閑静な世田谷の住宅街に、二人の鬼神が放つ火花が散る。
(ガチャピン……やはり、つよいでありますな)
ムックは、ガチャピンの槍撃をかわすだけで精一杯だった。

ムックは、ガチャピンの放つ猟銃の弾丸をすべて薙刀で弾き返した。
弾丸が尽きた後、ガチャピンは
「やれやれ、ムック、君は少しは楽に死なせてあげたかったのにさ」
といい、自らに支給された本来の武器を取り出した。長く、おそろしげな槍。
「グングニルでありますな……」
「ああ。これで君を、今よりももっと赤く染めてあげるよ。キレイだよ、きっと」
そして次の瞬間、一気に間合いを詰めてきた。
「くっ!! 」
「あははははははははははははははははは!! ムック、どうしたの? ちっとも手応えがないじゃない!! 」

薙刀は、一説には日本の接近戦においては最強ともいわれる武器である。
刀のように斬れ、槍のように迎撃でき、また杖の代わりにもなる。
しかし、今のムックはガチャピンに押されていた。
その理由の一つは、薙刀のうまみを生かすためには圧倒的に足りないその腕の長さ。
そして今一つは、目の前にいるのがあらゆるものごとに通じた、万能の戦士であったこと。

「きゃっはっは!! にしてもムック、君が僕に逆らうなんて一体どういう了見なのかな?
だって、君は僕がいないとご飯もロクに食べれないんだよ? 今まで、誰のおかげで儲けてきたと思ってるの?
ぎゃはは!! 身のほど知らずも大概にしておきなよ!! 」
ムックは、ガチャピンの罵声に耐えながら、なんとか槍をかわし、そしてその次の瞬間にわずかに生まれる相手の隙に、
足払いをかける。しかし、紙一重でガチャピンはかわす。
もし一度でも、あの攻撃を薙刀で受けてしまえばそこまでだ。
そうすると、自分の次の行動はかなり制限されてしまい、その隙にあの槍は自分の胴体を貫くだろう。
なので、ムックは後退するしかなかった。
駅前から、空き地、そして学校の校庭へと。
(まあ、でも、僕の攻撃にここまで耐えられるなんて……さすがはムック。
ま、そうでもなきゃ僕の相方なんて到底無理だけどね)
二人の死闘は、既に六時間にも及んでいた。夕暮れの校庭に、二人の巨大な影が伸びる。
「さて、ここまでだね」
ガチャピンは、ムックを校舎の壁にまで追い込んだ。もうムックは後退できない。
「因果なものじゃない? 子供たちを笑わせるために生きてきた君の墓標が、校庭に刻まれるなんてね」
「ガチャピン。私を殺す前に、一言教えて欲しいであります」
「あん? なあに? 」
「あなたの正義は……そんなものだったのですか? 」
それを聞いたガチャピンは、大声を上げて哄笑した。
「僕は、ロッククライミングもスノボーもハンググライダーも、なんでも出来ちゃうすっごい子なんだよ?
スペースシャトルにだって乗ったことあるんだ。だから、そんな僕が一番正しいのは当然の帰結さ。
ま、いっつもお留守番だった君には、説明してもわからないよね? 」
ムックは、ガチャピンの目を黙って見つめる。
「さ、もういいだろ? さすがにずっと一緒だった君を殺すのは忍びないけど、君が死んでも変わりはいるもの。
僕と違ってね!! 」
そう叫び、ガチャピンはグングニルを握り直して、ムックに向けて最後の槍撃を投げた。

「……残念ですぞ」
「な!! 」
馬鹿な、槍の穂先は確実にムックの体に届いている!!
なのに、奴は、奴は……
「ガチャピン。覚悟を」
その槍を弾き返すと、一気にガチャピンの間合いにまで踏み込んだ。
「が……」
次の瞬間、校庭の花壇のうえに倒れ込んだガチャピンの喉元に、薙刀の切っ先が突きつけられた。
馬乗りになったムックは、彼を見下ろして静かに笑う。
「ガチャピン。私の、勝ちでありますぞ」
「そんな、なんで!? 」
「ガチャピン、覚えてはいないのですか? 」
ムックはそう言って、自分の毛深い胸毛の中から小さな光るものを取り出した。
さっきのグングニルの一撃で、ひびが入っているそれは、小さなカンバッジだった。
プリントされていたのは、並んで笑っているガチャピンとムック。そして、二人のまわりで笑う沢山の子供たち。
「これ、あの時の」
「はい。お気に入りの写真だったので、スタッフにお願いしてバッジにしてもらったのでありますぞ」
バッジの中の二人は、沢山の笑顔に囲まれて幸せそうに笑っていた。
「ガチャピン、私たちはこの笑顔のために今まで生きてきたのでは無いのですか?
あなたが雪山や岩山や宇宙に行ったのだって、子供たちを笑わせるためではなかったのですか?
そんなあなたが、どうして、どうしてこんな殺し合いになど乗らなくていけないのですか!? 」
「そ、そんなこと」
ガチャピンは叫んだ。
「そんなこと言っても、今更どうすればいいんだよ!! 僕はもう、罪も無い子供たちを二人も殺したんだぞ!!
そんな僕に、どうやってあの頃に戻れっていうんだ!! 」
「ガチャピン、大丈夫ですぞ」
ムックは、まだ笑っていた。

「たとえ世界があなたを許さなくても、私はあなたを許しますぞ。
だから、どうか私を許して下さい。あなたがそんなになるまで気がつかなかった、この私を」

「―――ムック!! 」
ガチャピンは、泣いた。涙を流すのなんて、一体いつ以来だろう。
当たり前か。いままでずっと、自分は笑うことだけが仕事だったんだから。

「さあ、行きますぞ、ガチャピン」
「ムック? 」
「こんなゲームに巻き込まれて泣いている、日本中の子供たちを助けるのです。
そして、こんなゲームを始めた主催者を、二人でコテンパンにやっつけるのですぞ」
「ムック、僕に留めを刺さないの? 僕は君を殺そうとしたのに」
「言ったはずですぞ。私だけはあなたを許すと。それが、仲間でありますぞ」
「なか、ま……」

次の刹那。
校庭に、三発の銃声が響いた。


「ムッ…………ク……」
「ははは……ガチャピン……申し訳、ないですぞ……」
ガチャピンは、胴体の三ヶ所から血を吹き出すムックを呆然と見上げる。そのままムックは、後ろへと倒れた。
「くそ、よくもムックを!! 殺してやる」
ガチャピンは、校舎の影に消えた人影を追いかけようと立ち上がり、
「待つ、ですぞ、ガチャ、ピン」
「ムック……なんで止めるんだ? 」
「もう、あなたにこれ以上、人殺しなど、させては、いけない、からです」
口から血を吹きながら、ムックは必死に言葉を紡いだ。
親友へ贈る、最後の言葉を。
「もう、復讐とか、そん、な、こと、も、やめるのです、ぞ。さもないと、子供たちに、しめしと、いうもの、が……」
「ムック……まさか、死なないよな? 死ぬなんて、言わないよね? 」
「ガチャピン。私は、あなたと会えて幸せでしたぞ。私は、実を言えば……あなたが宇宙へ行ったり、いつも無茶なことを
しているのを遠くから見るのが、……大好きだったのです」
ムックは、まだ笑っていた。その表情しか、彼は生涯、知らなかったから。
「でも……いつかは……あなたと一緒に……宇宙へ……」
「ムック、馬鹿なこと言うな!! 次は、次は君に全部やらせてあげるから!! ぼく、スタッフにお願いする!!
スノボーだって、ハングライダーだって、スペースシャトルだって、全部君に乗せてあげるから!!
だから、死なないでよ!! 僕を一人にするなんて、酷いじゃないか!! 」
「ガチャピン……酷い顔ですぞ。私たちはいつも、笑顔ですぞ」
ムックの血は、花壇を血の海に変えていった。
「私は雪男……あなたは南の島の恐竜……所詮は交わらない運命だったのかもしれませんな。でも、私は」

「あなたが、大好きでした。ありがとうございました」

もう動かなくなったムックの傍らで、ガチャピンは生まれて始めて、大声を上げて泣いた。


朝倉音夢は、校舎の影でバズーカ砲の残り弾を確認した。
(一人に三発も使ったのは失策だったわね。まあ、後で他人の弾を奪えばいいか)
あの赤い男の下にいた緑の男は、既に死んでいると判断して撃たなかった。
あの男の武器を回収しなかったのは今になって思えば失策か。しかし、銃声を聞いた人間が集まっている
可能性もあるし、校庭に戻るのはまずい。
(さっさと逃げましょうか)
音夢は、バズーカ砲をかついで歩き始めた。

たまたま初音島から横須賀に遊びに来ていた彼女の義理の兄、朝倉純一は、この殺し合いに巻き込まれて死亡した。
(兄さん……なんで、なんで死んじゃったの? )
初恋の人であり、なんでも相談できる兄弟でもあった彼を失ったその瞬間に、彼女の世界は崩壊した。
兄さんを殺した奴を殺そう。でも、どうやって探せばいい? この広い日本から……
そして彼女は思いついた。

「なあんだ。全員殺せば、いいんだ」

校門から出ようとしたところで、音夢はこの学校の生徒らしい一人の少年に声をかけられた。
「お姉さん、僕、こんな殺し合いが始まってとても怖いんです。助けて下さい」
中島だった。
先生を殺めた彼は、もっと強力そうな武器を得るため、彼女を懐柔しようとしたのだ。
「お願いですぅ。僕こわぁーい」
かなりのむっつりであるこの男、小学生という立場を利用してこの綺麗なお姉さんにあんなことや
こんなことをしようという思惑も無くはなかった。
(くふふ。ここまで猫を被れば、僕のショタ力でイチコロ……)
「失せろ。汚らしいオタ顔の餓鬼が」
次の瞬間、バズーカ砲が彼の下半身を吹き飛ばした。
「え……」
驚愕の顔で見あげる中島を一瞥し、音夢は校門をくぐる。
純一を殺したのが知り合いであるとも知らず、次の罪に手を染めるために。

(そんな……僕は、磯野を殺すまで、死ぬ訳には……)




ガチャピンは、ムックの亡骸を校庭に埋葬した。
ムックが持っていたカンバッジも、一緒に。
「ムック。僕、罪を償ってみせるよ。そしたら、また会おうね」
惜別を乗り越えて、緑の恐竜は再び歩き出した。
誰かに笑ってもらうために。



【東京都世田谷区かもめ第三小学校 二日目 21:00】
【ガチャピン@ひらけ!ポンキッキ】
[状態]:被爆
[装備]:グングニル、薙刀
[道具]:支給品一式
[思考]:
1:味方を集め、主催者を倒す
2:子供たちを救う


【朝倉音夢@D.C.S.S】
[状態]:やや被爆
[装備]:バズーカ砲
[道具]:支給品一式
[思考]:
1:目につくものを皆殺し
2:兄さんの仇と確定できる奴を見つけたら、鞭で二百叩きの後
丸一日首だけ出して海につけてその後爪を剥いで歯も抜いて生きたまま鳥葬


【中島@サザエさん】
[状態]:下半身切断、三十分以内に治療を受けないと死亡。やや被爆
[装備]:金属バット(現在は教室に隠している)
[道具]:支給品一式
[思考]:
1:磯野を殺す
2:音夢にあーんなことやこーんなことをする

【ムック@ひらけ!ポンキッキ 死亡確認】






タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2006年12月30日 14:37