441: 加賀 :2021/10/09(土) 23:52:24 HOST:p4163136-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp
「山口司令の決断は早かった。三空母が被弾して僅か三分後には電文を発していたわ」
「『我、航空戦ノ指揮ヲ取ル』でしたね?」
「えぇ。だからあの時の被害は三空母だけで抑えられたわ」







「飛龍より入電!! 『我、航空戦ノ指揮ヲ取ル』」
「やったわね」

 瑞鶴が防空指揮所から艦橋に移動した時、通信兵がそう読み上げたのを聞いて瑞鶴はニヤリと笑った。米軍の攻撃は幾分か終わり飛龍は直ぐに風上に艦首を向けた。
 三空母が炎上する中の0810、飛龍、加賀、瑞鶴、雲龍は敵機動部隊への第二次攻撃隊を発艦をさせたのである。

『飛龍』
 零戦12機 九九式艦爆18機
『加賀』
 零戦12機 九七式艦攻27機
『瑞鶴』
 零戦9機 九九式艦爆9機 彗星9機
『雲龍』
 零戦9機 九七式艦攻18機
 誘導 一式艦偵2機



「この時の攻撃隊は指揮官が加賀さんの橋口少佐。零戦隊も志賀大尉、艦爆は飛龍の小林大尉が率いていたわ」
「確かその時出せた最高級のパイロット達と……」
「そうね。もう少し待てば艦爆と艦攻も二個中隊ずつは用意出来たけど山口司令は時間を優先したわ」

 瑞鶴はまた新しくタバコに火を付けるが青葉は瑞鶴にと用意していた日本酒を取り出した。

「此方にします?」
「深酔いするからやめておくわ。呂律が回らなくなるしね」
「瑞鶴さん、酔うと泣きと吐きますからねー」
「それは言わないで……」





「見つけたぞ」

 攻撃隊は一式艦偵の誘導で米機動部隊に到着する事が出来た。零戦隊は既に米グラマンと交戦している。

「全軍突撃せよ!!」

 橋口機は『ト連送』を発信、『ト連送』を受信して先に速度を上げたのは瑞鶴から発艦した江間大尉率いる彗星9機であった。

「アメ公め、空母8隻とは大盤振る舞いじゃねーか」

 米機動部隊は正規空母5隻、護衛空母3隻の7隻だった。江間大尉は正規空母を優先して突撃した。4機と5機に分かれ新戦法である編隊爆撃で攻撃を開始した。狙ったのは『ヨークタウン』『ワスプ』であった。彗星隊は対空砲火をものともせずに腹に抱えた500キロ爆弾を二空母に叩きつけたのである。





「彗星隊は見事その役目を果たしたわ。そして攻撃隊は攻撃を開始するけど……米機動部隊の対空砲火は熾烈を極めていたわ」





「先に二空母を叩くぞ!!」

 小林大尉の飛龍隊は一個中隊に分かれながら急降下を開始する。だが飛龍隊は対空砲火で11機を攻撃前に喪失、残った小林大尉機以下はそれでも腹に抱えた500キロ爆弾を二空母に叩きつける事に成功する。だが小林大尉も投下して離脱中に対空砲弾をマトモに食らい爆発四散した。

「クソッタレが!?」

 『雲龍』隊の艦攻隊を率いる楠少佐は攻撃目標を付近にいた護衛空母ーー『コパヒー』に切り替え突撃、合わせて6発の魚雷を叩き込む事に成功し轟沈させるのである。





「結果として第二次攻撃隊は空母『ヨークタウン』護衛空母『コパヒー』を撃沈させる事に成功するけど被害は酷かったわ」
「……………」
「零戦4機、九九式艦爆19機、九七式艦攻22機が撃墜されたわ。その中には小林大尉等のベテランパイロット達も含まれていたわ」
「……ッ………」

 青葉は瑞鶴の雰囲気に息を飲む。あの海戦にしか分からない心理なのかもしれない。

「友永大尉の第三次攻撃隊も第二次攻撃隊が発艦した後の一時間半後には出せたわ」

『飛龍』
 零戦6機 九七式艦攻18機
『加賀』
 零戦9機 九九式艦爆27機
『瑞鶴』
 零戦12機 九七式艦攻18機
『雲龍』
 零戦9機 九九式艦爆18機


「けど、第三次攻撃隊も被害は多かった。第三次攻撃隊は空母『ワスプ』護衛空母『ボーグ』『ロング・アイランド』を撃沈し『サラトガ』『ホーネット』『エンタープライズ』を中破させたわ。その代償として友永大尉、小川大尉らのベテランパイロットを含めた零戦5機、九九式艦爆17機、九七式艦攻29機を喪失したわ」
「それでも……その犠牲でも……」
「えぇ、奴等は諦めなかった。此方に前進……『エンタープライズ』が前進している事で薄暮攻撃を仕掛けるために第四次攻撃隊を編成途中だった。何とか零戦14機、九九式艦爆11機、九七式艦攻13機を揃える事が出来た時……奴等は上空にいたわ」

442: 加賀 :2021/10/09(土) 23:52:57 HOST:p4163136-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp
「第四次攻撃隊の発艦は32分後になります」
「ん」
「敵機来襲ゥ!!」
『何!?』

 厚い雲の切れ目から現れたのは約20数機のSBD。上空警戒の零戦隊が直ちに向かうが交代途中だった事もあり僅か6機しかいなかった。それでも零戦隊はSBD隊を蹴散らそうとする。それを潜り抜けたSBDは相次いで艦隊の先頭にいた空母ーー『飛龍』に襲い掛かったのである。

「敵機直上ォォォォォォォォォォォォ!! 急降下ァァァァァァァァァァ!!」
「面舵イッパァーイ!!」






「『飛龍』は軽快に回避運動をしてた。『飛龍』ならあの悲劇を回避出来る筈……誰もがそう思った。でも………」





「更に急降下ァ!?」
「イカン!?」

 まだ投弾していなかった6機のSBDが隙を突いて『飛龍』に急降下した。『飛龍』は2機目までは回避に成功するも残りは回避出来なかった。





「『飛龍』は四発が命中したわ。しかも二発は中部と後部エレベーターに突き刺さって命中、準備していた第四次攻撃隊は火の海に包まれたわ」



「山口司令、『飛龍』は最早……」

 加来艦長はゆっくりと口を開き山口に現状を報告する。

「……駄目か?」
「機関室との連絡が絶ちました。総員戦死と断定します。他にも格納庫も火災が収まりません。このままでは爆沈する可能性もあります」
「……良かろう。総員退艦を発令せよ」
「………………ハッ!!」

 そして『飛龍』艦内に響き渡る。

「総員上甲板!!」
「総員退艦!!」
「総員上甲板!!」

 『飛龍』を生還させようと努力していた乗組員達だが総員上甲板の発令に涙を流しながら上甲板に集合、そのまま総員退艦を開始するが山口は叫んだ。

「メソメソするな!! 四空母を喪失したが、周りを見渡せ。お前達はまだ生きている。雪辱の機会を与えられたのだ。無論、それはこの俺もだ。良いか? 次は必ず米機動部隊を撃滅させ靖国へ逝った戦友達に良い報告をするぞ!!」
『オオォォォォォ!!』
「艦長、君も退艦してもらうぞ」
「司令、しかし……」
「責任は全て俺にある。なに、松田が言っていたじゃないか? 『伊達と酔狂』でこの戦争をやっているんだからな」
「……フフッ、そうですな」

 山口の言葉に加来は笑い、二航戦司令部は全員『飛龍』から退艦をするのである。そして『飛龍』は翌0425に第十駆逐隊『巻雲』から発射された酸素魚雷で雷撃処分とされたのである。





「こうしてMI作戦は中止、南雲中将は第七艦隊と合流して再度米機動部隊を追撃しようとしたけど艦載機は少なかったから断念して主力の一艦隊と合流して内地に帰還したわ」

 瑞鶴はそう言って話を終えるのである。

「これが私が知る限りのあの時のミッドウェー海戦の全容ね」
「成る程成る程……これは良い資料の作成になりますね」

 青葉はそう言いながらメモ帳に書き込む。

「あ、それと気になる点が一つありまして……」
「何?」
「加賀少尉とはどうなったのですか?」

 ニヤニヤする青葉に瑞鶴はカァーっと顔を赤くする。

「わ、分かってるクセにそんな事を言うな!!」
「え~、青葉分かんないですー。出来れば瑞鶴さんの口から聞きたいなー」
「こ・の・ク・サ・レ・ブ・ン・ヤ・がー!!」
「うわぁー!? 『ワレ、アオバ。ワレ、アオバ』!!」

 愛弓を握りしめ逃げる青葉に瑞鶴が矢を撃ち込む。そんなドタドタしてる部屋に入ってくる一人の男がいた。

「ただいまー……って何をしてんだ?」

 その話題の人物であった加賀少尉ーー加賀海軍大将は首を傾げながら二人の追い駆けっこを見守るのであった。
 なお、資料の作成については完成しまた青葉新聞で瑞鶴の甘い恋事情が前中後と三部連載されしまいには後輩(銀鶴ことイントレピッドと葛城)に囃し立てられた瑞鶴が青葉を追いかけ回すのは然したるオチである。

446: 加賀 :2021/10/09(土) 23:58:53 HOST:p4163136-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp
てなわけでズイズイの昔話とも言える後編でした。
青葉との遣り取りは僅か五分で出来たのは凄い僥倖だった件。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2021年10月11日 22:19