163: 弥次郎 :2022/05/16(月) 19:34:19 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS 短編集「シュトゥルム・ウント・ドランク」2


Part.4 第九種接近遭遇


  • 星暦恒星系 星暦惑星 現地時間星暦2147年4月12日 ヴァルト盟約同盟 ヴルムスト山南部 アイゼンゲージ仮設基地


 戦果は2つと4つ。
 即ち、モルフォ2機(あるいは2両)とプロト・モルフォ4機が、オペレーション・スカイフォールで鹵獲された主目標の現状だった。
 それらは一度衛星軌道上まで回収されて再度のパラライズバレットの打ち込みや拘束を経て、収容した船ごとヴァルト盟約同盟に降下した。
 出現した9機のうち鹵獲が半分というのは、発射態勢に入られてしまい撃破を優先したのが2機、そして鹵獲手段が違ったのが3機だったことによる。
それは、大型のELSによる強制浸食という「捕食」によるものだったためだ。戦艦サイズのMA「ガデラーザ」を模倣したそれが、吶喊。
あらゆる反撃をそのまま金属の体で受け止めて吸収しながら接近し、文字通り食らいつくようにしてプロト・モルフォを覆いつくした。
もはやそれは戦闘ですらなく、行為か作業というレベルであった。
 ともあれ、人類は、星暦惑星各国の人々は、自らに致命傷を与えうるレギオンの撃破と鹵獲に成功し、その力を暴き立てるチャンスを得たのであった。

 そして、鹵獲されたいくつものレギオンの分析のために設置された、このアイゼンゲージ仮設基地を自ら訪れたのはベル・アイギス中将だった。
オペレーション・スカイフォールの後処理を部下たちに任せてもなお、北方防衛軍総司令官の彼女がここに来たのはそれだけ重要な事案であるためだ。
 彼女に限った話ではない。この基地には多くの国から多くの関係者がかき集められ、集合していたのだ。
 ギアーデ連邦、ロア=グレキア連合王国、レグキード征海船団国群、ノイリャナルセ聖教国、キティラ大公国、リン=リウ通商連合などなど。
開戦以来レギオンにより断絶されていた国交が回復し、地球連合の手を借りながらも行き来さえも可能になったことで、参加者は膨れ上がっていたのだった。

「せわしないことね」

 輸送機の外に降り立ち、仮設空港を見てベルは思わずこぼした。
 空港として整備されているアイゼンゲージ基地の外延部には、各国から飛んできた輸送機や航空艦が多く着陸し翼を休めていたのだ。
無理もない。一大作戦で得ることができた戦果を、レギオンの新型についての情報を知りたがっている国がいないはずがない。
どの戦線であろうとも、モルフォかそれに類似するレギオンが出現すれば、それだけで戦局は激変してしまうのだし。

(それにしても、異星人……こんな形で出会って、協力するなんて)

 ベルの思考は、今回の作戦でも活躍したELSという異星人に及んだ。
 創作の世界においては、その手の異星人というのはたびたび登場してきたものだ。平和的なモノもあれば、互いの存亡をかけた戦いのモノもあった。
だが、何の因果であろうか。この星の住人は異星人である地球人、そして彼らと共存しているELSと共同戦線を張ったのだ。
 いや、そもそもの時点で交流や折衝などを持った時点で今更の話ではあるが、その上にありそうな展開になるとは思わなかったのだ。

「ともあれ……」

 やるべきことは一つ。レギオンの力を知ることだ。
 彼女とその部下たちの仕事は、これからなのだ。

164: 弥次郎 :2022/05/16(月) 19:35:06 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

Part.5 海を征く男


 摩天貝楼---それは、レギオンがいつの間にやら海上に建造していた巨大要塞。
 旧クレオ船団国の海岸から直線で300㎞の地点---海底資源鉱脈があると推定されている場所に存在する建造物。

 レグキード征海船団国群の救援に向かった地球連合軍の派遣軍が、それがレギオンの拠点と知ったのは折り合い悪く4月だった。
 なぜ、遅れたのか?元々星暦惑星上のスキャンにおいては摩天貝楼自体は観測されていた。
 だが、それが知的生命体によるものか、あるいは観測されていたレギオンによるものかは判別しかねたのだ。
そも、当初はレギオンについても「機械の体を持つ生命体」という可能性を考えていたのだから、いきなり攻撃などできなかったのもある。

 遅れた理由は他にもある。オペレーション・スカイフォールの実施だった。
地球連合をして喫緊の優先事項とみなされたそれに派遣されてきた艦隊は注力せざるを得ず、動きの乏しい摩天貝楼は優先順位が下がっていたのである。
加えて、レグキード征海船団国群の領土の奪還と領土内の復興を行っていたために、猶更優先度は下げられていた。
 それゆえ、その存在を確認していた地球連合が問題の構造物について落ち着いて切り出せたのは4月も半ばに入ってからであった。
そこでようやく、摩天貝楼がレグキード征海船団国群の建造したものではないということが発覚したのであった。

 そして、慌てて本格的な偵察や観測を行い始めた地球連合が発見したのは、まさかの存在であった。
 その構造物を守るかのように展開している巨体。圧倒的スケールの体とそれに見合った巨砲。
 仮称「コクーン」---電磁加速砲型(モルフォ)と仮称「コクーン・イミテーション」---試作電磁加速砲型(プロト・モルフォ)であった。
オペレーション・スカイフォールで鹵獲された新型が、まさか他の箇所にも配置されていたとは。
それは、情報を知っていた現地部隊とその現地部隊から詳細を聞かされたレグキード征海船団国群の肝を冷やした。
幸いにして、こちらの探知が先であったことから、先制攻撃を食らうエリアに接近しないことで一致した。
 だが、衛星軌道上の存在を認知しているレギオンは、とっくに存在が露見していることを理解している可能性は高い。
阻電攪乱型の展開などが乏しいのも、もはやそれによる隠匿が意味をなしていないからと判断した可能性がある。
 とはいえ、脅威であるならば排除の必要がある。場合によっては、レギオンの生産工廠などがあるかもしれないのだし。
 そういうわけで、そこの攻略は決定事項となったのである。


  • 星暦恒星系 星暦惑星 現地時間星暦2147年4月19日 オーファンフリート旗艦「ステラマリス」


「そこで、俺たちに共闘をしてくれってか」
『そういうことです、イシュマエル・アハブ大佐』

 艦隊旗艦である「ステラマリス」のブリーフィングルームでの話し合い---イシュマエルと画面越しに対面したアルビーナはそう依頼した。
 海上要塞攻略、ひいてはモルフォの撃破は喫緊の課題。さりとて、それは現地国家であるレグキード征海船団国群の協力が不可欠だ。
国家としても、戦力としても、そして、互いのためにも。

「俺たちはあんたがたに助けてもらったわけだからな。協力することはなんら問題はねぇ」

 それは紛れもない事実だ。重量級のフェルドレスの展開に不向きな泥濘地が多くを占める国土故に、その防衛線は基本的には海上戦力の支援で持ちこたえてきた。
当然、国土は荒れるし前線将兵の損耗だって馬鹿にならない。しかし、それをとらざるを得なかったのだ。
 だが、地球連合の救援ですべてが変わった。泥濘地をものともしないホバー機構や飛行能力を持つMSとACなどにより戦線が大きく押し返されたのだ。

165: 弥次郎 :2022/05/16(月) 19:35:48 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 だが、とイシュマエルは何も流されるままに頷けるわけではない。
 確かに地球連合は救援に駆け付けてくれて、窮地は救ってくれたのだが、そのままはいはいということを聞くだけにはいかないのだ。
殊更に、今回の作戦においては、モルフォというとんでもないものが出現しているのだから。

「あんたがたが俺たちに助けを求めるのも、国の事情もあるんだろうが、この海を知っている人間が必要ってことなんだろう?」
『ええ。我々は航空艦艇や航空機、飛行可能な戦力を備えています。ですが、この海の気象や特徴をとらえているあなた方の知識と経験が必要となります』

 加えて、とアルビーナは付け加える。

『イシュマエル大佐がおっしゃる通り、レグキード征海船団国群としてもこれまでの支援や救援の分だけ働かねばならないということです。
 オペレーション・スカイフォール以降、戦後を見据えた動きが加速しているため、点数は稼ぎたいとのことで』
「なるほどねぇ……」
『レグキード征海船団国群の陸軍が、我が軍の部隊と共同で摩天貝楼の強襲・制圧・調査を行う手はずとなっております。
 そしてオーファンフリートにはそこまでのエスコート及び戦力の運搬をお願いしたいのです』
「……確かに、このステラマリスの積載量はデカイ。伊達や酔狂で征海艦なんて名乗ってないしな。
 レギオンの跋扈以前には格納庫に原生海獣相手の航空機を搭載していたもんだから、そこになら陸軍戦力を載せられる」

 全長300m、排水量はおよそ10万トン、速力30ノット。それがこの征海艦(スーパーキャリヤ)たるステラマリスのスペックだ。
戦艦というよりは航空母艦であり、原生海獣をしとめるための戦いに赴くための艦艇として恥じることのない力を持つ。
 だが、今回の相手は原生海獣などではない。
 イシュマエルは、あえて言う。相手は、生半可な相手などではないのだと。

「相手はレギオンだ。800㎜もの巨砲を持つ、しかも火砲よりはるかに強力なレールガンときたものだ。
 その射程は400㎞。おまけに摩天貝楼の高所に陣取っているから射程はもうちょいでるだろうな。
 そいつが居座っているところに、30ノットで突っ込めってのは……」

 一息いれ、断言した。

「控えめに言って自殺行為だ。
 相手の砲がこっちを向かないことをお祈りしながらの進軍。しかも類似型も存在し、近づくほどに砲撃密度も上がるだろう。
 海の上で死ぬことは考慮の内だが、無駄死になんてのはしたくはないし、部下にさせるつもりもない」

 そこをどうするつもりか?と一国の艦隊を預かる大佐は問いかけた。
 だが、それは決して想定されていない問いかけではない。

『そこは万事怠りなく、準備をしてあります。
 こちら、有澤重工より出向しています三谷戒さん。そして、地球連合海軍のクレア・ルージュ大佐です』
「ほぉ……じゃあ、聞かせてもらおうかい」

 そしてイシュマエルは、とんでもないプランを聞かされることとなったのだが、ここでは割愛するとしよう。

166: 弥次郎 :2022/05/16(月) 19:36:24 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

Part.6 人の形をした、人ではないモノ

  • 星暦恒星系 星暦惑星 サンマグノリア共和国内 「グラン・ミュール」 第一区 共和国軍研究棟 同国標準時 星暦2147年4月17日

 アンリエッタ・ペンローズ技術大尉は、久方ぶりに親友の来訪を受けた。
 パラレイドデバイスの調整のため、などとかこつけていたが、実際は違うところにあると理解できた。
 何しろ、地球連合が接触してきてから2か月以上が過ぎたが、共和国の感知する範囲にレギオンが押し寄せてきていないのだ。
より正確に言えば、無人機による迎撃エリアとして設定されている領域の外で、地球連合軍がレギオンを駆逐しているからであった。
 さらに言えばプロセッサーたちの面倒も地球連合が見始めたということもあり、共和国軍は残っていたわずかな業務さえもほとんどやる必要を失った。
結果的に、プロセッサーもその手の後方支援を行う部署もほとんど開店休業になったのである。
 つまり、ハンドラーであるレーナがパラレイドデバイスを調整する必要など乏しいのだ。
 それでも何か伝えるべきことがあるだろうということで、アネットは自分の仕事場にレーナを受け入れたのであった。

「アネット、私、86区に行くわ」

 そして、開幕にそんな言葉をぶち込まれ、用意していたカップを手から落っことしてしまったのだった。
 中身の入ったカップ二つがいきなり自由落下し、危うくアネットは火傷と落ちて砕けるカップによるけがを負うところだったが、それは阻止された。
荷物持ちも兼ねてレーナに随行していたリーガルリリーが瞬時に飛び出し、そのカップを綺麗に受け止めたのである。
 友人のそのとんでもない発言とアンドロイドのその一瞬の動きと、衝撃を二連打されたことで、しばしアネットは忘我の時間を過ごすことになってしまった。

「えっと、急に話を振って、ごめんなさい……」
「ほんと、びっくりしたんだけど……で、何?グラン・ミュールの外に出るってどういうこと?」
「そのままの意味よ。リーガルリリー」
「はい」

 改めて、落ち着いて席に着き、対面した二人はようやっと話をすることができた。
 レーナの指示を受け、リーガルリリーはその書面をアネットの前に置いた。

「地球連合と他の国からの要請---いえ、もう要求ね。これは私の配属先の外交補助機材室で手に入れたの」

 アネットはざっとその内容に目を通す。
 レーナが述べた通りの内容がそこには記載されている。オブラートにこそ包んではいるが、かなり攻撃的だ。
 無人機を騙るジャガーノートとそのプロセッサーという、非人道的且つ看過できない行いではない戦力ではない貢献をせよ、とまで言っている。

「つまり、うちの国の内情がバレたってわけ…」
「それだけじゃないわよ、アネット」

 紙面をテーブルに戻そうとしたアネットは、レーナのその冷たい声に動きを止めた。

「オペレーション・スカイフォールで地球連合と周辺諸国はレギオンの主力に大きな打撃を与えた。
 この共和国のグラン・ミュールさえも片手間で吹き飛ばせるようなそんな新型を早期に発見し、鹵獲することにも成功したの」
「それは……よかったんじゃない?」
「そうじゃないわ。
 この国はその事実を公表していない。オペレーション・スカイフォールだけじゃない。地球連合がレギオンを迎撃していることも。
エイティシックス達がすでに共和国の統制下になく事実上自衛戦力が消滅していることも。あるいは、周辺国とコンタクトが復活したことさえも」

 それはつまり、どういうことか?

「外交的孤立。そして、このままではこの国はレギオンの次の『敵』とみなされる、そういうことよ」

167: 弥次郎 :2022/05/16(月) 19:37:23 HOST:softbank126041244105.bbtec.net

 これはルマール外務局員の意見だ、と前置きしたうえで、レーナは語る。
 レギオンへの中央処理装置の元となる死体の供給。人道を無視した大統領令第6609号に始まる一連の政策の実施。
他国との外交を拒み続け、さらには外交上の侮辱や挑発的言動の積み重ね。さらにはレギオンと戦うことのない実情。
国際的な連携の場であったオペレーション・スカイフォールへの未参加などがそのよい例だ。

「レギオンとの戦いは中央処理装置の更新ができなくなればおしまい。
 そうでなくとも地球連合との共同作戦でそれを前に終わらせることができる可能性まで出てきた。
 けど、そんな行いをしている国を、他の国が許すと思う?」
「それは……」
「この国は有色種とひとまとめにして、他国の人間も殺しているのよ。
 人だけじゃない、各国が当時共和国に置いていた資産も何もかも、裏切り者の有色種のモノだからと。
 それの補償や賠償、謝罪などを当然この国の政府は認めていない。もう各国の世論は沸騰していて、戦後すぐに始まるでしょうね。この国への懲罰戦争が」
「懲罰って……こっちだってレギオンと戦ってきたのに?」

 そんな一般的な回答を、レーナは鼻で笑う。

「各国はもう、この共和国をそう言う国とみなしているのよ?
 レギオンと同じ、人類の脅威と。いえ、もうレギオン以上の脅威と見ているわね。
 つまり、この要求は踏み絵ということ。大統領令第6609号と同じよ」

 受け入れるか、それとも反発するか。そういうことだ。

「今からでも自らの行いを恥じて自ら血を流して戦うことで少しでも償うか、それとも何もせずに戦後に裁かれるか、それを選べということよ」

 そして、とレーナは言い切る。

「私は自ら血を流してでも戦うことにしたわ。こんな国のために律儀に働いていたら、私は裁かれるわ」
「で、でも、私は!上からの命令で働いていただけよ!?同調しなかったら、裏切り者にされて……」
「なら、選ぶべきはわかっているでしょう?ペンローズ技術大尉」

 不意に親友であるはずの人物の声が冷たくなった。
 思わずレーナの顔を見上げれば、その瞳はまさしく絶対零度。人の温かみも、感情も感じられない。
 まるで人ではない、『人の形をしただけの家畜』を見るような、そんな目をしている。
 そして、その手は、パラレイドデバイスをつまんでおり、それをこれ見よがしに目線の高さに掲げて見せた。

「貴方と貴方のお父様……このパラレイドデバイスの研究を主導していたんでしょう?」
「……え、ええ」
「何人殺したの?」

 その問いかけは、アネットの体に、心に、深々と容赦なく突き刺さった。

「何人見捨てた?何人を犠牲にした?助けの声をどれだけ振り払った?
 貴方は一番パラレイドデバイスを理解している研究員だから、きっと重罪で極刑を受けるわね。
 そうね……非人道的な実験を繰り返した人道や人倫に対する罪、端的に言えば殺人罪かしら?」
「----」

 声は、出ない。不規則な、呼吸ともいえない動きが、空気を求めてなされるだけだ。

「私はたくさんのプロセッサーを、エイティシックス達を殺したわ。ハンドラーとして、戦場に送り込んで。
 でも、だからこそ、その罪と罰には向き合う。贖いを為さなければならないの」

 そして、と最後にとどめが刺された。

「これはこれまでの友情からの忠告よ。あなたはどうするの?」
「……悪魔」

 やっと絞り出せた言葉は、それだけだった。
 そして、それを聞いても、レーナは冷たい笑みを深くするだけだった。

「ええ、貴方もよ。ペンローズ技術大尉?」

 目の前の人間は、もう違う自分の知る人間ではない。
 両者の間で、合成飲料が徐々に熱を失っていった。不可逆的に、あるいは、自然の法則に従い。

168: 弥次郎 :2022/05/16(月) 19:38:30 HOST:softbank126041244105.bbtec.net
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最終更新:2023年08月23日 23:21