78:陣龍:2023/02/14(火) 21:38:39 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
『日本競馬の最新神話 ターフの亡霊・ゴーストウィニングの凱旋門賞レース記録【破】』


『――――凱旋門賞、今スタートです!!』


 ブリッツカイザーがせびり倒して二回目の使用権を強奪した視聴覚室のプロジェクターに映し出される、
『ゴーストウィニング号』が日本馬初・非欧州馬初の勝利を納めた凱旋門賞レースの映像。


「あっ、『ライトニング』が出遅れ……って、えぇ!?」
「はっや!?なんやあの加速!?」
「闘争心が災いしてか、スタートはちょっと苦手見たいだけど、それを補って余りあるスピードがあの馬の持ち味だからねぇ」
「ちょっとそれ理不尽過ぎまセンカ!?」
「【エクリプスの再来】がその位の事を……えっと、やらいでか?」
「使い方がちょっと違いますね、ゴーストちゃん」



 ゲートが開いてからの初手、ほぼ全ての馬が出揃う好スタートの中唯一『ライトニング』のみが一瞬出遅れるも、
出遅れ等無かったかの如く瞬く間に馬群後方から抜け出し、先頭を駆けていた。

「こんな競走馬はちょっと見た事無いのです」とは、数ヵ月後にこの世界に来るとある駆逐艦娘の感想である。


「これは……」
「いやいやいやいや、幾ら何でも早過ぎでしょ……」
「ゴースト!貴様、まさか映像を改変したりしておらぬであろうな!?」
「出来る訳無いでしょ」
「エル、口が空いて腰が浮いてますよ」
「……ケッ?!何時の間に!?」



 この場に置いては、現役にて凱旋門賞を走った唯一のウマ娘であるエルコンドルパサーが、自身の経験と照らし合わせてみると、
余りにも理解し難い映像に衝撃を受けた末に、知らぬ間に中腰となってポカンと口を開けてしまっていた。さもありなん、
典型的重馬場である欧州の馬場でありながら、日本ではツインターボやサイレンススズカを彷彿とさせる異次元の大逃げを
『ライトニング』が敢行していたのだから。

79:陣龍:2023/02/14(火) 21:40:09 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

『何時もの様に大逃げに走る『ライトニング』。数多の大逃げ馬の様に『逃げる大逃げ』では無く
『叩き潰す大逃げ』と言う恐ろしい戦法に敗れた馬は数知れず。唯一勝利を二度重ねているのが、
何の因果か日本の『ゴーストウィニング』のみであります』

「……随分な物言いですね」
「大逃げ馬の大体は他の馬を怖がったり馬群を嫌ったりしての苦肉の策の大逃げ戦術だそうだから、
言ってる事はそう間違っていない…かも?もっと言うなら、単純に身体力が飛び抜けているからこうなってる、
見たいな?」
「マックイーン見たいに無尽蔵のスタミナで相手をすり潰す見たいな感じかなー」
「若しくは、マルゼンスキーさんの様な……」


 聞きようによっては大逃げ馬を謗っていると聞き取られかねない実況者の物言いに、
一瞬だけ不快感を覚えたレインボーロードに対し、適切なのかどうなのか中途半端な解説をする
ゴーストウィニングに、それぞれの感想を言うトウカイテイオーとグラスワンダー。


『そしてその二度の勝利と同じく馬群から飛び出て来るは我が国の至宝『ゴーストウィニング』、
四馬身、五馬身の間を開けて追随、その更に後方からは『ヴィクトワール』!
『ヴィクトワール』も馬群の先頭に立っております!』


 ウマ娘達の物言いを他所に映像では、馬群を置き去りにする『ライトニング』を追いかけて『ゴーストウィニング』、
更には差し馬でありながらも馬群先頭に抜け出た『ヴィクトワール』が最初のコーナーを回る処であった。
本来差し馬であるはずの『ヴィクトワール』が馬群の先頭に立っている時点で、
このレースが尋常ではない事は容易く見て取れた。当然の事であるが、
先の説明ではまともに解説されなかった馬群の馬たちも、凱旋門賞に出走出来るだけの実績と能力を誇っている。
ただ単に、『ライトニング』と追随している『ゴーストウィニング』が【Crazy Horse(某米国人馬主談)】と言うだけである。

「こんな事、有り得ませんわ…」とは、この凱旋門賞の翌年にジャパンカップで日本馬をぶっちぎる欧州馬すら
置き去りにされる有様を見た別世界の『名優』の言葉である。



「そう言えばエルコンドルパサー、貴様も凱旋門では逃げで走っていたそうだな?」
「ケ!?」
「……カイザー」
「い、いや待たれよレインボーロード!?今の余はただ単に声を掛けただげぐぇっご…!」
「申し訳ありません、エルコンドルパサーさん。【コレ】も口振りで誤解されてしまうのですが、悪気は無いのです……一応……」
「アッハイ」

80:陣龍:2023/02/14(火) 21:42:37 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

 その尊大な物言いと口調で、まるで取り調べ室の警官の如き物言いをしたせいでエルコンドルパサーを驚かせ、
そして流れる様に相方に締め上げられるブリッツカイザー。何も知らなければ、
この三者がG1レースに打ち勝ったウマ娘とは、とても見えないだろう。交換留学生に絡みに行った不良擬きが、
生徒会長か学級委員長に絞められている程度が関の山か。



『――――約600メートルに渡る直線の上り坂、数多の馬も苦戦するこの壁ですが『ライトニング』も、
『ゴーストウィニング』も全く行き足が衰える気配が有りません。未だ先頭から五馬身差を維持したままの【ターフの亡霊】、
日本競馬界悲願の凱旋門賞へと至るロンシャン競馬場の頂き、第一コーナーをここから曲がりながらの500メートル下り坂です』


「……改めて見て見ますと、日本のレース場とは全然違いますね」
「一から整備した日本や香港の競馬場とは違って、欧州の競馬場は自然の牧場に柵を立ててレースする場になった様な
歴史が有るそうだからね」
「ほぇぇぇ……」


 どっかのN〇Kのアニメキャラ見たいな反応が出て来るスペシャルウィークに思わず微笑むグラスワンダーとゴーストウィニング。
直ぐ近くで夫婦漫才している欧州産転生UMA娘と比べて、何とも平和である。


「この曲がりながらの下り坂が面倒なんですよネー…勢い付きすぎちゃうから、減速しないと…」
「……エル、画面を見て下さい」
「ケ?どうしたんですかグラ……ケェェェェ?!」


 画面の中の凱旋門賞。実況者も困惑と驚きを隠しきれず、また観客のどよめきも漏れ伝わる中映し出されて居たのは、
カーブを曲がりつつの下り坂、そしてロンシャン競馬場特有の『フォルスストレート(偽りの直線)』へ、
一切減速しない所か何の躊躇無く加速していく『ライトニング』の姿が有った。『ライトニング』に騎乗する騎手も手綱を引く処か
更に加速させている為に、ただ単なる『ライトニング』の暴走でも何でもない作戦と言うのは、容易に見て取れた。


「あの馬も騎手も正気か!?まだ下り坂入った所でゴールまで遥か彼方だ!」


 何故か分からないが関西弁が飛んだカナリハヤイネンが言う様に、軍用車どころか重戦車がレースしている様なUMA勢とは違い、
それこそガラス細工の高級車が突っ走っている様に進化を遂げたサラブレッド種に取っては、
如何に『ライトニング』が【エクリプスの再来】と称される程に飛び抜けた資質と能力を持って居ると言っても、
余りにも無茶な作戦であった。限界の速度を超えた馬の未来は、日本では【沈黙の日曜日】が語っている。



「この前鞍上にこの事聞いたら、【ターフの亡霊】の追走を完全に断ち切る為だけを考えた作戦にして大博打の積りだったそうだよ、
向こうの陣営としては」
「理由は分かるが正気じゃねぇやい!!」


 実際に走った記憶の有る事からこの先の事も知っているし、序でに以前に聞いた事実を事も無げに言うゴーストウィニングの言葉に
反応し突っ込めたのは、関西系に有るまじき江戸っ子系な言葉遣いを発したカナリハヤイネンのみだった。

81:陣龍:2023/02/14(火) 21:45:27 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

――――生まれも育ちも超良血、馬主の女王陛下へ英国ダービーの栄冠を捧げた奇跡の名馬とその陣営は、
      何てことの無い筈の前哨戦、そして決して負けられないと奮起したKGⅥ&QE杯にて、
      極東から来た何処の馬の骨とも分からぬ日本馬に真っ向勝負で粉砕された。


――――そして【ターフの亡霊】に打ち負かされた当馬の前にて行われ、『ライトニング』も聞き入ったとされる陣営会議により、
      極めて単純明快、然れども女王陛下も呆れた狂気の一策に結論付けられる。


――――……【ターフの亡霊】が追随して差してくるのなら、追随出来ない程に置き去りにすれば良い。


 【極東の悪夢】等とすら言われた『ゴーストウィニング』、そのレース記録を洗い浚い調べ尽くした結論の、
大逃げを超えた逃亡劇。皮肉なことに、今まで自身の能力に驕ってか調教も不真面目だった『ライトニング』が
黙々とトレーニングに従い、そして騎手との人馬一体となる初にして真のレースが、この凱旋門賞だった。



『何という事でしょう!『ライトニング』が全ての定石を無視して下り坂から一切勢いを止めず!
そのまま一気に偽りの直線へと飛び出て来る!』

「速すぎるって……しかも泡も吹いていないって……」
「まぁ、この一戦の為にキングジョージ杯以後のレース出走を取り消して徹底した心肺機能強化の調教に励んでいたそうだし、
多少はね?」
「多少はね、ってレベルじゃないけど……」


 ナイスネイチャのボヤキ、ゴーストウィニングの回答、トリプルターボの呆れの言葉を他所に、
周囲のウマ娘は全員画面の凱旋門賞に釘付けだった。


『一気に加速し突き放しに掛かる『ライトニング』ですが、一頭後方より駆けて来る!駆けて来るのは『ゴーストウィニング』!
その更に後方からは『ヴィクトワール』だ!『ヴィクトワール』に続く馬は一頭も無し!』


 暴走とも見れる、否そうとしか見れない『ライトニング』の逃亡劇に、即応してジリジリと詰め寄りに駆ける『ゴーストウィニング』に、
普段より遥かに早く仕掛けに掛かった『ヴィクトワール』。その背後の馬群は続かなかった…否、【続けなかった】。



『『ライトニング』逃げる!『ゴーストウィニング』!『ゴーストウィニング』が飛んでくる!『ライトニング』の大逃げにも負けずに
弾んで駆ける栗毛の馬体が【エクリプスの再来】の背後へ突き進む!!』



 危険を承知で続いて下り坂を突っ込んで行った『ヴィクトワール』と、極々当たり前の様に逃げ馬に追随する
『ゴーストウィニング』は兎も角、その他の馬と騎手は余りにも危険性が高く、
また強引な突撃はスタミナの浪費を引き起こすだけと判断したか、前方の爆走トリオを見送りペースの維持を続けていた。


「あぁー……この三頭がアタマおかしいだけで、馬群の騎手らの方が普通やなぁ……」と呆れながら呟くは、
異世界からの【雷神】ウマ娘の言葉である。

82:陣龍:2023/02/14(火) 21:47:58 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

『『ゴースト』猛追!『ゴースト』猛追!逃げる『ライトニング』も既に捉えたか!?捉えた、捉えた!
追い付きそのまま抜き去る!先頭に、先頭に躍り出た『ゴーストウィニング』!もう目の前だ!
凱旋門賞は目の前だ!!』

「……綺麗」


 視聴しているウマ娘の誰かが呟いた一言。先のUMA勢の凱旋門賞も迫力満点手に汗握るレースであったが、
だがほぼ全てのUMAが泡を吹き、全てのスタミナを削り切られた末のデッドヒートと言う【泥仕合】。
今目の前で繰り広げられているのは、サラブレッド種かと疑う速度での鍔迫り合い、
達人同士の限界を超えた【決闘】その物。必死に駆ける『ヴィクトワール』すらも、
この【決闘】へ割り込むには致命的にタイミングを誤り切っていた。スタミナ切れで垂れる等と言う無様な終わり等、
望める筈も無かった。


「……うん。……もし出来るのならば、彼とも走って見たい」と、単刀直入に語った、
異世界から来た葦毛のアイドルホースの思いは、恐らくこの『ライトニング』の激走を見た虹の向こうの伝説たちも同じく思う事だろう。



『フォルスストレートを抜けてスタンド前最後の直線500メートル!未だ『ライトニング』猛追!
猛追する『ライトニング』、抜かせない!抜かせない!『ゴーストウィニング』抜かせない!!
ハナ差、アタマ差、少しずつ、少しずつ差が開く!』


「へ?!未だ500メートル!?東京レース場とほぼ同じ直線、もしかして、このままずっと!?」
「いっけー!ゴーストちゃーん!!」
「ゴーストさん…!!」


 隣に当人が居る事も忘れ、握り拳を作って応援に熱狂が入るウマ娘勢。最早解説も不要と壁の華になっているゴーストウィニングは、
今になってカナリハヤイネンが過去のレース映像を見る事を渋りに渋っていた事が、何となく理解出来た。
…その理由が『周囲が本人置き去りで応援していて寂しくなるから』、と言う見事に明後日過ぎる『理解』だったのっだが。



『最内、最内より『ヴィクトワール』!『ヴィクトワール』ジリジリ迫る!『ライトニング』届かない!頑張れ『ゴースト』!
『ゴースト』、残り200!残り200!!』


 実況者も、史上初の偉業が目前に迫って思わず私情を溢しつつも業火の如く熱が燃える実況を、観客席では人馬未踏、
怪物同士の一騎打ちに日欧問わず観客が怒号の歓声を轟かせる。

『『ヴィクトワール』もう届かない!あと150!あと100!来た、ついに来た!『ゴーストウィニング』とうとう来たぞ!!
『ヴィクトワール』はこれはもう届かない!!』


そして、その瞬間が訪れる。

83:陣龍:2023/02/14(火) 21:48:47 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

『『ゴーストウィニング』!振り切った!日本馬悲願!悲願の!凱旋門賞!『ゴーストウィニング』制覇ァァ!!』


 日本競馬界の悲願、それは【死闘】を超えた【戯れ】の末に齎された。







「……すっごい声大きい」
「あはは……」


 尚、怒号の如き歓声は此処視聴覚室でも一室全てで反響する勢いで発せられ、興奮し切りなウマ娘たちを他所に、
ゴーストウィニングは両手で耳を畳み、唯一の『ヒトミミ』な南坂トレーナーは苦笑していた。


『――――25戦無敗、G1を13冠!彼の伝説、『キンチェム』に次ぐ21世紀の新しき神話!これから何処まで、栄光を積み重ねていく事でしょう!!』


 因みに数ヵ月後、自身に次ぐと称された極東生まれの競走馬の存在を楽しみにしていた『無敗伝説の神馬』が、
事情が有ったとは言え手合わせどころか顔合わせする前に追い返していった事に対して相当不機嫌になり、
『神馬』やらに余計に胃痛を与える事になる。まぁ、自業自得と言うべきか。

84:陣龍:2023/02/14(火) 21:50:36 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
|д゚) 今回のイメージソングは【奇跡さえも】となります。大体馬主側の視点になりますが

|д゚) …さて、後は割と蛇足になりそうな【急】の日本帰国後のゴーストウィニングもにょもにょ話か……

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最終更新:2023年07月02日 17:30