126243003159.bbtec.net
やめろ……来るな……


男は夢を見ていた。


多くの屍が行進する光景を見せられていた。屍達は徐々に男の方へ向かって来る。




やめろ……俺は……俺は……



屍が此方を見る。笑ったかは分からないが男は直感した。笑っていると。そして屍達は男に行進を続ける。




来るな……俺は……俺はァァァァァ!!







「俺は日本国防海軍元帥大将 橋本信太郎だぞ!!」

 目を覚ました時、そこは軍艦の医務室だった。

「………あれ?」
「あ、橋本艦長起きましたね。いやぁ風邪で倒れた時は驚きましたが……まぁ二、三日で退院でしょう」

 橋本信太郎は再び転生、橋本信太郎に憑依したのである。だがその憑依年数はまた繰り下がっていた。

「今度は1927年って……何でやねん……」

 今度は1927年になっていたのだ。なお、月については漢口事件が発生した4月3日である。この時の橋本は前年から『樅』型駆逐艦五番艦『梨』の艦長の職をしていた。

(今回も史実日本のようだし……皆、特に嶋田さんが来るまでやるしかないか)

 橋本は溜め息を吐きながらそう思うのであった。そして憑依者からの接触は意外と早かった。橋本が12月に呉鎮守府参謀に異動した時、東京の神楽坂にある小さな料亭に呼ばれた。その料亭はかつて憑依者達が談議をする場になっていた料亭であった。

「失礼します」
「やぁ橋本君、久しぶりだね」
「お久しぶりです橋本さん」

 橋本が襖を開けるとそこにいたのはかつて橋本と共に太平洋の海を駆けた近藤信竹と牧野茂がいた。

「近藤さん、それに牧野君まで……」
「ハッハッハ。今回は私も気付くのが早くてね……同志を探していたら『大和』型の設計図を艦本に突撃する牧野君を確保した具合だ」
「牧野君、まさかこの時代で『大和』型を……」
「憑依してから二週間で仕上げました。図面は頭に入っているので」
「古賀さんも憑依しているが今はジュネーブにいてね」
「ジュネーブ……軍縮の随伴ですね」
「あぁ」

 史実でも古賀はジュネーブ海軍軍縮条約の会談で随伴員として随伴していた。

「その古賀さんとも話していたのだが……『信濃』を戦艦として活躍させたいのだよ」
「『信濃』を……」

792: 加賀 :2021/01/11(月) 15:29:18 HOST:softbank126243003159.bbtec.net
近藤の言葉に橋本は目を見開く。『信濃』は戦艦では時代の波には間に合わないため空母として前回も前々回も活躍していた。それを戦艦としてである。

「……そうなると『信濃』の戦力化は急ピッチでやる必要はありますが……成る程、そのための牧野君であり『大和』型の設計図持ち込みですか」

 橋本は合点がいって納得したように頷く。橋本の言葉に近藤と牧野も頷いた。

「不沈戦艦『紀伊』のような話ですなぁ」
「流石に排水量12万トンはちょっとこの日本では無理があるかと……」
「やはり無理か?」
「いえ、作れる事は作れます。ですが場所がありません」
「旅順はどうかね?」
「可能です。ですがスパイとかを考えますとやはり国内でしょう」
「まぁまぁ。12万トンを考えればの話でしょう」

 話がずれてきたと思った橋本は話を戻させる。

「『信濃』の話はさておき……やはり決戦は沖縄ですか?」
「そうなるだろう」

 橋本の言葉に近藤は頷きながら日本酒をクイッと飲む。

「そのための布石は開戦までに整える。恐らくは陸軍にも同志はいる筈だからな」
「存在する前提はあれですけど……」
「そういえば橋本君、嫁さんはいないのか?」
「はぁ……この世界の自分はまだ結婚していないようで……」
「うーむ……少しズレた世界かもしれんな……」
「まぁいないならいないで気は楽ですし……」

 結婚願望はあるが恋愛まで発展しないかもしれないからむしろ気は楽だろうと橋本はそう思った。

「まぁいい。取り敢えずは今回も足掻こうではないか」
「それですな」

 斯くして橋本は動き出すのであった。なお、松田に関しては『特別水上機開発計画』なるものを艦本に叩きつけていたのを近藤に発見され保護した。
 また、前回・前々回と異なり別の者も憑依していたのが発覚した。

「まさか百武少将に憑依されているとは……」
「つくづく、人生とは何が起きるとは分からんよ」

 百武に憑依していたのは憂鬱世界で海保の南雲の下で働いていた者だった。

「開発計画は此方もやりましょう。何せ今は軍令部第一班長ですからな」
「ありがとうございます」

 近藤は直ぐ様百武に『信濃』の話をし、百武も全面的に協力する事を告げるのである。
 明けて1928年、3月15日に日本共産党を一斉検挙する三・一五事件が、5月3日には済南事件が、6月4日に奉天で張作霖爆殺事件が発生する中、橋本や近藤達は水面下で兵器類の開発計画等を軍令部に提出したりする。

「ま、今のうちに提出しておけば追々と予算は出るだろう」
「出ると信じてやるしかないですなぁ」
「演習して戦艦部隊を撃滅させたら出そうですよね。例えば瑞雲で……」
「瑞雲から離れろ」

 そう話し合う面々であった。

793: 加賀 :2021/01/11(月) 15:30:25 HOST:softbank126243003159.bbtec.net
短いながらもプロローグと一話の兼任投稿となります。
今回からは百武源吾も参戦となります。
さてさて『信濃』は果たして戦争中に間に合うのか……

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最終更新:2021年01月14日 23:02