423: 弥次郎 :2022/03/17(木) 17:45:13 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「角笛よ、黄昏に響け」8
時は少し遡る。
西部戦線のみならず、軌道上から戦力を投下するという戦術によりエドモントンを完全に包囲下に置いた地球連合に対し、特別部隊を出す少し前。
ギャラルホルンは抱えていた戦力の内、政治的なモノもあって温存していたセブンスターズ麾下の戦力を吐き出していた。
これは書面上はギャラルホルンに属しているが、指揮系統としてはセブンスターズの七家がそれぞれ独自に握るという、半ば私兵の戦力だった。
その兵士にしても一般から公募された兵士というよりは各家に代々仕える兵士の家系が過半を占めており、そこだけ現代の軍とは思えない編成であった。
こんなのが平然とまかり通り、そして未だに改正されていないというのは、硬直しているどころではないだろう。
閑話休題。
ともあれ、そんな兵力でも現状況においては重宝されていた。
何しろ全方位からの同時攻撃で処理能力を飽和させての、特定箇所の一点突破という戦術を仕掛けられているのだ。
その状況下において戦力が次々と溶けていく---具体的に言えば、火星連合軍相手でぎりぎり拮抗、地球連合相手では蹂躙されているのだ。
つまり根の手も借りたいというのはまさにこの状況と言えるだろう。とはいえ、ギャラルホルンも戦力はそろそろ底が見えてきている。
だが、いつまでも戦力があり、尚且つ士気が保てるかは全くの別問題だ。一方的に味方が倒されていけば視覚的にも心理的にも影響が出る。
まして、地球連合がサイコガンダムのような大型戦力まで遠慮なく放り込んだことで、それには追い打ちがかけられていたのだ。
『これは……酷いものだな』
ガンダム・エリゴスのコクピットの中で、マクギリスは思わず漏らした。
相手がそれだけ強いということは嫌というほど理解している。だが、それの力を実際に見せつけられて平気かと言えばそうでもない。
具体的に言うと、エドモントン周囲に用意されていた防衛戦が文字通りに虫食いになり、がたがたになっているのだ。
地面には信じがたい大穴が開いていたり、木っ端みじんとなったMSの残骸が転がっていたり、あるいは爆発により吹き飛んだ陣地だったものがあったりと、ひどい。
『酷くやられたな……まだ抵抗できているのが救いか』
同じくガンダム・フレームを用いたガンダム・キマリストルーパーに搭乗したガエリオもまた、眼前の光景に眉をしかめる。
カラール自治区にギャラルホルンからの脱走兵を含めた武装集団が襲い掛かった時の光景が攻守逆転して現出しているのだ。
まき散らされた破壊、血と硝煙の匂い、そして戦場特有の荒れ果てた空気。それはこれまで経験したことのある戦場を遥かに超えている。
『ここまで一方的とは……指揮所で確認した以上ね!』
そして、グレイズ・リッター指揮官機に搭乗したカルタも遅れて現れる。
しかしながら、さしもの彼女も口では威勢がよくとも、眼前の光景にはさすがに言葉がしばし出てこなかった。
無理もない、ぶっちゃけた話、実戦経験というものが最も欠けているのがカルタ率いている部隊なのだから。
まあ、訓練などは精力的にやってきてはいるらしいので、少しは頼りになるか、とマクギリスは若干失礼な判断をしていた。
424: 弥次郎 :2022/03/17(木) 17:45:53 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
『さて、どうする?俺たちがここに固まっていたところで状況は変化しないが?』
『決まっているでしょう!敵の首魁を……!』
『いいだろう、行ってくればいい』
真っ先に発言したのはカルタだ。彼女は指揮所にいた時点から敵旗艦「エウクレイデス」への攻撃を度々提言してた。
『でしょう!ならば、マクギリス、私の力を……』
『だが、相手の旗艦を叩ける自信と戦力があるならばの話だ。
一理あるのは確かだが、現に西部戦線の戦力は一方的に叩かれている。飛び出していったところで、大したことはできないだろう』
だが、すかさずマクギリスがぶった切る。
あ、これはマクギリスが沸騰しているな、と長い付き合いのガエリオは理解できた。
ごく最近も、火星でこの手の夢想的なことを言う奴に自分よりも早く怒りをあらわにして行動したこの友人のことだ。
如何に付き合いがあるとはいえ、それと同じようなことを、これまでの戦局を全く鑑みずに言えば怒りもする。
果たして、マクギリスにご執心なカルタは衝撃を食らった。これまでにないほどの真っ向からの反論を食らったのは久しぶりだったのだ。
何よりも、丁寧な言葉を使ってはいても、明らかにマクギリスのとてつもない怒りが伝わってくるものだったのだ。
案の定、ヒッと悲鳴を上げたカルタ。だが、ここで内輪もめをしても何も解決しない。だからガエリオは通信を繋ぐ。
『あー……マクギリス?』
『……なんだ?』
『敵旗艦を沈めることはできないかもしれないが、カルタの言う通り、敵の首魁---バーンスタイン火星連合代表と蒔苗を抑えるのは間違っていないんじゃないか?』
ぎろり、と人にもよく似たエリゴスのツインアイで睨まれながらも、何とか声を絞り出した。
冷静さの塊のようなマクギリスがここまで怒りをあらわにするのは珍しい。とはいえ、何とかしないとならない。
『……そうだな。待ち受けていれば、蒔苗が議事堂に向かうのを阻止できるかもしれん。
相手も相応の護衛をつけるだろうし、一筋縄ではいかないだろうが……』
今後はツインアイがグレイズ・リッターを捕らえる。
『吐いた唾は?めないぞ、カルタ。責任もってやってくれ』
『わ、わかったわよ……』
カルタにはそれを言うのが限界だった。
阿頼耶識に疑似的にしろ接続しているマクギリスの挙動は逐一エリゴスに反映される。
だから、それには凄味が漂う。あるいは空気というものが違っているのだ。単なる操縦システムというよりも一体化システムのためか。
ともあれ、役割分担は決まった。
マクギリスは麾下の部隊と共に各戦線の火消しや立て直し。
ガエリオは途中までカルタの部隊をエスコートしつつ、同じく戦線の立て直しや前線指揮の実施。
カルタはやがて出現するであろう突入部隊の蒔苗とバーンスタインの排除。
最も、ガエリオをエスコートという名の監視につけるあたり、如何に信用していないのかが窺えるのであるが。
『おい、マクギリス……いいのか?』
『仕方あるまい……こういうとアレだが、ポーズは取らねばならん』
ガエリオの問いに、マクギリスは肩をすくめるしかない。
一応投降するつもりにしても、それなりに戦ったというのは魅せなくてはならない。誰に対してかは言うまでもないことだ。
既に各戦線が崩壊に近い状態である以上、攻勢に出ることなど不可能と言ってもよいだろう。
だからといって素通りさせては戦意を疑われることになる。極論であるが、誰かが死ぬような危険を冒してもらう必要があるのだ。
『だがカルタを行かせるのか?』
『気持ちはわからんでもないが……カルタならば我々と違い真剣だからな』
『……そうだな。俺も、部下に死ぬから一緒に来いとは言えん』
連合の力をよく知っているがゆえに、そして投降予定であると裏で通じているがゆえに、カルタのように真っ向からはいけない。
そのつもりで行動しても、外から見た場合それが露呈してしまう可能性は十二分にあるのだ。ある意味、適材適所か。
『死ぬなよ、ガエリオ』
『お前もな……ここで終わるわけにはいかない』
斯くして、セブンスターズ麾下の戦力は戦場へと出場したのだった。
425: 弥次郎 :2022/03/17(木) 17:46:51 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
カルタとガエリオを送り出したマクギリスは、さっそく戦線を飛び回ることになった。
すでに指揮所が潰されてしまい、現場の兵が独自判断を強いられているところが多く、組織的な抵抗ができないところが多かったのだ。
『ファリド特務一佐!?』
『増援が来てくれた!』
『聞け、ギャラルホルンの戦士たち!まだ終わってなどいない!』
グレイズなどとは違う、圧倒的な出力のガンダム・フレーム。それを駆って前線に飛び出すマクギリスの姿はひときわ目を引いた。
挨拶代わりに、火星連合軍所属と思われるロディ・フレームをその巨大なソードランスで無力化し、盛大に着地したのだから。
当然、その僚機が襲い掛かってくる。二機は目立つ方から、もう一機は後方に回り込んでの挟撃だ。なるほど悪くない。
一機が動けなくなっても怯えて動きを止めることもなく、すぐさま反撃の手立てを組み立てたのだ。
(なるほど、悪くない)
こちらは大ぶりなソードランスしか見せていない状態。正面に対応すれば後ろの一機が、かといって後ろに対応しようとすれば正面を防げない。
先頭を駆け抜けてきたからこそ、援護を受けられないのを見て取ったか。無論、自分の後方から援護射撃が来ることも考慮しているだろう。
だからこそ、より確実に仕留めるために正面には二機が展開してバトルアックスを振りかざしているのだ。
(だが、ここで死んでやるわけにはいかない)
積極的に殺す理由もないが、一応は今の自分はギャラルホルンの兵士なのだから、と。
頭部にはめた疑似阿頼耶識デバイスが、マクギリスの脳波を感知、それをケーブルを介して阿頼耶識に伝達、エリゴスを動かす。
刹那に、背部のバインダーからスネークバイトが飛び出す。チェーンソーを備えたそれは、一瞬でエリゴスの前後に展開。
空中を自在に舞い、動いたそれは目にも止まらぬ速さでドラクル・ロディに襲い掛かった。
『何!?』
『有線攻撃端末?!』
即座にターゲットを変えて対応しようとソードで切り払おうとする。だが、その動きはマクギリスからすれば遅い。
中継リールをうまくスライドさせることで強引に軌道を変えると、脚部と頭部をそれぞれ破壊して見せる。
『このぉぉぉ!』
残る一機は前に出てくる。
だが、それはすでに予想していた通りの話にすぎない。
『悪いが、お引き取り願おうか』
ガンダム・フレーム特有の、ツインリアクターの高出力は片腕でもソードランスを振り回すパワーがある。
刹那で繰り出された一撃は、的確にドラクル・ロディのシールドごと腕を貫通し、バランスを失わせた。
ついで、その間に巻き戻されたスネークバイトが腕と頭をもぎ取り、とどめに胴体を蹴り飛ばして吹っ飛ばす。
『すごい……一瞬で3機も……』
『動きを止めるな、次が来る!散開!』
だが、マクギリスは次の瞬間飛び上がる。距離が離れたところから、大型砲による射撃が襲い掛かってきたのだ。
迂闊に足を止めれば的にしかならないだろう。着弾し、炸裂した大きさからも考えるに直撃は危険すぎる。
『こちらで暫く敵を足止めする!戦力再編を急げ!』
『りょ、了解……!』
同時に展開するマクギリスの部隊の陰で、ギャラルホルンの部隊は戦力を再編を急ぐこととした。
426: 弥次郎 :2022/03/17(木) 17:47:29 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
だが、相手はこのように容易く対処できる相手だけではないのだ。
火星連合軍は正直なところギャラルホルンとどっこいなところと言える。
本命なのは、地球連合軍の方なのだから。
『こんな形で相まみえるとはな……』
そこには、VACと呼ばれている小型ACの姿があった。
カラール自治区でも見たことがある、全高5mばかりのAC。
しかし、その機動力や運動性は極めて高い。加えて装甲も十分に頑丈であり、それでいて火力も馬力も劣らないと来ているのだ。
『……軽く60はいるか』
通常のACとMSとMTも合わせれば百にも及ぼうかという数。
そしてどれもが油断ならない戦力なのだ。殊更、高い耐久性を誇るナノラミネートコーティング装甲を貫通できる実弾やビームなども実現している。
どれがどれをどのくらい装備しているのかは不明だ。地球連合軍の戦力はとてつもなくバリエーションに富む。
ギャラルホルンではMSはほぼグレイズ系列で固められ、それにより効率的な運用や兵站管理の容易さを実現しているが、そういう意味では戦力に幅がない。
(と、そんな余裕はないか)
次の瞬間には自分を脅威と見た連合の戦力から一気に火力が叩きつけられる。
だが、それに後れを取るほどマクギリスは、そしてエリゴスはのろまな存在ではない。
即座に跳躍してそれらを回避すると、空中で武器をソードランスからツインソードへと交換。伸ばしていたスネークバイトはいったん引き戻す。
『私が突入して引っ掻き回す、援護しろ!』
『危険です、特務一佐!』
『真っ向から撃ち合っても不利なだけだ、乱戦に持ち込め!いいな!』
返事を待たず、エリゴスを一気に加速させる。
相手もこの機体が脅威と見たか、すぐさまに追撃が襲い掛かってくる。ビーム、実弾、あるいはレールガンなどバリエーションは豊かだ。
だが、射点と軌道が認識できる範囲であるならば、こちらには回避の余裕がある。阿頼耶識の有無だけでこれだけ違うのだ。
(本来はこんなものがなくても良いほど強くなければならないのだが……!)
そう、別にこの阿頼耶識は強力なシステムであっても、決定的な差とはならない。
実際、阿頼耶識のようなシステムを使わずとも、アリーナで戦うACなどは信じがたい機動や運動を見せていたのだ。
通常のコクピットや操縦系だけでもあれだけできるところに、さらに上乗せすることによって人を超えた動きができる、というわけだ。
まあいい、これはあくまでもバエルを回収するときに備えた予行演習だ。そう割り切ることにする。
『倒せるとは思っていないが……付き合ってもらうぞ』
そして、片腕に持たせたライフルを構え、突入を開始した。
427: 弥次郎 :2022/03/17(木) 17:48:11 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
- アーブラウ領 エドモントン郊外 西部戦 鉄華団担当エリア
時は再び現在へと戻る。
突入部隊が最終防衛ラインを抜け、市街地に突入してからすでに30分余りが経過していた。
周辺のギャラルホルン戦力のほぼすべてが駆逐、もしくは撤退していき、担当するエリア内は静けさを取り戻していた。
それ故に、エリアを担当している鉄華団もまた、戦場という状況ではあるが軽い休息をとっていた。
戦闘が続けば腹は減るし喉は乾くし、途中で息も入れたくなるというもの。現状の所周囲の制圧状況は順調で、敵機は現れないかと思われていた。
だが、そんな予想は指揮官であるブラフマンからの通信で裏切られることとなった。
『E-213に敵集団が?』
『ああ。妙に元気のいい連中が現れた。温存されていた戦力を慌てて送り出したってところだろうな』
鉄華団のMS隊の隊長を務める明弘は、ブラフマンの呆れたような声を聴いていた。
『出し惜しみしていた……ってことですか?』
『恐らくな。ともあれ、すぐに倒せる範疇だ。この状況からひっくり返せるとも思えない。
鉄華団の方で排除を頼んだ』
『了解…すぐに向かいます』
この状況下で増援というのは遅すぎる、と明弘でもわかることだ。
突入部隊が市街地に入るのを止めたかったのかもしれないのだが、些か遅きに失したと言わざるを得ない。
というか、戦力の過半以上をすでに喪失していると推定されているのがギャラルホルンの現状だ。
ここであわてて送り込んだところで、損耗の少ないこちらの戦力によって数で圧殺されるのが目に見えている。
そういった戦術的・戦略的な視点も学んでいた明弘には、ギャラルホルンの行動の意図が理解できなかった。
ともあれ、指示があったならば、その指揮系統の元にある自分たちは動かなくてはならない。
すぐにMS隊内で点呼をとる。
『小隊、聞こえたか?』
『おうよ、まだ増援が来るみてぇだな』
『これから俺たちで対処に向かう。弾薬の残りは大丈夫か?推進剤は?』
『こちらは問題ないぜ』
『こっちも大丈夫』
『あと一戦くらいなら余裕だな』
共有される情報を確認すると、確かに問題はなさそうだ。
勿論、野放図に使えば一瞬で枯渇するであろうが、うまく使えばグレイズの一個大隊程度は余裕で行けるだろう。
『敵集団の情報を共有する。これの排除が目的だ』
そして、グシオンから各MSに情報が共有される。
空中に展開しているEWACを兼ねたアーガトラムによって撮影されている映像だ。
『独特のカラーリングと紋章をつけていることから、名前が付くほどの部隊か、あるいは高位階級と思われる。
……情報追加だ、こいつ、ギャラルホルンのセブンスターズの一つだ』
『セブンスターズ…?』
『授業であったろ、三日月?ギャラルホルンでもトップの7つの家のことだ』
『そういえば……あったような』
『三日月、実用的な知識以外にあんま興味ないからな』
ダンテが揶揄うが、それを明弘は咳払いで窘める。
『どこのどいつであっても、やることは変わらない。倒すだけだ。
どうせ、ギャラルホルンから恨みはとっくに買っているわけだし、相手も納得尽くだ』
『そんじゃ、いくぞ』
『応!』
鉄の華のエンブレムを配した巨人たちは動き出す。
これから起こることが、この世界の後の潮流に大きく影響を及ぼすことになるのを、彼らはまだ知らないままに。
428: 弥次郎 :2022/03/17(木) 17:49:03 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
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セブンスターズの一家の戦力…一体どこの誰なんだ…(棒読み
最終更新:2024年03月05日 21:30