937: 弥次郎 :2022/03/13(日) 15:19:45 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「角笛よ、黄昏に響け」5


 ギャラルホルンの用意した特別部隊。
 それは、禁忌とされていた技術を---阿頼耶識を、MAを、あるいは無人機を大々的に導入した部隊だった。
 300年前の厄祭戦以来、禁忌とされ、忌避されてきた人体改造の技術。あるいは厄祭戦の被害が拡大した元凶と言えるMA。
いずれもが、危険さゆえに封じられ、しかしそうであるがゆえに手放せなかったギャラルホルンは密かに研究を続けていたのだ。
それらの技術を、過去の産物を独占していた彼らもまたその「力」に魅入られ、興味を断ち切れずにいたのだ。
 そして、地球連合というとてつもない勢力との戦いにおいて、その力はついに大義名分を得て世に再び出てくることとなったのだ。

 しかし、一つ足りないピースが存在していた。
 人間である。
 阿頼耶識システムというのはダイレクトマン-マシンインターフェイスシステムでしかない。
機械側の用意ができても、その施術を受けて、実際に操縦を担う人間が存在しなくては何ら意味がないわけだ。
当然のこと、ギャラルホルンの人間は多くが地球出身者ばかりであり、人体改造に対する忌避感が根強い。
つまり志願者を求めたところで、集まるはずもない。そもそも阿頼耶識の施術は適正期の子供でさえも成功率3割。
そんな危険なモノに正規の軍人に受けさせて万が一があっては言い訳もできないわけである。
 だから、極論死んでもいい軍人を使うことを決定した。具体的に言うと、火星支部の人間、そしてギャラルホルンと癒着していた犯罪者達だ。
元々腐敗著しく目こぼしできなくて極刑が決まっていたコーラル・コンラッドら元火星支部上層部。
あるいは火星をはじめとした圏外圏で企業連などがとらえていた元海賊やならず者、武装集団の人間。
更には地上に連れてこられ、裁判を待っていたギャラルホルンがとらえていた犯罪者などなど。
元々の段階でもはや弁解の余地もないほどに重罪の確定した彼らは、それこそ、人としての扱いをしなくてもよいとされたのだ。

 そして彼らは強制的に阿頼耶識の施術を、それこそ、通常の阿頼耶識を超える人体改造施術を受けさせられることとなった。
極限まで肉体と機械を繋ぎ、尋常ではないスペックを発揮できるようにするための、もはや人間をデバイスとして扱うという非道。
恩赦の機会という名目こそあったが、ほぼ使い捨ての、死にに行かせるようなものでもあったのは確かだ。
施術後はまともに人間として生活できるかどうかも怪しいほどの大手術によって強引に阿頼耶識に適合させたのである。
彼らの生命維持活動は外部からスイッチ一つで如何様にもできるという状態であり、まさしく生きた部品にまで墜ちていたのだ。

 無論のこと、その過程で犠牲者も出た。だが、それはギャラルホルンにとっては単なる数字上の消耗でしかなかった。
元より重罪の決まっていた犯罪者だ。死刑にして後始末に時間をとられてしまうよりも、よほど有効活用できる、と判断されたがゆえに。
斯くして、2000名近くいた人間(材料)を実験や試験のために酷使して、研究は急速に進められた。
そして、最終的に生存者を300名ほどにまで減らしながらも、阿頼耶識対応のデバイスとして完成させることができたのだ。
そして、さらに補充された材料に対して施術者を施し、さらに数を増した。およそ500名。恩赦につられ、人を捨てさせられた犠牲者であった。

 これらはギャラルホルンにおいて研究されていた阿頼耶識対応のMSを量産化した「グレイズ・ギニョール」への搭載がすぐに決定された。
極限まで反応速度と精密動作性を追求し、白兵戦において高い能力を発揮するように用意されたその大型MSは、極めて高い評価を受けた。
単独でもMS数個中隊に匹敵する戦闘力を持ち、シミュレーション上とはいえMAとさえ戦えたというのはギャラルホルンの自信を深めた。
 さらに、量産性が良いとは言えないギニョールを数的に補うグレイズの改造型「グレイズ・ブロウズ」も量産された。
グレイズと大差ないように見えるが、間接の可動域や耐久性、主機出力などを改造したそれは阿頼耶識と合わせグレイズの完全な上位互換と言えた。
おまけに「グレイズ・ブロウズ」はギャラルホルンの名家ザルムフォート家が所有するガンダム・ダンタリオンの装備などが取り込まれている。
即ち、通常のMSを超える大型腕部と装甲システムによる戦闘能力の強化だ。マイナーチェンジとはいえ、阿頼耶識との相性は抜群であった。

939: 弥次郎 :2022/03/13(日) 15:21:00 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

 最も、専用装備の生産性の悪さからネイキッドモードで送り出された機体の方がはるかに多かった。
 それでも阿頼耶識適合機のブロウズは100以上送り出されて中核を担うことになったのであった。
 そして残りの阿頼耶識出力デバイスは、専用の改造を施す時間がなかったために通常のグレイズに搭載された。
如何に量産性を意識したネイキッド・ブロウズにしても、やはりコストや整備性などの観点から逃れられなかった。

 ともあれ、阿頼耶識に対応したMSをかなりの数揃えることに成功したギャラルホルンは、これを切り札とした。
らに、暴走のリスクがあると危険視されていたMAの制御機構としてそれらを搭載するということも決定した。
人と機械をダイレクトにつなぐことにより、訓練などをほとんど経ずとも、おのずから自分の体として十全に使えるようになるのだ。
元より人間としての形を失っているのだから、人間の形状以外の機械につなごうと問題なかろうというわけである。
斯くして、人類の僕として貶められたハシュマルタイプ、アリエルタイプ、オファニムタイプらが少数ながらもロールアウト、戦力化された。
 さらにはそのMAと連動する形となる無人兵器「プルーマ」の制御や連動を行う機構も合わせて使うことによる集団戦闘への適合も行われた。

 無論、これらに対して批判の声がなかったわけではない。
 しかしながら、ギャラルホルンにとっては地球連合への恐怖の方が上回っており、それらの声は事実上黙殺されている。
何よりも、ギャラルホルンにおいて現状トップであり最高権力を握っているイズナリオ・ファリドの後押しが何よりも効いていた。
元よりこのエドモントン攻防戦において地球連合を下し、ギャラルホルンの武威ここにありと示さねば終わりなのだ。
これまでの失敗などと合わせ、ギャラルホルンはその責任を取らされて解体などの処分を受けることになるだろう。
 斯くして、ギャラルホルンはかつて駆逐し、隠滅し、秘匿したそれらに自ら使うという禁忌を犯すことになったのだ。


  • アーブラウ領 エドモントン郊外 ギャラルホルン陣地


 遊撃戦力による浸透突破、艦砲射撃、さらにMSやMTの大量投入。これらを以てギャラルホルンの陣地は穴を穿たれた。
 だが、ギャラルホルンとて予備戦力については用意していたし、こういう押し込まれる状況になったからこそ、特別部隊を出すことにしたのだ。
ここで突入部隊の市街地への侵入を許せば、MSなどのギャラルホルンの抱える戦力の過半が手を出せなくなる。
いや、市街地にMSを送り込むことはやろうと思えばできるが、その影響が計り知れないほど大きいのだ。
エイハヴ・ウェーブだけではない、MSという巨体が暴れることによる物理的被害は尋常ではない。
如何にアーブラウがある程度の被害を許容しているとはいえ、そこまでやってはおしまいだ。
 そういった経緯を経て、前線指揮官であったマクギリスが出撃直前に命じた通り、ギャラルホルンの作戦司令部は特別部隊の出撃を命じたのだった。
防衛ラインの最後方、秘匿されていた格納庫から真っ先に出撃したのはMA群だった。
MAは今にも突破されそうな最前線、エドモントン西部の戦線へと真っ先に投入されたのである。

『敵陣値より新たな敵影を確認……』
『大型兵器……いや、MAか?』
『ライブラリ照合あり……嘘だろ、本当にMAだ!この世界における殺戮兵器だぞ!』
『いかん、攻撃が来るぞ!一般機は下げさせろ!防御態勢!』

 そんな地球連合および火星連合軍の混乱などをしり目に、獅子のようなMA「アリエル」はそのビーム砲を解き放とうとしていた。
前衛にはまだ味方のMSなども存在している。だが、そんなことは大した問題などではなかった。
少なくともMAに搭載されている阿頼耶識対応出力デバイス---改造されつくした人間とそれに指示を出す管制官にとっては。

『おい、何だよアレ!』
『味方なのか……?』
『新型のMWとか聞いていたが……』
『やばい、射線上に味方がまだいるぞ、対比させろ!』

 現場の兵士たちにとっては、突然の救援。しかし、その行動はとてもではないが味方を考慮していなかった。
チャージされていくビーム砲の射線上にまだ味方がいることに全く関心を示していないのは傍目からも分かった。

『おい、誰だか知らんが、攻撃を止め……っ!』

 一機のグレイズがアリエルの傍に近づいて近距離通信を試み、友軍の退避まで待つように促そうとした。
 だが、その返答は苛烈だった。尾部に装備された蛇腹剣による、強制的な排除だったのだ。反応すら間に合わなかったそれは、グレイズを砕き、吹っ飛ばす。
まるで、巨大な獣が集ってきた虫が邪魔だから、というような、そんな無造作な一撃だった。

940: 弥次郎 :2022/03/13(日) 15:22:00 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

『な、何やっているんだよ……味方だろう!?』
『どうなっているんだ……』

 混乱する彼らをしり目に、ついにアリエルタイプ達はその砲撃を放つ。
 都市などをまとめて焼き払うことも前提としたその出力のビーム砲は、刹那を通り越して地球連合軍の集団へと迫った。

 だが、それに対応したのは前衛のMT隊だった。後方からの指示を受けたレイヴェルは一気に集合。
 互いを足場とすることで陣形をくみ上げ、一つの壁のようになっていく。さらにはそこにMSなども加わってシールドを構えた。
 そして、バリアシステムを全力で稼働させる。元々ギャラルホルンに処分を任せる前に解析等を済ませていたのだ。
そのMAがどのような挙動をとり、どのような攻撃手段を持っていて、それに対抗するためにはどうすればよいかをよく知っていた。
 刹那、激突。
 展開されたバリアはビームに対して垂直に展開された。下手に丸めると後方に逸らされて被害をもたらしかねない。
かといって反射させるように展開すれば今度はビームがエドモントン市街地を焼き払ってしまいかねない。そういう判断だった。
果たして、それらのビームは見事に逸らされていった。MAも防御されていると分かっているから全力で照射するが、それでも防御は揺らがない。

『……』

 そして、照射が終わり、しばし戦場に沈黙が下りた。
 MTとMSによる防御陣形は見事に後方を守り切った。逸らされたビームで地面が穿たれはしたが、それだけだ。
不意打ち気味に出現して攻撃を仕掛けたMAの砲撃は見事に防がれてしまったのだ。バリアはみじんも揺らんでいない。
 だが、MAは驚かない。機械と一体化したパイロット=デバイスは即座の判断で格闘戦へと移行する。
 巨大なクローを備えた四肢が力強く地面を蹴ると一瞬で肉薄してくのだ。

『させない……!』

 だが、まとまってとびかかろうとするその集団は上から襲い掛かってきた機体---ネクストによって強引に足止めされる。
セントエルモス所属のネクスト3機が補給を終えて戻ってきたのだ。それぞれが格闘兵器を構え、上空から強襲。
そのクローや巨体がバリアと激突し、一瞬硬直したタイミングを見事に狙い、武器で串刺しにしたのだ。

『まだ動くか……!』

 だが、ウアス・ロッドで貫通されながらももがくようにしてアリエルタイプは振りほどこうとする。
 生物的な、文字通り生きているかのような動きの中で、ビームをまき散らし、テールブレードを振り回してカノプスを振りほどこうとするのだ。

『邪魔だ……!』

 襲い掛かるテールブレードを、腕部のUナノマシン装甲を変化させて形成したKPビームサーベルで一瞬で斬り飛ばす。
さらにOBを起動させ、力で強引に地面へと押し付けていく。それに必死に耐えるアリエルタイプだが、やがて地面にめり込み、磔にされた。
それでもなおもがき、威嚇するように咆哮を上げる。

『おしまいだ』

 だが、その動きが止められたことはイコールで死を意味する。
 KPビームライフルを構え、カノプスは何のためらいもなく引き金を引いた。
 いかにMAの装甲と言えども、根本的に相性の悪いコジマ粒子の弾丸を防ぐには至らない。
まして、どこに中枢があるかわからないという判断から全身を打ち抜かれてしまったのだから、最早致命傷だ。

『すごい……あの怪物を一瞬で……』
『他の奴もだ……』
『やったぞ……』

 だが、セントールの意識は次の敵へと移っている。
 押し寄せてくるのは大量のグレイズだ。
 だが、明らかに動きが違う。俊敏に、生物的に、これまでとは明らかに違う気持ち悪い挙動をしている。
 さらには、グレイズをそのままスケールアップしたかのようなモデルまで存在していた。

『……まさか、な』

 試しに、KPビームライフルを一発はなってみる。見え据えた一撃だ。一瞬で着弾するとはいえ、避けられないことはない。
 そして、その標的となったグレイズは、銃口が向けられた次の瞬間には回避運動に移っており、後続のグレイズもそれに合わせて俊敏に逃れていた。

『ブラフマン、少々まずいことになった。相手は阿頼耶識を搭載したMSを投入してきている、それも大量にな』
『は……?』

 それは、何度となく三日月たちとMSでの訓練をしたからこその断言。それしか証拠はないが、自信はあった。

『かなりの数繰り出してきた……このまま対処に移る』

 そして、後続の鉄華団やタービンズのMSの先陣を切って、ネクストたちはMSの群れと衝突した。

941: 弥次郎 :2022/03/13(日) 15:23:34 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

  • ピュタゴラス級ISA戦術対応全域航行戦艦「エウクレイデス」指揮所


 ブラフマンは、セントールの報告を半ば信じられなかった。
 阿頼耶識。それについてはよく知っている。このP.D.世界におけるマンマシンインターフェイスシステムだ。
特大のリスクと引き換えに高い能力を得られるという施術。しかし、それは子供にしか使えないはずであった。

「まさか少年兵を……いや、だが……」
「あの動きは間違いなく阿頼耶識のモノだろう。まるで人と機械を融合させたような、そんな反射だ」

 クロードも信じがたいのだが、現実は変わらない。
 モニターに映し出される映像。それは鉄華団やタービンズのMSと会敵し、戦闘に入ったグレイズ達の動きを追っていた。
全体として、セントエルモス戦力が優勢だ。武器の差や機体性能の差が存在しているのだから。
 だが、同時に拮抗もしている。これまで簡単にやられていたグレイズとは異なり、明らかに攻撃を先読みし、回避し、場合によっては受け止めるなどしている。

 大型のグレイズに至っては、その大きさによるパワーを生かしてか、強引に拮抗状態に持ち込んでいる有様だ。
そのサイズに合わせた武装と質量でバルバトスは動きを釘づけにされているほどである。当然三日月は反撃を行う。
しかし、躱されているのだ。瞬間的な反応や回避は生物的で嫌悪を覚えるほど人間的で、しかし機械的に精密すぎた。
これまで容易く屠られてきたギャラルホルンのパイロット達とは思えないほどに。

「ブラフマン指揮官!各方面にてMAおよび新型のMSが多数確認。
 カラール自治区などで回収されたMAと同系と推測されます!」
「……ギャラルホルンめ、アレを使いこなせると考えたか!」
「通常の、尋常な戦力では抑えられないと判断したのだろうな」
「ああ……だが、予定は変わらん。そろそろ突入部隊を市内に入れたほうがいい。
 軌道降下部隊に敵の主力の対処は任せ、セントエルモス戦隊は突入の準備するように各機に通達!
 火星連合の戦力はいったん下げさせろ!流石に阿頼耶識のMSやMAなんかの相手はきつすぎる!」
「了解!」

 だが、対処する方法は決まった。ブラフマンはすぐに指示を更新し、各所への対応を命じていく。
 阿頼耶識搭載のMSを一体どうやって確保したのかはさっぱりわからないが、今はそれを排除することを優先すべきだ。

「鉄華団、ハシュマルタイプとエンゲージ!これは……グレイズを組み込んでいます!映像回します!」

 モニターに映ったそれは、鳥のような外見のMAに無理やりグレイズの上半身を繋げたような、そんな歪な姿の兵器だった。

「続いて鉄華団から報告!ガンダム各機に異常発生!MAに対して反応を示しています!」
「ガンダム・フレームに宿っている人工知能の意思か……MAを排除するために動こうとしているな。
 無理に対処させるな。丁度サイコガンダムの小隊が控えているなら交代させてやれ」
「了解!」

 このまま対処させてもよかったかもしれない。
 だが、ガンダム・フレームの完全な能力を発揮させた場合どうなってしまうのか未知数なところが多いのも事実だ。
シミュレーション上では連合の標準的なMSにさえ肉薄しかねないとんでもないスペックを発揮できると計算されていたのだ。
過剰すぎる力はリスクが伴うという判断から意図的にリミッターをかけておいたが、まさかガンダムが自力で抜けてくるとは。

(まだまだ分からないことだらけ、か)

 ともあれ、戦局は楽ではなくなった。敵の切り札的な戦力であろう阿頼耶識対応のMSに、改造されたMA。
300年前の厄祭戦における遺産を遠慮なく投じてくるということは、イレギュラー要素となりうるものだ。
相手の実力が途端に未知数になったのは厄介。勝てないこともないが、何が起こるかわからないのは、相手が強いことよりも厄介だ。
 この戦い、思った以上に苦戦するかもしれないという予感が、ブラフマンの脳裏をよぎった。

942: 弥次郎 :2022/03/13(日) 15:24:13 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

  • アーブラウ領 エドモントン郊外 ギャラルホルン陣地 某所



 特徴的な家紋---北欧神話に登場するフギンとムニンのそれを刻んだグレイズの集団が移動していた。
 指揮官機を筆頭としたそれは、市街のぎりぎり外側、エイハヴ・ウェーブの影響が及ばないラインを沿うようにして移動。
持ち場であったエドモントン南部防衛ラインから西部防衛ラインへと移動していた。それもかなりの速度だ。

 現状、ギャラルホルンの戦線は入り乱れていた。
 西部方面からの一点突破かと思われたが、MSの軌道上からの投入という搦め手でギャラルホルンの戦力の分散と釘付けを実施されていた。
その対抗のためもあり、また前面の戦力が溶けていったということもあり、特別部隊の出撃なども遠慮なく行われていたのだ。

 そして、同時に出撃が許可されたのが、セブンスターズの戦力であった。
 通常戦力や阿頼耶識を施された特別部隊よりも失いたくない戦力であり、その為に出場は意図的に遅らされていたのだ。
ギャラルホルンとしてはこの戦いには当然勝たなくてはならないし、勝つつもりであった。
 しかし、勝った時にまとめ役であるギャラルホルンの上層部、セブンスターズが残っていないでは元も子もないのである。
それゆえの温存。精鋭部隊とはいえ、いきなり投じるとそれだけリスクが伴うというわけであった。
 マクギリスやガエリオ、カルタらが出場するまでに時間がかかったのはそういう判断もあってのことだったのだ。

 というわけで、ファリド、イシュー、ボードウィンの3家ともう一つ、ギャラルホルンのセブンスターズの一員であるクジャン家の人員も動いた。
高齢であり病床にある現当主が出場することは叶わない。なればこそ、次期当主である継嗣が代表して出場することになる。
ガエリオやマクギリスが出場したのとまったく同じ理由ということになるのである。
 その人物の名前は「イオク・クジャン」。
 お分かりだろう、火星-地球間の航路において火星連合代表であるクーデリア・藍那・バーンスタインを襲撃した張本人である。

「急げ、本命は西部戦線だ!」

 彼の叱咤は、至極真剣だ。彼は真面目であるし、自らの仕事も一応、一応はわかっていた。
 ただし、彼は彼の見える世界で完結していたのであるが。

 ともあれ、彼は部下ともども出場が許可された時点で、担当していた南部から西部へと移動した。
 地球連合と火星連合の主力が押し寄せているのがそちらだ、という情報をつかんでいたがためだ。
無論そこは激戦区であり、MAや阿頼耶識出力デバイス搭載のMSが大量に投じられているという場所だ。
対抗するために地球連合も精鋭戦力をぶつけているし、MTなども山ほど投入することで物量突破を仕掛けている。
 控えめに言って、彼のような技量の足りないものが出て行っても的にしかならない。いや、的になるだけましかもしれない。

 それでも彼が向かったのは、偏に自身の窮地を救ってくれたファリド公に報いるためであった。
 マクギリスはいけ好かないとしても、処断されるかもしれないところを救われ、後援してくれることになったのはありがたいことだった。
処分なども軽く済んだし、おまけに汚名返上の機会としてエドモントンでの戦いに出場するのも許可してくれているのだから。
なればこそ、自分の力で手柄を立て、ファリド公に勝利を捧げてやりたいというのが彼の偽りのない考えであった。

(イオク様、大丈夫なのか……?)
(エリオン公からいきなりファリド公に乗り換えたようなものだしな……)
(やる気はあるのは確かだが)

 だが、部下たちとしては不安を隠せない。今回のようなことが以前もなかったわけではない。
 そのたびに何度となく諫め、後始末をし、よくよく言い含めるなどしてきたのだ。エリオン公が援助してくれたこともある。
 それを差し引きしても、今回向かう先はそんな生ぬるい状況ではないのは嫌でもわかっていた。
何しろデータリンクによって西部戦線で戦力がどんどんと溶けていき、被害が大きいことは判明していたのだから。

(最悪、無理やりでも止めよう。いつものように……)
(そうだな……)

 だが、彼らもある種楽観があった。
 この手の状況でも、自分たちが体を張って止めれば何とでもなるのだと。同じMSに乗っているわけだし、数機で押さえれば何とかなる。
例え活躍できなくとも、ともかく生き残らせればいいわけであって、それはファリド公からの命令にも従うのだし、と。
 斯くして、彼らは真っ向から飛び込むことになったのだ。慢心と油断という物を抱え込んだまま、血を血で洗うがごとき地獄へと。

943: 弥次郎 :2022/03/13(日) 15:26:33 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
激戦です。

というわけで、某ハガレンに出てきた方式で…実現させました。
倫理観?そんなもんはないよ
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最終更新:2024年03月05日 21:31