この手記を読んでいるという事は、もう私は人間ではないのだろう。
これ見ている人……いや人であってほしいと願う。
その貴方にこれを全て読んだ後、出来れば他の人間に伝えてほしい。

 妖精や妖怪に恋をされた時は十分に覚悟をしておけ、と。

 私は昔から長い間付き合っている親友の妖精が居た、
もっとも、彼女は私をもっと別の見方をしていたようだが。
 当時、里では人間の子供が妖精と遊ぶことはそう少ない事ではなかった。
ただ、人間もやがては年を取り成長する。やがて、その子供達も妖精とは遊ばなくなる。
だが少なからず例外は居る様で、私もその一人だった。
 何故私が彼女と遊ぶのを止めなかったのかは、今でも分からない
たぶん私は拒みきれなかったのだろう、子供らしい思考で周りの子に合わせて彼女と遊ぶのを拒絶した時。
その時の彼女の痛々しい悲痛な表情が、私の良心を咎めさせた。
すぐに慌てて嘘を吐いただけだと言った後、彼女は少しの間硬直していつもの笑顔に戻った。
……今思えばこれが原因なのかもしれない。
 そんなこんなで、私は周りの子に馬鹿にされながらも彼女と遊ぶのを止めることはなかった。
彼女は我儘を言わなかったし、別段喧嘩もしなかった。
こちらとしても一緒に居て居心地は良かったから、もう拒絶しようとする気もなくなっていた。


 私が10歳の時、初めて恋をした。
彼女にそのことを話したら、翌日好きな子は溺死した。
彼女は落ち込む私を励ましてくれた。

 私が14歳の時、二度目の恋をした。
彼女にそのことを話したら、翌日好きな子は落盤に巻き込まれて死んだ。
彼女は落ち込む私を小さい体で抱きしめてくれた。

 私が17歳の時、三度目の恋をした。
彼女にそのことは話さなかった、翌日好きな子は惨殺された。
その晩彼女に夜這いをされた。
 抵抗? もちろんしたとも、彼女は親友であって好きな人ではなかったのだから。
だけど止めることは出来なかった、彼女の異様な雰囲気に彼女の異常な力に。
なにより、彼女から漂ってくる淫靡な芳香が、私の心を砕いてしまった。
 草木も眠る丑三つ時、父も母も眠り、誰にも気付かれることは無く、一匹の妖精が私を快楽の虜にした。

 激しすぎる行為が済んだ後、彼女は耳元でこう囁いた。

 「人間の女なんかに恋をしないで。貴方の傍には私が居るよ?」
この瞬間、眠りに落ちながら、私は彼女がしてきたことを全て悟った。


 深い眠りから覚めてみると、彼女は私の耳元を舐めていた。
私が起きたのに気付くと、彼女は耳に甘い息を吹きかける。
私は堪らず彼女を突き飛ばした、そして逃げた、これ以上彼女と一緒に居たくなかった。
逃げる最中に彼女の声が聞こえたような気がした。

 「大丈夫だよ。最初は少し辛いかもしれないけど、すぐに楽しくなれるからね」

 当初私は家の仕事を継ぐ予定であったが、これを切っ掛けにそれを辞め
彼女の見つからない所で働くことにした。しかし……


 当初私は家の仕事を継ぐ予定であったが、これを切っ掛けにそれを辞め
彼女の見つからない所で働くことにした。しかし……

 彼女は直ぐにやって来た、どこに行ってもそうだった。
友達の家・職場の寮・里外れの小屋・洞窟の中・雑木林の中。
どこに行っても、どこに行っても、彼女は私の元へと現れた。
そして、私に異常なくらいの愛情を注いだ。
ある時は妖怪に襲われた私を助け、襲った妖怪をこれでもかといわんばかりに攻撃を加え絶命させた。
ある時は自分の体を切断し、それを材料に料理を作った。
目・鼻・舌・耳・手・足・内臓・子宮……全てを捧げるとばかりに。
そんな彼女が、私はただただ恐ろしかった。

 そんな事が数年程続いただろうか……

 その後の私の精神は限界に来ていた、逃げる気力すらなく、全てがどうでもよくなった。
血で汚れ愛の狂気に満ちた彼女はもう見たくはなかった、こっちまで壊れてしまいそうだった。
だから、私は彼女を受け入れた。

 それからの私は酷い有様だった。

 無気力だった私は彼女に連れられて、どこか分からない所で二人っきりで暮らす事になった、
そこで私は一日中怠惰な日々を送った、食って寝て、気が向いたら彼女を乱暴に犯す……そんな繰り返し。
完全に私は彼女のヒモだった、でも彼女は文句を言わなかった、むしろ、幸せそうだった。
そんな爛れた生活を死ぬまで淡々と私はおくってきた。

 そして今、私は妖精となってこれを書いている。

 意外な事に私は人間として死ねた、『死ぬ』ことは。
……結局私は彼女から解放されなかったのだ、死後、地獄に行く覚悟もしていたのに。
何故か私は即刻妖精として転生する事になった。
死ぬ直前に見た彼女の笑顔はきっとこうなる事を予期していたのだろう。



(ここから先は文字が乱れていて何が書かれているか読み取れない)



 せめて私が彼女を好きになっていたならば、もっと別の未来もあったのかもしれない
しかし、全てが遅かった。
……これを読んでいる貴方が妖精や妖怪に恋をされた時、または恋をした時、
両者が本当の意味で幸せになれることを私は切実に願います。





 これを読み終わったある一匹の妖精は、手記をバラバラに破き
隣に居るもう一匹の妖精に優しくキスをした。








某スレに投稿された文を元に自分なりに広げてみた、後悔はしていない。
貴方はどの妖精を想像しましたか?
最終更新:2012年03月12日 20:43