190:加賀:2022/12/27(火) 11:30:48 HOST:p4163136-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp



「やっとノモンハンの年ですね……」
「準備は?」
「何とか完了しています。海軍航空隊もいつでも派遣完了です」
「問題があるとすれば戦車か……」
「九五式の系統のアレですか……」
「やっぱあれは無理ダナ」(・×・)
「チニ車を採用した大佐は……?」
「今頃はノモンハンにいるよ」
『デスヨネー』






 1939年の幕が開けた。1月は岡田内閣の後を継いでいた第一次近衛内閣が総辞職をして平沼内閣が成立するが5月12日、満州国とモンゴル人民共和国との国境線を巡って遂にノモンハンにて紛争が勃発した。
 後に言われる『ノモンハン事件』の事である。31日まで続いた第一次ノモンハン事件は史実通りに行われ東捜索隊は壊滅、一旦は第23師団は後退したが第二次ノモンハン事件のために戦力の増強が成された。即ち、第23師団の他にも第22師団、第7師団から抽出された二個歩兵連隊、戦車第三連隊と戦車第四連隊の二個戦車連隊、砲兵、工兵等々であった。
 だが特記すべきは二個戦車連隊だろう。二個戦車連隊はチニ車が主力のため果たして満足にソ連戦車と戦えるかが不安だった。
 しかし、この二個戦車連隊の他にも独立混成機動大隊があった。それが『第334独立混成機動大隊』であった。

「西住大尉」
「……島田」

 ノモンハンの前線に近い草原で第334独立戦車小隊の西住大尉が自身が乗る砲戦車ーー『九七式自走砲』【ホイ】を整備している時にカンテレを鳴らす島田大尉がやってきた。

「我々は後詰めのようだよ」
「……恐らく二個戦車連隊は壊滅するだろう。私は『あの時、彼処にいた』からな」

 島田の言葉に西住はそう言いながら車体のボルトを締め直す。

「……私は『彼処』で地獄を見た。なら、ソ連軍にも地獄を見てもらう」
「……無茶はしないでくれ」

 島田はそう言ってカンテレを鳴らしながらその場を去り西住は再び整備を行うのである。

「それで西住大尉は何と?」
「地獄を見せると言っていたよ」

 天幕の中で島田はカンテレを鳴らしつつ下地上等兵の質問に答えていた。

「西住大尉の中の人は『史実のノモンハン』を経験した人だ……だからこそこの戦いに命をかけている。戦車兵の意地だろう」
「戦車には人生の大切な全てが詰まっているという事?」
「そうだろうね」

 下地の言葉に島田はカンテレを鳴らしながら答えるのであった。そして6月27日、関東軍は参謀本部から禁止されていたタムスク爆撃を敢行した。

「はい、ダウト」
「いつも通りですね分かります」

 辻中佐らの命は年内を越えれない事が決定した瞬間であった。そして関東軍は戦車第三連隊と戦車第四連隊を6月30日から投入をしたものの、史実以上に壊滅してしまい戦車第三連隊は吉丸大佐も戦死、戦車第四連隊も玉田大佐が負傷して後退し壊滅するのである。
 そのため7月3日、第334独立混成機動大隊はソ連軍の侵攻を阻止するがべくハルハ河に進出したのである。

「来ましたね西住隊長、BT戦車多数視認しました」
「………」

 7月4日、戦車・装甲車19輌、対戦車砲数門と歩兵500名のソ連軍が攻撃してきた。それを迎え撃つのは第334独立戦車小隊と歩兵二個小隊、試製機動57ミリ速射砲一個小隊だった。

「島田大尉車より無線です。『我、突撃セリ』」
「……徹甲弾装填」
「装填用意!!」

 装填手を務める秋山軍曹は『ホイ』車に採用されたばかりの97式徹甲弾を装填する。

「五十鈴軍曹」
「照準宜し」

 砲手の五十鈴軍曹は眼鏡を覗きながらニヤリと笑う。それを見た西住小次郎大尉はゆっくりと声を発した。

「撃てば必中……この75ミリの火力を思い知るがいい……砲撃始めェ!!」

 2両の97式自走砲『ホイ』(擬装済み)は砲撃を開始した。放たれた97式徹甲弾は2両のBT-7戦車の正面に貫通し砲塔を吹き飛ばす事に成功する。

191:加賀:2022/12/27(火) 11:31:35 HOST:p4163136-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp
「次弾装填!!」
「装填急げ!!」

 75ミリの空薬莢がカランカランッと床に落ちて秋山軍曹が新しい徹甲弾を装填する。砲撃に気づいた他のBT戦車等は砲塔を旋回させて砲撃しようとしたがその側面から奇襲攻撃を受けたのである。

「天下の独立懸架およびシーソー式連動懸架を舐めんなよォ!!」

 島田車の操縦手である名倉伍長はそう叫びながら最大速力である39kmを出させながらジグザグ走行でソ連戦車(BT戦車)に突撃する。

「下地、装填ッ」
「了解です!!」

 装填手の下地上等兵は57ミリ徹甲弾(97式)を装填しつつ砲手の安芸軍曹に叫ぶ。

「装填完了!!」
「用意、撃ェ!!」

 放たれる57ミリ砲弾はBT戦車の後部エンジンを吹き飛ばし爆発させる。それを見ながら島田大尉はカンテレを引いていた。

「しかし隊長、楽器を引きながら戦闘なんてよくやれますね?」
「なに、むしろ君たちの心を落ち着かせるためでもあるんだよ」

 下地上等兵の言葉に島田はそう答える。

「そうは言いますがそれをやってたら西住大尉に怒られたじゃないですか。戦車の中で音楽を奏でるなんて邪道だと……」
「まぁ西住大尉にも色々とあるさ。それにな下地……」

 島田はキューポラから顔を出す。辺りはソ連戦車が多数破壊されていた。

「彼も同じ戦車乗りだ。だから彼も戦車を愛しているのは分かる、戦車には人生の大切な全てのことが詰まってる。
でも多くの人がそれに気付かないんだ。悲しい事だがね」

 そう言う島田に下地は肩を竦める。

「なら戦車の意地をこの戦いで見せましょう!!」
「そうですよ隊長!!」
「ハハハ、意地……それは戦車にとって大切なことかな? だがしかし……今は君たちの判断を信じよう……」

 下地と安芸の言葉に島田大尉はニヤリと笑うのである。

「では風と一緒に流れていこう……行くぞッ!!」

 そして島田車はカンテレを奏でながら突撃を敢行する。無論ソ連戦車も負けじと反撃をするが反撃する前に西住大尉の『ホイ』に狙撃されて破壊されるのである。

「ホイにまぐれなし……あるのは火力のみ!!」
(やだもぅ……隊長、中身が引っ張られてないか?)

 西住の姿に通信手の武部少尉は溜め息を吐くのである。無論、活躍は彼等だけではない。島田車の後方10mを池田大尉が車長とする『チハ』2号車が走行しながらの行進間射撃をしていた。

「茶柱が立つと素敵な訪問者が現れる……成る程。我々にしてみれば『チハ』と『ホイ』でありソ連軍にしてみても我々か」
「はい?」

 紅茶を飲みながら呟く池田に砲手の石原少尉が首を傾げる。

「なに、気にする事はない」
「ですけど……戦況は不利ですね」
「土壇場を乗り切るのは勇猛さじゃない。冷静な計算の上に立った捨て身の精神だ」

 石原の言葉に池田はニヤリと笑うのである。なお、池田車を狙おうとしていたBT-7戦車は試製機動57ミリ速射砲が撃破したのである。

「やったであります!! 敵戦車撃破であります!!」
「快挙であります!! 快挙であります!!」

 速射砲員達は喜びながらカメラで写真を撮影したりする。この日、戦車・装甲車19輌、対戦車砲数門と歩兵500名のソ連軍は戦車・装甲車、対戦車砲を全て破壊され300名以上の死傷者を出して後退するのであった。

192:加賀:2022/12/27(火) 11:33:12 HOST:p4163136-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp
戦車に命をかけた者達の反撃開始。
辻達の命は年内。
次回 『怪物』

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最終更新:2023年01月15日 09:16