399:陣龍:2024/02/05(月) 22:41:51 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp


『ゴーストウィニングの異世界旅行記 ~異世界娘は爆弾娘~』



 トレセン学園では何のかんのと今現在異世界で呑気に満喫している亡霊娘の事を同輩ウマ娘らに聞かれるのを、
何とか事情を知るメンバーが誤魔化し続けている夕方。


「あ、あの……飯崎さん?」
「どうしたの、電さん」


 この世界の『神』を自称する超越者により拉致同然に無同意で連れて来られて以降、
何事か有る度に助けを求められては世界を越える暁型駆逐艦の末妹は。


「なんで刀を研がれているのです……?」


 この世界の巨大化した日本は東北地方の古武術道場に隣接するとある旧家にて、
その異世界に転移したウマ娘の親的立ち位置に居る投資家兼配信者の女性が、
自身に背を向けつつ刀を研ぐのを正座して見ていた。




 トレセン学園と渦中のウマ娘の友人に事情説明をした後、呆れてストレスで酒飲んでビーフジャーキー食い荒らした勢いで
不貞寝したかった異世界駆逐艦娘の電だったが、未だ話をしておかなければならない人々が居る事もあって、
重い足取りで関係者各位の所を回っていた。二番目のネックと思われた当馬の騎手からは説明後には呆れた様子で労われたように、
案外すんなりと納得や受け入れられていたのが殆どであったのが幸いであった。異世界転移の事を目の前の駆逐艦娘に責め立てた所で
何の意味も無いのではあるが。


「これね、家の蔵の中にあった日本刀。由来は兎も角、切れ味とかは優美見たいなの」
「刀の事は聞いていないのです……」


 自身の記憶から、目の前の刀の波紋や拵え等から考えて【長船】等との名が有る、自分の居る世界では行方不明になっている
国宝の最上級な刀である様な気がしてならないが、精神衛生上触らぬ神に祟りなしとして気のせいだと思い込む事にしつつ、
駆逐艦少女は一番のネックである目の前の女丈夫へと言葉を返す。



「……一応、理屈の上では分かってるの。今回はあの『神』のせいでも何でもない、隕石が命中する位の奇跡的自然現象の結果、
ゴーストが何処か別の世界でウマ息子達に囲まれている事は」
「なのです」
「それでも、感情面では結構理不尽に憤怒しているの。だって好き放題に『選別』して【黄泉帰り】とかやっているのに、
今更その選別したたった一人の事も見つけられない程度に無責任で無関心なのかって」
「それは……」


 研ぎ終わり、刀を整える目の前の仮の【母親】の言葉に、何と返答すれば良いか迷う。単純に死者を蘇らせる事と別世界に
前触れ無く飛ばされた者の捜索とは、明らかにジャンル違いで権限等でも筋違いと言う理屈は有るが、
そう言う事で語り切れる程人間は単純では無い。と言うより一見冷静に見えてその実相当混乱と動揺している。

400:陣龍:2024/02/05(月) 22:43:33 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「でも、だからといって私があの『神』の所には行けないし、よしんば行けたとしても、
私の全てを起爆剤にした所で斬り付けられも殴れたりも出来ないし、
やった所で逆にこっちが存在丸ごと消し飛ぶだけなのは目に見えてる」
「……えっと」


 言っている内容もそうだが、語りながら余りにも自然な動作で振り返り、
そして今研ぎ終えたばかりの刀を目の前に置かれた事の方に困惑する暁姉妹の末妹。



「……この刀が砕けても良いから、もしあの『神』が大ポカ抜かしてゴーストが余計に面倒ごとへと落とし込まれたら、
取り合えず二、三回位斬り捨てて欲しいの。『神』なんだからどうせ死なないでしょう?」
「いやいやいやいや!?確かにアレでも『神』なのでちょっとやそっとじゃ死なないけれどもちょっと落ち着いて欲しいのです!」
「刀が嫌ならこっちの薙刀でも良いけど」
「いや刀もそうですがその薙刀とっても貴重な歴史的遺産級な実戦用の筑紫薙刀なのですーーー!?」



 刀に次いで今度は現代まで現存する物が極めて少ない室町時代に作られた名物な実戦仕様の薙刀までホイホイ
御出しされて思わず絶叫する苦労人。しかも今直ぐにもそっ首跳ね飛ばせそうなまでに研がれて何時でも
戦働き十分と言わんばかりの状況に、そして魂の絶叫にも全くの真顔な相手方を落ち着かせるまで、もう暫く時間が必要だった。



「足りないって言うのならこれも有るよ、大太刀。爺ちゃんらからはこの刀と薙刀とも全部使っていいって言われてるから心配しないで」
「え、ちょ、こ、これ、ほ、ほ、ほほほほた、ほ、る、る、ほ、ほたぁーー!?」





「ばばんば~……」


 表面上は平素、中身はパニック発作間近と言う吃驚箱状態である【主さん】が異世界駆逐艦娘に飛んでも無い無茶振りを
言い出して落ち着くように増援で呼び出された異世界駆逐艦娘の【不死鳥】と共に説得で少々騒ぎになっている頃。


「……大きさとかは同じだけど、設備や内装は結構違うんだね。後匂いも」


 当のその娘は、呑気に異世界トレセン学園内の浴場で入浴していた。


「……ん、んぅ~……ほぁ~……」


 背伸びと共に欠伸してリラックスし切っているゴーストウィニング。本来の日常とは全く違う周辺であったが、
元の世界での騒ぎを他所に、危機感を感じさせない呑気としか見えない姿である。




「……で、ずっと隅っこに居るのはどうかなって思うんだけど」
「あ、いや、アッハハハハ……」
「あ、うん。マヤ達の事は気にしないで……」
「タオルちゃんと着けてるしそんな気にする事無いでしょ?」
「あ、ちょっと、立たないで!いや立たなくて良いですゴーストさん!」



 そして今現在、浴場の対角線上に入るとは言え、通達の齟齬で幸か不幸か混浴状態に巻き込まれた
ウマ息子二名が居るのにその思考や行動は如何な物かと突っ込めるウマ娘達は、この世界に居ない。

401:陣龍:2024/02/05(月) 22:45:18 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp



「それはそうと……後始末とかお疲れ様。全部やっちゃって貰って申し訳なかったんだけど」
「ゴーストちゃんが手伝ったりしようものなら、余計に酷い事になっちゃうから気にしなくて良いよ。うん」
「それに死屍累々と言うか倒れたウマ息子が多かったけど、普通に観客していたウマ息子も結構いて、
皆で回収して行ったから大丈夫」



 ゴーストウィニングのアンコールライブ事件にて、卒倒者や気絶者が続出すると言う前代未聞の惨事が発生したが、
走る事が一番でそれ以外が等閑視な【最速の機能美】の様な何処か世間ズレ・或いは独自の世界観を持っているか、
又は寮長達等の様な大将気質のウマ息子がそれなりに平素のままであり、加えて教師等の人間達の応援も有った為、
見た目の酷さの割には意外と短時間で事態は収拾した。


「……まぁ、その【片付け】を終ってからお風呂に来て入ったらゴーストさんとブッキングするなんて想像もしていなかったけど」
「うん、なんかゴメン。何か思ってたよりずっと浸かってたみたいで」
「まぁ、気にしなくても……いや、ちょっとは、気にして欲しいかなぁって……」
「うーん、善処して見る」
「……する気無いでしょ、ゴーストさん……」



 何のかんのと、この世界に迷い込んで来た異世界のウマ娘と偶然遭遇してから行動を共にしている格好のウマ息子・
カレンチャン君とマヤノトップガン君。同級生らウマ息子の回収と収容を終らせると、そのまま汗を流すべく浴場に直行。
一方ゴーストはウマ息子の事は大丈夫だと制された為、トレーニングや模擬レース後のルーチン的に此方のトレセン学園の浴場へ、
自身の部屋から衣類を持って来て入浴。偶然の擦れ違いのせいでブッキングと言う、無くも無いありがちな話ではある。



「……ゴーストさんって」
「……うん?」
「……どうして、そんなに無警戒過ぎるの?マヤ、分かんないよ。確かに、マヤ達とゴーストさんは暫く一緒にいるけど、
でも一日も経ってないんだよ?」
「あー……」


 当たり障りのない話が一端途切れた後。ある意味当然の、マヤノトップガンからの疑問に対して、
天井を見上げて軽く考えるゴーストウィニング。



「……ちょっと、私の場合かなり特殊な事情と言うか出生の理由が有るのが根源だから、と言うか」
「あ……そ、その」
「今此処で話すとなると、のぼせる以上に浸かり続ける事になるから、上がってから話すよ」
「ゴ、ゴーストちゃん?嫌なら話さなくても……」
「何にしても、明日のトレセン学園公式放送で色々話して……えっと、護身完了?するつもりだから、遅かれ早かれだし気にしなくて良いよ」



 地雷を踏んだかと感じたマヤノ君やカレン君の言葉に被せる様に、何ともない事を話す様に言い切るゴースト嬢。
何なら二人に向かって軽く笑いかけている。そして風呂のお湯の熱だけで無い赤さが差すウマ息子コンビ。



「あ、そろそろ先に上がるね」
「あ、ハイ」
「お疲れ様でした、ゴーストさん」



 何だか飛んでも無い爆弾情報の先行開示宣告を受けた気がしてならないウマ息子達だが、ゴースト嬢が上がると言うので
それ以上追及せずに会話が終了する。無論、立ち上がろうとした瞬間に共に揃って壁側に向き合い、
令嬢が浴場から出て行くまで微動だにしないと言う紳士的行動である。恐らく今までのレースやトレーニングを遡ってもこれ以上に無い素早さである。





『わぁぁあああーー!?』
『あ、すみませんフジキセキさん。今服着る所なんでもうちょっと外に居て下さると……』



「……よっぽどの事情」
「……有るんだろうね」



 幸運、或いは不幸か、見回り作業をしていたフジキセキ寮長。脱衣所にて初遭遇時と同様に中途半端に衣類を着込みつつ有った
ゴーストウィニングに遭遇。当然の驚愕の声を背景音声としつつ、風呂場の中のウマ息子達は暫く先に来るであろう未知の情報に
少しばかりの恐れを感じつつ、色々のぼせ切った頭を冷やすべく冷水を一気に浴びるのだった。

402:陣龍:2024/02/05(月) 22:46:42 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
|д゚) ラブコメとかミリしらですが多分こんなもん(適当

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最終更新:2024年03月17日 18:47