彼との出会いはアルバイトだった。

新人の私に対しての教育係り、そういう関係だった、気さくで話しやすく、優しかった。
私がミスした時はほとんど必ず彼がフォローしてくれた。
それは単純に教育係りを任されたからだとは分かっていたけど、それでも彼に惹かれていった。
私が仕事に慣れたころ、彼が教育係りから外れ、一人で仕事をするようになり彼と話せる時間が減ってしまった。
それでも私は時間を見つけては彼と会話しようとした、もはや彼に会うためにバイトをしていた。
新しく女の子がバイトに入ってきた、嫌な予感がした。
その通りになった、彼が教育を任された。
それからのバイトは辛かった、あの女が彼を独占している、頬を赤らめて嬉しそうに楽しそうに話している、彼も楽しそうに笑っている。
どうにかなってしまいそうだった。
よこしまな考えが頭をよぎった、ミスして彼に嫌われろ。
ミスしろミスしろ間違えろ。
あの女はミスをした、客に怒られている、彼が必死に謝罪している。

「ざまあみろ」

この時、私には自己嫌悪するような理性は残っていなかった。
社員の声が聞こえた。

「あの娘はもう少し実習の期間を延ばさないとだめそうね」

完全に裏目にでてしまった。
家に帰って神奈子様に注意された。

「他人を陥れる様な能力の使い方をしてはいけないよ、必ず早苗自身に不幸が返ってくる」

そう言われた、理性が返って来て自己嫌悪に襲われた、だけど次にどうするべきか分かった。
早く彼を私のものにしてしまわないと。

彼のバイト上がりを待ち伏せて告白した。

「好きです私とお付き合いして下さい」

彼は驚いた顔をしたあと恥ずかしそうに、

「うん」

と言ってくれた、私は天にも昇る思いだった。

幸せになるはずだった、でも幸せ以上に怖かった、メールが1時間返ってこないだけでもものすごく不安に駆られた。
不愉快な事を言ってしまったかな、迷惑だったかな、私のこと嫌いになっちゃったのかな……。
メールが返って来た時、嬉しさよりもよかったという安堵の気持ちが強かった。
そんな私でも彼は大事にしてくれた、私はどんどん彼に依存するようになっていた。
大事にされればされるほど不安に駆られる、いつか見切りを付けられ捨てられてしまうのではないかと。
今日は彼とのデートのはずだった、それなのに昨日急に今日のデートには行けないと言われた。
なんでも昔引っ越した幼なじみが帰ってくるらしい、「ごめん!ホントにごめん」彼に何度も謝られた。

「やだっそんなの、一緒にいたい」そう言いたかった、でも彼に嫌われたくない捨てられたくないの一心から言わなかった。
いや、言えなかった。

「髪でも切りに行こうかな」

このまま家にいても欝になってしまいそうだ。

早速、準備し出掛ける。
……駅に着いて見つけてしまった、彼が女と歩いてるところを。

どうして女と一緒なの? もしかして幼なじみって女だったの? なんで楽しそうに話してるの?

可愛い笑顔、今の私にはできないような。
私なんかよりその娘の方がいいよね。
諦めようとした、でも無理だった、彼のいない生活なんて考えたくもなかった。
はっとした。
簡単なことじゃないか、あの女が消えればいいんだ。

消えてしまえ、消えてしまえ、そんな女死んでしまえ、死ね、死ね、死んでしまえ。



女は階段を踏み外した、

彼は助けようとして一緒に落ちていった


…………私の理性が返ってきた。

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最終更新:2011年07月09日 23:03