283:モントゴメリー:2023/01/03(火) 20:25:53 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
戦後夢幻会SS――亡霊は消えず~新型戦車開発狂想曲~

1980年、ソ連の対独戦勝記念軍事パレードに置いて公開されたかの国の新型戦車は
後に『T-80ショック』と呼ばれる衝撃と混乱を西側諸国に与えるこことなった。
その詳細な性能は例の如く鉄のカーテンによって隠されていたが映像資料からだけでも

  • 従来のソ連戦車の御椀型鋳造式砲塔とは一線を画する大容量の箱型溶接式砲塔
  • T-72の搭載されているものの改良型と目される125㎜滑腔砲

という注目に値する情報が確認できる。さらに、西側各国の諜報機関が集めた断片情報をつなぎ合わせてみると

  • 車体前面及び砲塔には新開発の多層構造式複合装甲を採用
  • エンジンはこれまでのものとは全く異なる最新式
  • 西側最新鋭兵器であるラインメタル社製120mm滑腔砲をアウトレンジできる能力を持つ対戦車ミサイルを装備
  • 砲塔大型化に伴うレイアウト変更によって従来のソ連製戦車の弱点であった間接防御力の改善
  • 様々な改修に耐えられる良好な冗長性

等といった全貌が明らかとなった。
これに対して西側の盟主たるアメリカと欧州の最前線国家たる西ドイツは半ばパニック状態となった。
そして意外にも上記2カ国と同じくらい(あるいはそれ以上)に衝撃を受けたのが 日本である。
今まで「クレムリンの枢機卿」によって対ソ情報戦では圧倒的優位を誇っていたのに、今回の新型戦車についてはそのルートが機能しなかったのだ。
動揺するのも無理はない。

とは言え、いつまでも嘆いていても仕方がない。
当事者たる国防陸軍はT-80への対抗策の検討を開始する。
しかし、その結果は「現主力戦車である74式では相打ち覚悟の近接格闘戦に持ち込まなければ勝てない」というものであり、陸軍上層部は頭を抱えることになる。
とにかく、次期主力戦車(史実90式相当)の開発を急ぐとともに、次善策として74式用の新型砲弾(史実93式APFSDS相当)の開発に全力を挙げるという方針が立てられた。
しかし、それに対し独自案を提出し対抗する勢力が国防陸軍内に現れたのである。
彼らは現場の戦車兵と一部若手技官を中心とする集団であり、彼らの提案とは「74式戦車の『無砲塔化』による抜本的改修」であった。
それを見た上層部の一人はこう呟いたという。

——亡霊どもが帰って来た

284:モントゴメリー:2023/01/03(火) 20:26:24 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
『亡霊』
それは旧陸軍から連綿と引き継がれてきた「無砲塔型戦車」への信頼である。それは信仰と言って良いレベルに達している。
端的に言えば九七式中戦車殿と共にあの戦争を駆け抜け、心酔してしまった者たちだ。
それだけならば時代の流れによって老兵と共に消え去るのみであったのだが、カンボジア紛争における六一式中戦車の活動によってその思想は「世代交代」に成功してしまったのである。
74式戦車開発の時も彼らに散々苦労させられたのであるが、九七式中戦車殿の父である原乙未生元中将にご動座いただき

「ようやく君たちに砲塔のある戦車を届けることができる」

と語りかけてもらってようやく沈静化したのである。
しかし、T-80の出現はそれを覆した。
彼ら無砲塔派閥が引き下がったのは、74式戦車が仮想敵に対して性能的に有利に立っていると確信したからである。
しかし、T-80によってその確信は粉砕された。
ならば成すべきことは一つ。
回転砲塔を捨てて、そのリソースを攻撃力と防御力に振り向けるのである!!
日本戦車兵にとって回転砲塔とは必須のものではなく、攻防性能が必要水準を満たして初めて考慮に値する「贅沢品」だったのだ。

彼らの主張を要約すれば以下のようになる。
  • 74式戦車から回転砲塔を廃し、主砲を105mmから120㎜に拡大する。
  • 120㎜砲はラインメタル社製が前提であるが、ドイツがまた妨害して来たらアメリカ製を搭載する
  • 浮いた重量を利用し、新型戦車用に開発されている新素材等を採用し防御力を高める

たちが悪いことに新型戦車よりも製造コストが低いために一部政治家や官僚までもがこの提案に同調し始めたのである。


「ちくしょう、苦労してようやく成仏させた亡霊が帰ってきやがった。何故だ!!」
「お盆の時期だからじゃないですか?」

市ヶ谷の夜に国防陸軍上層部の叫びが木霊したという……。

285:モントゴメリー:2023/01/03(火) 20:26:55 HOST:116-64-135-196.rev.home.ne.jp
以上です。
ウィキ掲載は自由です。
本作は元々、yukikaze氏の『西側戦車を撃破せよ――T-80物語』が発表された時に思いついたものです(6年以上前)。
当時は私の腕が足りず、全く筆が進みませんでしたが、yukikaze氏が戦後世界の戦車を見直すというお話でしたので最後の機会と考え作成いたしました。
この6年で私の腕も少しは上がったということですかね?

なお、上記の通り本作の想定は6年前から変化していませんので、if世界には対応しておりません。
ご注意ください。

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最終更新:2023年01月15日 09:28