「――愛しているわ、○○」
 少女は囁く――その声に狂気を孕んで。
「……愛しているよ、アリス」
 青年は嘯く――その声に諦観を宿して。



 さて、いつからこんな事になったのやら。
 一人虚しく溜息をついてみても、
 右足に括り付けられた鉄の枷はそのままだ。
 ベッドと、トイレと、そこから十メートル程度の世界が、今の俺の全て。


 とん、とん、と通路の奥から機械的なリズムで、何者かが降りてくる。
 答えは既に知っている。"もう一人の俺"だ。
 機械的な動きで、飯を載せたトレイを運ぶもう一人の自分という絵面は、
 中々に滑稽で、そして物悲しい。
「お前も大変だな」
「……」
 寂しさを紛らわす為に声をかけてみたが、やはり反応は無い。
 ……こいつはアリスの人形だからだ。

 ――見て、○○。最高傑作が出来たのよ。

 そう言ってコレを俺に見せに来たのは、確か半年前。
 いっそ気持ち悪いと言えるほどに俺にそっくりな――
「ゴーレム、か」
 完全自律稼働型の人形を作るための実験の一環。
 あの時、協力を拒んでいれば。
 まだ俺は太陽の下で暮らせていたのかも知れない。
 しかし、当時の俺はアリスに夢中だったのだ。
無論断るという考えは微塵もなく、二つ返事で承諾した。
 憧れだったアリスと二つ屋根の下。断る方がおかしかった。
 なんて昔話に思考を巡らせても、目の前の土壁が緑の木々に変わるはずもなく。
 今日も地下の暮らしは退屈で、苦痛だった。

 上の階で複数の人の気配がする。
 アリスが客人を招き、茶でも振る舞っているのだろう。
 傍らに、在りし日の俺の様な動きをし。
 "まるで恋人同士のように動かされている"ゴーレムをはべらせて。

 そしてまた日が暮れる頃、此処へとやってくるだろう。
 独り善がりの愛を、振りまきに。

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最終更新:2011年03月04日 01:04