460:陣龍:2023/06/30(金) 21:42:31 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

『夢の頂き 東京優駿』


 五月は末日、最後の日曜日。東京都府中市に存在する東京競馬場。



「はい押さないでー!押さないでくださーい!!」
「人が、人が多い……!」
「トレセン学園生徒やそのご家族、関係者の方は此方でーす!」
『至急至急、窃盗犯と見られる星を確認、直ちに応援を要請、場所は競馬場正門通り。府中〇三一……』
「ほっほっほっ……まるであの時の、【風神】が駆けたあの日を思い出す人手じゃ……」



 例年大賑わいとなるこの時期のこの場所は、例年を遥かに超える無数の群衆に埋め尽くされた。
既にスタンドが満席となるも尚押し寄せる群衆の為、既にフランスはロンシャン競馬場にて実績のある
『空中競馬場』を模した『空中観覧席』を急遽設置すると言う異例の対応にすらなっていた。
出店や周辺の自販機なんかはとっくに売り切れが続出し、出前を運ぶ配達員の自転車や
急遽仕入れや仕出しも行うトラック等も行き交う程の魔境である。



「うぅぅ……疲れた……こうなるんだったら皆と一緒に最初っから転移させて貰うんだった……」
「ツルちゃん、お疲れ様デース。いやー、災難でしたねぇ」
「ツルちゃん、身体大丈夫?私、おんぶする?」
「全く……『今日は調子も良いしトレーニング代わりに普通に行きます!』って、
流石にこの人混みだと自殺行為よ……ほら、お茶よ」
「うぅ……何も言えない……」
「これからは、遠慮しないで行きましょうね。ツルちゃん?」

「ヒトオオスギダモンニ!!」
「あ、マヤ分かっちゃった!テイオーちゃんこっちこっち!!」
「ギィヤァァァー!!人の波でおマチさんがー!?」
「フクちゃん先輩ー!?何処に行くんですかー!?」
「はいはーい、フクちゃんもおマチちゃんもコッチだよー」


 その東京競馬場のスタンドには、暗黙の了解……では無く、JURAと言うこの世界にしか
現状各並行世界に置いても存在が確認されて居ない、競馬とウマ娘それぞれの協会が合併した組織の要請により、
トレセン学園生徒の多くが優先して入場していた。ただヒトミミ勢も多数押し寄せていて、
スタンドへの入場制限が掛けられる前に押し寄せた人々も又多く、
結果ウマ娘の脚力等でも抗えない勢いの人の波による混雑が暫く続いていた。

尚最終的に優先入場資格のあるトレセン学園ウマ娘たちは、ティ連技術を用いたスタンドへの転移作業にて事無きを得る。
副産物として、大規模イベント会場や商業施設等に置いて、迷子や連れ去り事件等の対応に関する
疑似的なノウハウが蓄積されたそうであるが、ウマ娘や一般人らには関係の無い話である。

461:陣龍:2023/06/30(金) 21:44:23 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「……いよいよやな」
「……そうだね」


 その様な喧騒を他所に、ウマ娘の集うパドックでは闘気を立ち昇らせる数多の出走者達が集っていた。


「……で、あいつは何時もとなんも変わりないなホンマ」
「出走枠の抽選で一枠一番を引いて頭抱えていたけど、全然そんな事思い出させないね」
「最近は更にアイツがレース中に何考えてんのか分からんくなって来たで……」



 競争馬が周回する通常のパドックの雰囲気とは違う、数多の歓声を一身に受け、
そして手を振る等のファンサービスで応える約一名の栗毛ウマ娘を見遣る、二名のウマ娘。
前世の記憶、それも巨体化した世界の日本固有種である日本馬の競争馬として生まれ、
そして世界を制した『トリプルターボ』と『カナリハヤイネン』である。前者は厳密に言えば
前々世から二度目の転生なのであるが、複雑なので割愛する。


 一方その二人に見定められているのは、これまた同じく競争馬から転生した経歴を持つウマ娘の
『ゴーストウィニング』。このウマ娘もまた極めて複雑な事情と経緯でこの場に居るのであるが、
その様な暗い過去の事は一切忘れている様な雰囲気と行動で、【同類】である転生ウマ娘らや
破天荒()なウマ娘を全く悪意無く振り回す、所謂お騒がせ娘である。
カフェテリアの在庫を消し飛ばす某大食い三人官女(唯の筆頭格)や、最近この亡霊ウマ娘に対抗しようとして
空回りしている某不沈艦の方が、騒ぎの規模としては大きいが。



「一応聞いてみたけど、当然ながら何も答えてくれなかったね」
「まぁ……如何にいっつもポワポワしている様なやっちゃでも、レースに関してはしっかりしてるっちゅう事や。
ウチらだって手の内見せる訳無いしな」



 日本ダービーとも称される東京優駿に置いて、概念的に『運の良い馬(ウマ娘)が勝つ』と言われ、
そして内枠に抽選で入った馬(ウマ娘)が幸運とされている。実際の所、過去20数頭、最大30頭で出走していた時代は
大外枠となるとほぼ勝ちの目が無い事からそう言う格言となったのだが、現代では出走数が絞られている為に、
内枠が一応有利では有っても絶対的に内枠が有利と言う事では無かったりする。

 その様に、レース展開の運命を決定付ける枠番抽選に置いて、ゴーストウィニングは一枠一番と言うある意味
最高の枠番を引き当て…そして引き攣った顔で暫く硬直し脇目も憚らず頭を抱えた。
逃げウマ娘ならば間違い無く最高の引きなのだが、ゴーストウィニングは生憎と先行型の脚質、
しかも最終コーナーを超える直前まで控えるタイプのウマ娘。先の皐月賞、そして包囲網を強引に振り切ってサトノダイヤモンド、
キタサンブラックとゴール板直前まで縺れ込んだデッドヒートの末、空前絶後で前代未聞の三者同着一位と言う
異常事態になったオークスでも、ゴーストウィニングは熾烈な包囲網を突き破るのに極めて苦労した。

だからこそ、大回りによる消耗を加味しても包囲網を敷かれる危険性の少ない大外枠を望むと公言していたのだが、
運命はその望みを叶えなかった。

462:陣龍:2023/06/30(金) 21:45:46 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「ま、アイツが何考えてんのかとかはどーでもええことや……負けへんで、トリー」
「そうだね、カナ。……負けないよ、誰にも」


 今現在無敗街道を爆走し続けている『ターフの亡霊』に負けず劣らずの歓声と応援が降り注ぐ中、
二人の転生ウマ娘は必勝を改めて誓い、スタンドに集ったファンたちに応えるのであった。



「オーウ、お疲れーィエクソシスト共ォ!これはゴルシちゃんからの冷え切った熱―いお湯ダァ!!
しっかり味わって飲めよ!じゃあな!!」
「えぇ!?あ、は、はい、ありがとうござ……行っちゃった」
「相変わらず元気ですね、ゴルシ先輩は」


 パドック内のバチバチ模様は兎も角、スタンドにはその怪物亡霊ウマ娘と同着になると言う偉業を達成した
キタサンブラックとサトノダイヤモンドも来ていた。因みにそのオークスでは義理の祖父となった某歌手が
祝いの一曲を魂込めて熱唱した為、まるでキタサンブラックが一着を獲ったかの如き雰囲気になってしまう
放送事故が発生したが、割愛する。尚ゴルシは何時も通りに焼きそばとその他売りである。



「……おやおやー?これはこれは、彼の『ターフの亡霊』に初めて同着したお二人方じゃないですかー」
「おー、こりゃまた奇遇だねぇー」
「あっ、セイウンスカイさんにナイスネイチャさん!?」
「お疲れ様です、スカイさん、ネイチャさん。スカイさん達も、やはりゴーストさんのレースの偵察に?」
「そうだねー。まぁ偵察と言うより、流石にこの短期間にG1レース出走を繰り返してると、身体の方が心配になるからねぇー」
「幾ら頑丈だからって、無茶苦茶にも程があるってのにねぇ……」


 そしてその場に偶然遭遇したのは、絶対的優駿【ゴーストウィニング号】に最初で最後の先着勝利を成し遂げた、
ウマ娘セイウンスカイとナイスネイチャ。一時期成績や成長が伸び悩んでいたが、【ゴーストウィニング号】との一戦や
その後のウマ娘【ゴーストウィニング】との関わり合いの為か、限界突破したかの如く再び急成長を始めている二人である。

……諦めと劣等感?知らない子ですね。


「……【運も実力の内】とは言いますが……それでももう少し、キッチリとした決着を付けたかったです」
「一時間近い検証と判定の結果が、三者同着と言う前代未聞の大記録だからねぇ」
「まぁー、言わんとする事は分かるけどねぇ。……でも、運勝負に持ち込めるのには、それ相応の実力が有っての事。ゴースト相手だと、猶更」
「はい。ですので!これからも私達は精進して参ります!!」
「うん!一緒に【本当の勝利】を獲りに行こう!ダイヤちゃん!」


 フンス!と前屈み姿勢で握り拳を作る何時ものサトノダイヤモンドと、腕を振ってそれに応えるキタサンブラックを見て
『若いって良いねぇ』『いや、ネイチャさんも似たような歳でしょうに』と何時ものやり取りをするナイスネイチャとセイウンスカイ。
同着勝利と言っても、外から回って障害が無かったサトノダイヤモンドや、スタートから先頭を走り続けて理想の展開に持ち込んだ
キタサンブラックが、先の皐月賞を超える濃密な包囲網を突破するのが遅れに遅れたゴーストウィニングと言う最高の状況下に有って、
最終結果が三者同着一位。手放しで喜べる話でも無いだろう。

463:陣龍:2023/06/30(金) 21:47:09 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「ターボさん、ターボさん、此方です。すみませんネイチャさん、遅れました」
「あー!居たー!ネイチャーー!!」
「ありゃ……やっとここに来れたんだね、ターボ。と言うか、一体今まで何処に居たのやら」
「人混み多かったですからねぇ。それじゃ、私もこの辺でスぺちゃん達と合流して来ますので、それではー」
「お疲れ様です!……あっ、ターボさんに続いて、カノープスのトレーナーさん達も……」



 そうこうしているうちに、漸くの事でスタンドに先に到着していたナイスネイチャに合流したツインターボ、
そしてそのトレーナーである南坂トレに最近多数新規加入して来たウマ娘達。


「全くこの人混みは……おぉ!貴様らは我がライバル(一方的主張)足るゴーストウィニングに一足早く
同着一位になったキタの字とサトの字で」(ゴキャランド)
「……申し訳ございません、御二方。【コレ】に悪意は無いのですが、生来気位が無駄に高いので、言い様が……」
『レインボー殿、ブリッツ殿の言い分より流れる様にレインボー殿がブリッツ殿をメキョられた事に、
お二人は驚かれているようで御座るぞ』
「あら、これは失礼あそばせオホホホ」
「最早、何時もの流れですね」

「……大変そうですね、ネイチャさん。南坂トレーナーさん」
「まぁ……慣れてしまえば、どうにもなりますから」
「成程……普通のチームでは早々見られないこの状況こそが、不可能だと何だと言われたジンクスを破る原動力に……」
「いや、多分それはジンクスとかそう言う事じゃ無いから」



「いやぁー、皆さんお揃いで。あ、ツルちゃん大丈夫だったんだ?」
「スカイさん!?一体何処に居たのよ!こっちは大変……何よコレ」
「ゴルシ先輩からの焼きそばと冷え切った熱いお湯」
「焼きそばは兎も角、冷えたお湯ってぬるま湯の水……」
「美味しそうー!セイちゃん貰っていい!?」
「スぺちゃん……相変わらずの食欲デース……」
「後で減量ですね、私やエルと一緒に」
「ケッ!?それグラスがスぺちゃんと走りたいだけじゃ……」
「昨日私の焼き魚とご飯に激辛ソースを引っ掛けたエルは、私とスぺちゃんの3倍走って貰いますね?」
「ケッーー!?」



「……騒がしいなぁ、あっこは……さて、と」
「もうそろそろ……」


 スタンドの各所にて、同世代ウマ娘やチームのウマ娘達が集合を終えた頃、レース場を見遣ればそこにはゲート前にて
各々の準備を終え、ウマ娘達一人一人が係員の誘導でゲート入りを始めていた。一部ゲート入りを嫌がり係員に
押し込められている何時もの風物詩が有るが、何処かの気性難ゲート嫌い魔法ウマ娘の様な重大な抵抗は無く、
すんなりとゲート入りは粛々進められていた。

464:陣龍:2023/06/30(金) 21:47:50 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「……いざ」
「……勝負の時っ」



 東京優駿に出走する全てのウマ娘、そして同じトレセン学園に通うウマ娘にスタンドから
『空中観覧席』に至るまで詰めかけた数多の観客、加えて中継を通じてテレビ、ラジオ、スマホ、
ウマホ等で視聴する日本全土から一部海外の視聴民に至るまで。



『日本ダービー、今スタートです!!』


 誰もが想像し、思い描き、予想していたゲートが開放された瞬間のスタート。




『おおっと!?ゴースト出遅れ!?ゴーストウィニング一瞬出遅れたか、バ群後方からのスタートです!?』
「……はっ?」
「……えっ?」



 その予想は、この場に居た誰もが予想外であった『ゴーストウィニングの出遅れスタート』と言う幕開けによって
一瞬で破断し、誰しもが大混乱に陥った。



――――――――細工は流々、後は仕上げを御覧じろ……


 唯一人、不敵に微笑んだ当事者一人を除いて。

465:陣龍:2023/06/30(金) 21:51:03 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
|д゚) モントゴメリー氏は言っていた…(別スレ)

|д゚) 『備え無き場と時に撃つは其戦の常道成』と…(一部改変)

|д゚) と言う事でゴーストウィニングの日本ダービー話。ネタバレになりますがこの後レース中にスキル進化発動します

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最終更新:2023年07月24日 19:01