435: ham ◆sneo5SWWRw :2021/03/05(金) 17:47:15 HOST:sp1-66-105-220.msc.spmode.ne.jp
戦後夢幻会ネタ ham世界線 マレー沖夜戦 強行突破


(この戦い・・・負けだな)

レパルスのテナント艦長は、心の中でそう断じた。
テナントは、かつてダンケルクで駆逐艦を率いて友軍の救助に向かい、自ら陸に上がって避難誘導を行い、その功績で勲章までもらっている。
そんな負け戦というものを直に見てきた彼だからこそ、今目の前で行われている海戦から、負け戦の空気が読み取れてしまった。
既に先頭を征く旗艦たるプリンス・オブ・ウェールズ(POW)は速度を大きく落とし、黒煙で覆われ始めている。
対して、日本軍はトーゴーの弟子らしく、重巡部隊がT字戦法で頭を押さえつつ、右舷方向から水雷戦隊が突撃してきている。
こちらの駆逐隊が阻止に動いてるが、相手は倍以上で軽巡が複数隻居る。
勝てる確率は望み薄だろう。
とすれば、いかに少ない被害でシンガポールに戻るかしかないはずだ。

「フィリップス提督に独自行動の許可を求めてくれ」

先ほど敵機がPOWに突っ込んだ後、提督の無事を確認している。
ゆえにPOWに続いているレパルスだが、頭を押さえられているこの状況下では共倒れが目に見えている。

「プリンス・オブ・ウェールズより入電。
 『レパルス』『フォーミタブル』は、シンガポールへ針路を取れ。事後はパリサー参謀長の指揮下で行動されたし。
 それまで両艦の独自行動を許可する。駆逐隊は全力でこれを掩護せよ。」

事実上の撤退命令だった。


重巡部隊の最後尾につく最上は意気高揚としていた。
最初は重雷装艦が居るとはいえ、巡洋艦で戦艦に挑むことに戸惑いが無いとは言えなかった。
特に第7戦隊司令官の栗田健男少将は、「軍令部から『第七戦隊を大事にしてください』と言われている」と消極的な姿勢を取っていたが、
「『大事にしてください』と言われて後ろにおるやつがあるものか。近衛師団も乗る船団をほっぽり出すわけにはいかん」という小沢の一言でしぶしぶ承諾していた。

しかし蓋を開けてしまえば、初手で先手を打たれたものの、陸攻の献身的な犠牲により今や彼の不沈戦艦は大炎上している。
これで士気が上がらないわけではなかった。
陸攻搭乗員の覚悟を無駄にしないためにも、ここで2隻を沈めなければならない。
その思いから、曽爾艦長の号令、砲術長の射撃指揮ともに熱が入る。
水雷長も魚雷発射を進言しているが、最後尾の最上からはまだ20,000m以上先居る。
事前の会議でも酸素魚雷の長射程を活かした遠距離雷撃が第9戦隊を中心に進言されたが、
史実のスラバヤ沖海戦の顛末を知る小沢は、遠距離での魚雷の航走時間から来る問題を理由に『1万m以下でなければ発射してはならない』と各艦に徹底していた。
そのために最上は、魚雷を撃てずにいた。
とはいえ、POWの火災、そして英駆逐艦を蹴散らしている水雷戦隊を見るにそれも必要ないかもしれない。
このまま不沈戦艦撃沈の大金星を挙げられると油断していたその時、見張員から叫んだ。

「敵戦艦1、本艦左舷後方を抜けようとしています!」

436: ham ◆sneo5SWWRw :2021/03/05(金) 17:47:48 HOST:sp1-66-105-220.msc.spmode.ne.jp
それはレパルスだった。
独自行動を開始したレパルスは、西側で南下しながら同航戦を行う重巡部隊と北側から迫る水雷戦隊を前に、快速を活かして両部隊の間を強行突破して脱出を試みた。
両部隊からの挟撃が懸念されたが、重巡部隊は今大火災を発生させているPOWに砲撃を集中させているし、水雷戦隊も味方駆逐隊が抑えている。
チャンスは今しかなかった。
位置を知られるわけにはいかないため、砲撃も一切せずに突破を試みようとした。
幸い、日本側で唯一レーダーを搭載している鳥海では、初期型の不具合ゆえか探知されなかったが、最上の見張員は艦が立てる白波を目敏く発見した。

曽爾艦長は旗艦へ知らせると同時に砲撃を中止し、直ちに機関一杯に増速すると共に面舵を取り、接近しての同航戦を試みた。
最後尾の最上は本来、先頭艦に続かなくてはならないが、レパルスの位置からして、頭を抑えなければ逃がしてしまう恐れがあった。
そのため、最上単独でレパルスを抑えようした。

回頭の完了し、レパルスとの距離が1万mを切ったところで最上は、探照灯を照射し、砲雷撃を開始した。
距離1万mともなれば、主砲はほぼ水平に近い状態で発射される。命中率は格段と上がるわけだが、逆に敵も同じであった。
レパルスはいくつか被弾してレーダーを破壊される等したが、直ちに反撃。
最上は艦橋と後部マスト、後部の4,5番主砲塔に被弾し、炎上した。
後部主砲塔は完全に破壊され、曽爾艦長以下、艦橋要員に死傷者が発生し、最上は漂流し始めた。

最上を撃破したレパルスは、左から横切る形に居る最上を避けるため、取り舵を切った。
最上の右舷側で反航戦をしつつ、逃げ切る魂胆であった。
しかし、直進しているかと思われた最上だが、実は右に変針していた。
後部に集中して被弾した影響に加えて、艦橋に直撃して操舵員が倒れた際、舵をわずかに右に切ってしまっていたのだ。
大慌てで面舵を切って避けようとするレパルスだが、時既に遅く、レパルスと最上は衝突。
艦首を潰す損害を受けた最上は、潰れた艦首の抵抗と浸水拡大を抑えるために機関出力を落としたことから、5ノットまでに落ちてさらに漂流。
レパルスも右舷側の艦首付近に亀裂を生じて浸水し傾斜を起こす。
これは直ちに隔壁を閉鎖し、左舷側に注水して持ち直したが、この影響でレパルスは23ノットまでに低下した。

最上の急報を受けた小沢は、第7戦隊の残る3隻にレパルスを追撃するように命じた。
今だ魚雷を撃ち込んでいないが、陸攻の雷撃で15ノットに落ち込んだPOWは、重巡6隻による20.3cm砲60門の集中砲火で艦上構造物と主砲塔に多く被弾。
結果として、四連装の第1主砲塔が故障を起こす事態となり、最早35.6cm砲2門と13.3cm砲4門だけで相手をしている状態だ。
煙突周辺部での被弾で排煙効率が落ちたため、さらに速力が落ち始め、火災も交えて乗員の死傷者も急増し、さながら日本海海戦のロシア艦隊のごとく死地の様相を示していた。
最早、POWの運命は決したと言えよう。
そう判断した小沢は、鳥海と摩耶で対処する一方で、残るレパルスに第7戦隊を当てることとした。

第7戦隊の栗田司令官は直ちに180度一斉回頭を麾下に命じ、熊野、鈴谷、三隈が同時に面舵を切って、180度回頭を始めた。
回頭を終えた第7戦隊は、旗艦である熊野が前に出るため、鈴谷、三隈を追い越した頃、上空で弾着観測をしている零式水上観測機から急報が届いた。

「南方より敵機来襲!」

フォーミタブルが放ったアルバコアであった。


以上です。
最上の被弾は司祭になるために当初から既定路線でした。
なお、書いていたら最初レパルスと衝突させるつもりが、なぜか三隈と衝突させてしまっていたので、強引に直しました。
そのため、少し無理が有ったり、おかしかったりするかもですが、そこはご愛敬で(笑)
でも、三隈との衝突シーンの文章のデータ、残しているんだよなぁ・・・(ぼそ

437: ham ◆sneo5SWWRw :2021/03/05(金) 18:28:21 HOST:sp1-66-105-220.msc.spmode.ne.jp
436のwiki掲載に際してですが、最後のソードフィッシュをアルバコアに変えてください。
この当時のフォーミタブルの艦載機はアルバコアだった・・・

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最終更新:2021年03月16日 11:20