434 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/25(火) 23:33:41 ID:softbank060146109143.bbtec.net [60/155]
憂鬱SRW ファンタジールートSS「宵闇の翼、ガリアを舞う」
501JFWの活躍により、ネウロイの巣の撃退とガリア解放はなされた。
物語であるならば、これにて一件落着、めでたしめでたしである。そこで終わりになっても問題はない。
しかし、現実にはエンディングはなく、カーテンコールも何もない。無情なまでに「続き」が待っている。
ガリアは解放され、欧州本土への乗り込みに成功した人類側は、速やかにその次に備えて準備を開始した。
ヒスパニアや地中海、さらにはカールスラントと展開すべき方面は多く、それだけの人・モノ・カネを必要とする。
ガリアが解放されたことは喜ばしい限りではあるが、だからと言って浮かれている暇はない。
巣を撤退に追い込むことができたのは事実であるが、ネウロイが奪還した土地に再び侵攻を仕掛けてくるかもしれないのだ。
これまでは欧州本土へと長距離侵攻をかけ、適宜間引きを行いながら情勢を推し量るという方向でしかなかったが、これからは防衛戦もやらなくてはならない。
オーバーロード作戦での消耗をまだ補填しきれているとはいいがたい現状況において、各国は足踏みをしかけた。
ここでガリアに戦線を構築するのは決して楽ではないのだ。
さりとて、ガリア防衛をガリアだけに任せることを良しとしないのが、ストパン世界各国であった。
そのガリアは統合航空戦闘団の設置やら独力での防衛を提案したのであるが、それを許すほど甘くはない。
言い方は悪いが、カールスラント陥落後にあっけなくやられてしまったガリアを信用できなかったのが大きい。
無論、当時有効な戦略・戦術・戦力がなかったことも考慮しなくてはならないのだが、その後のグダグダは記憶に新しかった。
また、ガリア政府内部での勢力争いが傍目にもわかるほどに激化していることもあって、下手に戦力を預けても内ゲバに走ると踏んだのである。
斯くして、ガリアには各国から派遣されてきた軍が駐留し、ガリア政府および軍と連携して防衛にあたるという方針が決定された。
肝心かなめのガリア政府がそれを肯定的に受け入れたわけではないのだが、まあしょうがないのだ。
実際、ガリア軍はオーバーロード作戦に無理に戦力を抽出したこともあって、数的にも質的にも大きく劣っていた。
それは面子を保つために必要なことであったかもしれないし、あるいは分散して亡命政権が樹立されてしまったことも原因かもしれない。
いずれにせよ、あれこれとテコ入れや援助をしても、ガリアが頼りにならないというのは一致した見解であったのだ。
それがわかっているからこそ、なおのことガリアは投機的になっていく。
割り当てられた戦力で相応の仕事をこなすのではなく、それ以上を成し遂げ、国威発揚などを為すべし。
摺りつぶされていく兵士たちをしり目に、ガリア政府の迷走は続いていたのだった。
435 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/25(火) 23:34:16 ID:softbank060146109143.bbtec.net [61/155]
- F世界 ストパン世界 現地時間1944年10月14日9時25分 ガリア ライン川周辺係争地域
帝政カールスラント領との間に存在するライン川を基点とする係争空域は、いつからか「ラインの冠」と呼ばれるようになっていた。
川という自然の要害を生かして防衛戦を張るネウロイ側と、その川を超えて失地奪還を図る人類側の戦力がぶつかり合っている領域だった。
それは地上の戦力は当然として、空中、特に航空戦力と航空型ネウロイによる壮絶な制空権の奪いが主軸に展開されていた。
制空権の確保は地上戦力同士のぶつかり合いに大きく関与する。だから、双方が惜しみなく戦力をぶつけ合う場となっていたのだ。
ネウロイ側からの侵攻、人類側からの侵攻、あるいは偵察を行っていたら不意遭遇戦に発展するなど、枚挙にいとまがない。
この戦場には、死がありふれている。誰もが必死に生き残ろうとして、戦い、泥にまみれ、そして命を摺りつぶされていく。
飛び交うのは砲弾にビームにレーザー、時々ミサイルやロケット弾。
地面をひしめくは陸戦型のネウロイの群れ。
それに対抗するのはウィッチや魔導士、ウォーザード。あるいは通常兵器を操る健気な歩兵たち。
両者は激しくぶつかり合い、砲火を交わし、命のやり取りを行う。弾けるように兵器が、人が形を失い、命を散らす。
後方、奪還されたパリだった場所では「ルミナス・ウィッチーズ」の公演が華々しく行われる一方、前線では地獄が展開されていた。
しかし、前線兵士が如何に嘆こうが、後方ではその死は結局のところ数字としてしか処理されない。
殊更に、戦果を求めるガリアにおいては命など軽いものだ。
軽いからこそ、最早投げ売り状態であった。訓練課程をちゃんと経ているか怪しい兵士が過半を占めている事実がそれを補強する。
成人しているかも怪しい、適性があるかどうかの一点のみを勘定に入れて編成されている前線の将兵。
その消耗さえも前提に入れ、ネウロイの侵攻を相打ちに近い形で受け止め、本隊の行動をアシストさせる。
ガリアの展開した戦術は合理的であった。しかし、そうであるがゆえに、各国の目を厳しくする者であった。
『畜生、弾がない!誰かよこせ!』
前線で陸戦魔導士が必死に叫ぶ。
『うわああああああ!死にたくない!死にたくないィィィ!』
適正ありきでウィッチに仕立てられた少女が、やみくもに空を飛び回って逃げながら叫ぶ。
『落ちろ!落ちろ!落ちろよ!なんで!』
後方での配備先をめぐる暗闘という名の奪い合いと、さらに致命的になるまで温存され、最前線までやっと回されてきたMPFが必死にネウロイに食らいつく。
MPF-002を基に国産化され、近代化された「シュヴァリエTer-C型」を操るウォーザードは、必死に火力を集中させていた。
だが、相手もまたMPFを想定したアーマードネウロイ。識別番号AN-06「装甲白兵型」と呼ばれるタイプだった。
装甲を纏いつつ、同時に格闘戦に使える多関節の腕を複数本有しており、おまけに本体からはビームを放つ強敵だ。
やたらめったらに攻撃を加えようとも、EAを減衰させ、ちゃんと装甲を穿たなければならない。
『あっ……リロード!』
そして、両手に持って乱射していた30㎜アサルトライフルが両方とも弾切れとなる。
即座にサイコ・エミュレート・デバイスを通じてリロードが支持され、サブアームが予備のマガジンを引き抜いて差し出す。
同時にアサルトライフルからは空のマガジンが排出され、サブアームのマガジンを受け入れる態勢に入る。
436 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/25(火) 23:35:02 ID:softbank060146109143.bbtec.net [62/155]
しかして、それは致命的な隙であった。
いかに機械による自動化と高速化を図っているとはいえ、そのリロードはどうやっても数秒は必要とする。
そして、有視界戦闘において、その数秒の隙があれば相手の懐に飛び込むことなど造作もないことなのだ。
まして「装甲白兵型」は白兵戦において、その腕による打撃や貫通力のある刺突を繰り出すことで高い戦闘力を発揮するのだ。
30㎜の弾幕による足止めがなくなれば、その間に距離を詰めようとすることは当然であった。
ウォーザード側も、そしてMPFを制御する魔導コンピューターも早々に諦めはしない。
機体に固定武装として搭載されている12.7㎜機銃が火を噴き、必死に相手の動きをけん制する。
残念ながら、それはEAを多少減衰させるにとどまり、動きを止めるには至らない。
ここで訓練をしっかりしていたウォーザードならばアサルトライフルを捨て、マギリングブレードを抜くのだが、それに思考が至らなかった。
訓練不足だ。促成教育しかしない、使い捨ての兵士だからこそ、そこまでの能力を求めなかったが故の結末。
(まずい……!)
そのウォーザードは、装甲白兵型の鋭い腕が複数本迫ってくるのが、スローで見えていた。
同時に、走馬灯が走る。
どうあがいても死ぬ、そのビジョンに支配されてしまった。
後退しながらリロードの完了まで持ちこたえるはずが、予想以上に相手が素早いことで、あっという間に距離を詰められたのだ。
(ごめん、母さん……!)
後退を諦めず、しかし、これは死ぬと覚悟を決めた時---それが着弾した。
『!?』
轟音とともに、装甲白兵型に突き刺さった砲弾。
シールド同士の反発を利用して火薬式の限界を軽々飛び越え、さらにシールドに梱包されることで空気との接触による弾頭の劣化もない。
正しく理想的な状態でそれは装甲を食い破り、ネウロイのコアを貫通せしめ、とどめを刺したのだ。
『そんな……今のは!?』
爆散するネウロイから離れてようやく周辺を見渡す余裕ができて、ガリアのウォーザードはその砲撃の異常さに気が付いた。
着弾してから、ようやく発砲音と思われる鋭い炸裂音が追いかけてきたのだ。その間実に数秒はあった。
つまりそれだけの狙撃を敢行したということになる。この激しい機動戦闘の中で、ネウロイだけをピンポイントで。
アーマードネウロイの大きさは人よりは大きいとはいえ、大きくとも10mを超えることはない。おまけに人型で非常に細身なのが基本だ。
そんなのを遥か彼方から狙い撃った?
『……』
思わず砲弾が飛んできた方向を振り返る。
サイコエミュレートデバイスが意を酌んでそこをズームしていく。
いた、光学視認。IFFに応答があり、そこに表示された国籍は---
『カールスラントか!』
確認されたのはシュヴァルムが3つ---2機で一組のロッテとなり、それを二つ合わせることによる4機一個小隊---合計12機だった。
そして、先頭を行くシュヴァルムを構成する4機のうち1機が明らかに長大な砲を抱えていることが観測できた。
長機がそれを構え、僚機が観測主となることで超長距離からの狙撃を成し遂げたのだろう。
そして、戦域に展開している戦力の通信回線に鋭い声が走った。
『こちら、カールスラント空軍ガリア派遣航空群第一グループ第4戦隊「アーベント・フリューゲル」!
ただいま作戦宙域に到着した!これより戦線の立て直しを援護する!』
『増援……来てくれたのか!』
来ないことが常と聞いていた最前線も最前線の壁役---半ば消耗前提の使い捨て---を救援とは。
どうやら母国(ガリア)の使い潰し戦術には各国も眉を顰めるだけではとどまらなかったか。
助かった。その認識があったのだった。
437 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/25(火) 23:36:05 ID:softbank060146109143.bbtec.net [63/155]
『各小隊ごとに散開、予定通りネウロイの排除を開始せよ。
我が戦隊の目標は制空権の確保と、前線戦力の交代支援だ!』
『Ja!』
回線に乗るのは、いずれもが女性の声。
そう、「アーベント・フリューゲル」のウォーザードたちはすべて元ウィッチか現役ウィッチの転科兵で構成されている。
そうであるがゆえに、経験値や技量の高さなどは他のウォーザードを凌ぐものであったのだ。
そして、現役ウィッチならではの特性を生かしているのも、この部隊の特徴であった。
『クラーラ!カバーを!』
『了解!』
長機と僚機の関係が一時的に入れ替わり、クラーラ・エルンストがエーリカ・レールツァーのカバーに入った。
同時に、エーリカの纏うヘルト・リッターに搭載されたエーテル・アクセラレータ・モジュールが稼働を開始する。
『諸元入力……アクセラレータ・モジュール稼働率問題なし、兵装展開、良し!』
そして、刹那、エーリカの動きがぶれた。
それは、固有魔法「自己加速」の証拠。
常人の数倍以上の動きを可能とするそれが、エーテル・アクセラレータ・モジュールの効果で増幅され、現実となったのだ。
エーリカ機に搭載されていた火器---両手に持っていたマギリングマグナムや懸架されていたいくつもの武装---が一斉に稼働。
通常のそれを超える勢いで、弾丸や光線を解き放ったのだ。それも、一斉に。
FCSに導かれ、飛び回る複数のネウロイの未来位置を予測し、同時に偏差射撃を行う。機械と人の力の融合の具現が、そこにあった。
『……ッは!』
そして、わずかな時間差を以て着弾した。
戦域にいた多くのネウロイが、余すところなく連続攻撃を喰らい、一斉に爆散し、形を失っていくのだ。
フルマーク。まだ装甲が硬いことで生き残っているアーマードネウロイもいるが、残りは少数。
『とらえた!』
そして、被弾したそれらを、カバーに入っていたクラーラの射撃が的確に襲う。
魔導式レールスマートガン「カラドボルグ」の連射モードによる、連続の狙撃だ。
一発当たりの威力は最初の長距離狙撃に劣るが、ここまで距離が迫っているならば問題はない。
むしろ、無駄な魔力を使うことなく、適切な出力で砲弾を送り出せるので、この状況には適合していた。
『スイッチ!』
『了解!』
そして、狙撃で粗方片付けたクラーラはエーリカの前に出た。
そのタイミングは丁度エーリカの固有魔法が終わりを迎えた時であり、各武装がリロードに入った瞬間に合わせていた。
油断なく展開されたシールドとエーテルバリアが、遠方からエーリカを狙ってきたAN-05「狙撃砲台型」のビームを弾く。
同時に、着弾したデータをもとに瞬時に導き出されたネウロイの位置目がけ、クラーラは「カラドボルグ」を構え終えていた。
『もらったわ!』
そして、ライン川上空に3つの爆炎が咲いた。
これによって長距離狙撃される恐れがなくなり、ヘルト・リッターも遠慮なく前に出ることができるようになった。
『……』
ガリア軍の兵士たちは、陸の兵士も空の兵士たちも、茫然と一連の無駄のない攻撃を見ることしかできなかった。
非常に洗練され、無駄がなく、効率的にネウロイを狩る動き。まるで自分達とは違う次元に、世界にいるかのような錯覚さえも。
機械の翼をはためかせた少女たちは、戦場へと散って行く。まだ状況は始まったばかりなのだから。
438 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2023/04/25(火) 23:36:39 ID:softbank060146109143.bbtec.net [64/155]
以上、wiki転載はご自由に。
久しぶりに戦闘をそれなりに。
予告通り頑張りました。
最終更新:2023年08月23日 22:55