680: 弥次郎 :2022/04/25(月) 21:44:51 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「オーバー・ザ・カラー」6
- サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 ブランジューヌ宮殿 国軍本部 プロセッサー指揮管制室
指揮管制室に集められる情報から、その戦いの流れや帰趨は観測ができた。
無論、グラン・ミュールに設置されているレーダーや光学カメラの映像に限定されていたが、それでも戦場の異常さに気が付けた。
もはや万にも届こうかという圧倒てきたレギオンの群れ。そして、地球連合の艦艇群から降ろされた多数の兵器群。
レギオンやジャガーノートにもよく似た装脚兵器も見られたが、その数的な主力は人の形を模した兵器だった。
それも、10mは優に超えて20m近いものまでも含まれているのが見える。
「人型……?」
だが、レーナはその兵器群に疑問を浮かべた。
人型というのは一見合理的に見えて、非合理的だ。トップヘビーとなりやすく、尚且つ被弾面積が大きいからだ。
レギオンやジャガーノートという兵器は、装脚を用いることで、常に被弾面積を小さい面を相手に向け、自在に旋回などができるという利点があるのだ。
加えて、足が多数存在することによって一本あたりにかかる重量を軽くし、踏破能力を高く持つことができる。
履帯やタイヤでは対応しきれないような複雑な地形やでこぼこした地形さえも突破できるのだ。
他方、人型はそうもいかない。
二本の足にすべてのバランスが委ねられる以上、そのバランスや足を含めた体全体の制御は複雑化する。
まして、それを動かすための機構を垂直に積み上げていくということは、前述の通りトップヘビーとなり、不安定さを招く。
勿論サンマグノリア共和国にも人型のロボットというのは研究されていたし、レギオンにも自走地雷という人を模して走る個体も存在する。
だが、それらはあくまで人を超えないサイズにとどまり、尚且つバランスがとれるように精密な計算と設計が施されているものだ。
それを戦場に投じるような技術を持ち、実用化しているのだろうか?
(……あれは?)
だが、空中に浮かんだ母艦から飛び出した人型が、なんと空中で浮遊し、緩やかに地面に着地して見せたのだ。
背中や足の裏から光が発され、制動をかけているのが傍目にもわかる。それに伴う衝撃や振動などをすべて緩和しているというのだろうか?
そうでもなければ、あんな高度から明らかに重量のある人型兵器を下ろして無事であるはずがないだろうに。
疑問は尽きることはなし、次々と露になっていく情報などには唯々混乱するしかない。
「ミリーゼ大尉」
「はい?」
その時、しばらく沈黙していたカールシュタールがようやく口を開いた。
「この映像を国軍本部の会議室に流すように。それと、大統領府にも」
「りょ、了解しました」
何を言い出すかと思えば、言葉も短くそれだけを伝え、カールシュタールは部屋を出ていった。
交渉などはどうしろとか、そういった指示は全くなかった。まるで放り投げたかのような、あるいはなかったことにしたかのようなものだ。
それについての意図はつかみきれないが、ともかく指示があったように回線を通じて現在得られているレーダーの情報や映像などをすべて共有させる。
『ミリーゼ大尉』
「は、はい!」
だが、レーナは藤山の声に現実に引き戻された。
『どうやらカールシュタール准将は帰られたようですね」
「は、はい……」
『……わかりました』
681: アイサガP :2022/04/25(月) 21:45:08 HOST:zaq77195025.rev.zaq.ne.jp
675追記
そもそも86に戦闘任務ほぼ全部背負わさせてて
その実戦経験や本当の軍隊の運用経験あるのは共和国陥落で義務を果たして大概戦死されたから
レーナ麾下部隊と86以外誰も居ないっぽいのよな…
682: 弥次郎 :2022/04/25(月) 21:45:30 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
少し、言葉と言葉の間に無言の時間を置いた藤山に少しばかり疑問を覚えながらも、レーナは彼の言葉を続けて聞く。
『さて……続けましょう。
なぜ、遠く離れたこの恒星系にまで地球連合という組織が進出してきたか、でしたね。
それは至極単純な理由です』
「……」
『我々地球連合は、他の恒星系や銀河系からの侵略者と対峙しており、その対処を行っていたのです』
いきなりだ。いきなり話が飛躍した。
それは、レーナをして、一瞬聞き間違いかと思ったほどだ。
「侵略者、ですか?」
『そうです。あなた方はまだ宇宙へと進出を果たしていない、惑星内文明。
しかし、我々は他の惑星や恒星系に進出し、植民を行い、勢力圏を拡大している、外宇宙進出文明と言えます。
ですが、行く先で必ずしも友好的な勢力と出会うとは限らない。場合によっては、敵対的な勢力とぶつかり合い、生存をかけた戦争になることがあります』
「……ええっと」
『そうですね……そういう生命体が宇宙には存在し、我々人類に対して等しく牙をむく存在がいるということです。
それは同じような知的生命体であったり、あるいは純粋に生物であったりと、様々なものが存在しているのが確認されています。
……と、これでは資料の共有などができませんね』
言われて、レーナは改めて気が付く。
今の会話は、単にグラン・ミュールの収音マイクとスピーカーの機能を用いて、航空艦艇と交信しているに過ぎない。
互いの声しか認識できず、顔も、姿も知ることなく、ただ会話するだけだ。それはまるで---
『まるで、プロセッサーとハンドラーのようですな』
「っ……」
痛いところを突かれた。
中央処理装置(プロセッサー)という名の元共和国市民。エイティシックスという呼び名で、人ではない、人に劣る存在とされた人々。
グラン・ミュールの内側に入ることを拒み、あまつさえ武器を向け、戦うことを強要される存在。
明らかに、藤山は意図してこの言葉を盛り込んだ。この会話を共和国政府や軍部が聞いていることも前提にしているのは確実だ。
それでも、レーナはその話題を断ち切ろうとしたり、通信を切ることはできなかった。
『さて、話を戻しましょう。
そう、その侵略者の中にはまるで話し合いなどが通用せず、最早戦うしかない存在もいました。
そして、直近にこの惑星に迫っているものとして、一つのグループがあります。
恐るべき肉体能力と数と大きさと凶暴性を持つ「宇宙怪獣」というグループが』
「宇宙怪獣……」
『小さいものでも全長30m以上、大型のものとなれば500mから1万キロ、あるいはそれ以上となる巨大生物です。
宇宙空間でも大気圏内でも活動し、その気になれば惑星や恒星系を容易く滅ぼすだけの力を持っています。
少なくとも3つの銀河を根城としていると観測されており、そこから我々の勢力圏へと襲撃をかけてきております』
「そんなものが……」
言葉でしか伝わってこないが、それが本当ならば恐ろしい生物なのは確実だ。
ワープをし、突然現れ、生命体に対して攻撃を仕掛けてくる。あまりイメージは沸かない。
だが、それが嘘だと断じる理由は今のところ存在しなかった。
『これらの集団は、その過程においていくつもの惑星や恒星系を滅ぼしております。
現在のところ、本土たる地球に到達することは避けられておりますが、防衛戦では未だ激戦が続いております。
そして、この惑星を含む恒星系もまた、その防衛線の内側に存在しており、宇宙怪獣の侵攻が想定されているのです』
「……なるほど」
683: 弥次郎 :2022/04/25(月) 21:46:35 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
ここまでくれば、レーナにも意図はわかる。
「つまり、地球連合はその、我々の想像をはるかに超えた戦いの中で、この惑星が攻撃され、あるいは拠点とされることを懸念しているのですね」
戦史を学ぶ中で知ったことの拡大版だ。
本国が直接攻撃を受けることを避けるために、周辺に友好国や同盟国を作り、敵国からの侵攻を安全な遠方で受け止め、被害を抑える戦略。
彼らは彼らの守るべきもののため、この恒星系を発見し、自分たちにとっての弱点とならないようにするために動いたのだ。
『その通りです、ミリーゼ大尉』
満足げな藤山の回答が、レーナの考えを肯定した。
『勝手に守る分には、接触などをしなくともよいでしょう。
しかし我々にとっての遠隔地での戦争は、現地の惑星の住人との交流や支援などが不可欠です。
まして、あなた方も被害を受けるかもしれないことを考えれば、何も為さないという選択は忌避されるべきものでした』
「だからこそ、こうして接触を……」
『このサンマグノリア共和国だけでなく、他の人類と思われる勢力の生存している地域にも、同じように外交使節艦隊は派遣されております』
「他国が、まだ健在なのですか!?」
その情報に思わずレーナは食いついた。
何しろ、他国が存続しているかどうかもわからない状態が続いていたのだ。だとするならば、その報告は朗報と言えるものだった。
『ええ。いくつもの国と思われる勢力が、組織的抵抗を行っているのを確認しております』
だが、それへの返答は冷ややかだ。なぜ、と、思わず声が漏れそうになった。
『このサンマグノリア共和国同様に接触を行い、外交使節艦隊により外交を行う手はずとなっております。我々がここに来ているように』
ですが、と藤山は言う。冷たいまでの、現実を。
『ですが、自国民を人型の豚と定義し、差別し、戦争を押し付け、自らは安全なところに引きこもっている貴国に対し、遺憾ながら心証はよろしくありません。
これまでの行いだけでなく、我々に対する態度や行動なども含め、あまり褒められたものではないのですから』
「それは……」
否定する言葉を、レーナは持たない。そうだ、外交を求めた彼らには、徹底した無視と、挙句に攻撃がなされたのだ。
さらには、カールシュタールとレーナの会話を少し聞くだけでも、共和国という国家が相手を、連合をどう認識したかが露見している。
「それは……否定しきれません。我々の落ち度でしかありません」
『あなた方がエイティシックスと呼び、差別する共和国民だった人々---彼らの存在もあり、貴国と外交をできるかどうかも怪しいと、我々は考えております』
「そこまで……」
言われてからわかってしまう。エイティシックスと呼ばれたのは、血統として白銀種ではない者たちだ。
そこには、当然ながら開戦時にサンマグノリア共和国にいた外国の人々も含まれていた。そんな彼らは、人でなしと断じられ、86区に追いやられた。
人以下の、家畜にはふさわしい接し方や対処法があるのだと、そううそぶいて。
『そして、この期に及んでも、貴国の政権や政府上層部は我々とのコンタクトを直接取ろうともしない。
ミリーゼ大尉に押し付ける形で、いつでも中断できる状態で、一方的に話を聞いている。
貴方方の理論に則るならば、85区の外から来た我々など、対話する価値もない人型の家畜なのでしょうから』
「で、ですが……」
レーナは、しかし、藤山の言葉に反論するしかない。
「ですが!私は、越権も覚悟で接触を試みました。こうして、話をできていますし……」
『ええ。ミリーゼ大尉はそうかもしれません。ですが、我々からすれば、ミリーゼ大尉もまたそんな国の一員なのです。
ミリーゼ大尉は、察するにハンドラーという役職なのでしょう。エイティシックス達が戦うように督戦し、指示を出し、無人機を運用する』
棘の含んだ言い方だが、それは正しかった。
「はい、その通りです……っ」
684: 弥次郎 :2022/04/25(月) 21:47:32 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
では、と藤山は重々しく問いかけた。決定的な言葉で。
『では、貴方はそのプロセッサーたちの何を知っているのでしょうか?
86区に追いやられ、名前を記録から消去され、戦うことを強要される彼らの、一体何を?』
「それは---」
言い返そうとして、言葉が出てこなかった。
言葉に詰まったわけでも、言い方がわからなかったわけでもない。
単に、言うべき言葉や内容を、レーナが自分の内側に何一つ持っていなかったからだ。
それは、心理的負担の軽減のための、そういう措置であったこともあるだろう。
自分はハンドラー・ワンという名の通称を名乗り、相手をパーソナルネームか「号」でよび、あるいは符号で呼ぶ。
人ではないから名前で呼ぶ必要はないというのもあり、また、個別の名前で呼ぶことで心理的なのめり込みを避けるための呼び方。
例えプロセッサーの破壊=戦死をしようとも、あくまで生きた人間ではないということを強調することにより、管制官を心理的に守る方法。
だが、それは同時に、相手を徹頭徹尾人扱いしないことで成立するものだ。
エイティシックス達は、藤山が言うようにあらゆる共和国の記録から個人情報などは削除されており、収容番号だけが残されている。
いや、もはやそれは単なるタグと言ってもいいかもしれない。処理装置につけられた識別番号と言ってもいいかもしれない。
『これを聞いている貴国政府も軍も、何一つ外を知ろうとしない。
接触を試みれば、つたない武力と勝手な決めつけで排除し、耳をふさいで目を閉じてしまう。
そして、接触をしてきたミリーゼ大尉、貴方もまた、その宿痾や意識に捕らわれていると判断できてしまうのです』
「----っ!」
それは、先ほどカールシュタールが告げた「決定」のことだ。
相手は人ではない、敵だ。さもなくば人以下の家畜だ、と。それに自分は感情から反発し、抗議した。
だが、そんな自分でさえも、他者から見れば大した差ではないと、そう告げられたのだ。
その言葉は、レーナを揺るがした。
ぐらりぐらりと、世界が揺れているかのような衝撃が、レーナを苛む。
それは否定できず、事実を捕らえ、現実を突きつけているからこそ、避けることも言いつくろうこともできないままだった。
藤山は、そんなレーナの状態を察してなのか、言葉を緩めた。
『無論、ミリーゼ大尉が、声などから察するにまだ若く、知らないが故ということもあるでしょう。
とはいえ、貴官が大差ないというのは、我々の認識なのです。どうしようもないほどに』
だが、その言葉は何ら慰めにもならない。
レーナは、自らの醜さを、歪みをダイレクトに指摘されたのだ。
無垢で純粋であり、未だに良い意味で気高いレーナにとっては、あまりにも痛い言葉だったのだ。
フラッシュバック。他者とは、他のハンドラーや、軍人、あるいは喜々として「戦果」を誇るプロパガンダ、あるいは何も知らない母。
そんな人々と自分は違うと、そう思い、そのように行動してきて、それが如何にはた目から見れば滑稽だったかを指摘された。
(わ、わた、し……は……)
呼吸が乱れる。心臓の拍動が大きくなる。体が震える。視界が、世界が、暗くなったかのような錯覚を覚える。
「ですが……」
『?』
それでも、レーナは言葉を必死に紡いだ。
「ですが、それでも。それでも私は、未熟だろうが、矛盾していようが、貴連合の言葉に応えたかった。
そしてそのために動き、こうして対話をしています。それでも、不足でしょうか?」
その言葉に、藤山は頷きと共に言葉を作った。彼女の言葉は、少なくとも真摯だったから。
『もちろん十分です。では、続けましょう』
685: 弥次郎 :2022/04/25(月) 21:48:03 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
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血を流してでも前に進まんとする強い意志。糾弾を受け入れる潔い精神。
彼女ならば、隔てるカラーを超えられるかもしれない。
最終更新:2023年11月05日 15:20