もう擦り切れた記憶
その中で幼い私は泣いていた

― お母さん何でこんなことさせるの? ―

― いいから続けなさい! ―

― もう裸で抱き合いたくないよ!!! ―

荒れ果てた部屋に頬を打たれる音が響く
黒髪の女性が裸の少年を殴ったのだ

― あなたが悪いのよ!!あなたが彼に似てくるから・・・ ―

― お母さんなんか・・・お母さんなんかいなくなっちゃえ!!!!! ―

雪の中、血に濡れた身体を隠すように大きなコートを羽織り少年は歩き続けた
やがて少年の歩みはゆっくりとなり少年は雪のベットにその身を委ねる

「ふふふ・・・この年で女を狂わすなんて罪深い坊やかしら」
口元を扇子で隠した女性は、雪に覆われた少年を抱きよせその唇に接吻をした
その拍子に懐から古びた写真が舞い落ちる
そこには黒髪の少女と金髪の少女と、彼女達に挟まれるように写真に収まった青年が写っていた。


それが我が妻、八雲紫との出会いだった。
幼い私に彼女が妖怪であり、その出会いが現実世界との別れとなることなど知りもしなかった。
ただ、彼女は私に全てを与えてくれた。
たった一人の肉親である母親に歪んだ愛を向けられた私にとって、無償の愛を与えてくれる紫の存在が庇護者から愛する女性へと変わるのに時間はかからなかった。
少年から青年へと変わった私は彼女の「事業」に参加するようになり、彼女の部下から必要な術式の手ほどきを受けていた。

「○○、認識結界の要は量子力学における超ひも理論とその根を同じくし・・・・」
金色の髪と柔らかな七つの尻尾を揺らしながら、藍さんは講義をしてくれる。
「でも、ラプラスの魔は正式に存在を否定されたのでは?」
「うむ。確かに否定されている。だが、そうなると妖怪の実在はどうなる?」
「それは・・・」
「少し高度すぎたかな。妖怪は人の畏れという観測によってその存在を確定している。それは人がラプラスの魔となり妖怪を定義しているといえるのではないか?」
「人自身が高度な量子コンピュータ―ということですか?」
「それが博霊大結界と幻想郷の認識結界論の根幹だ。しっかりと予習してくるんだぞ。」
「はい!藍先生」
「・・・・○○、私のことは藍でいいんだぞ」
「藍・・・先生どうしたんですか?」
「何でもない・・・・」
その日を境に藍さんは僕に術式の講義をしてくれなくなった。
朝早く結界の見回りに行って、夜遅く帰ることが普通になり屋敷の家事は私がすることになった。




目の前には神々しいという形容詞では表しきれない、一糸まとわぬ姿の紫
私の脳裏に母親との歪んだ情交が思い出される
紫が私の身体に触れた瞬間、全身に冷たいものが走る
「ごめん・・・なさい」
「そうね・・・私が急ぎ過ぎたわ。ごめんなさい」
「でも・・・紫さんが好きなのは変わらないです」
「愛情と愛は違うのよ?」
「・・・・・」
「今は抱きしめてくれるだけでいいわ」
紫の寝所で一緒に寝るのが私の日課となった。
そして・・・

今、一人の老人が最後の時を迎えていた
「○○・・・私はあなたにとっていい妻だったかしら」
「ああ、幸せだったよ」
「何か心残りはない?」
「君との愛の結晶が残せないことが心残りかな・・・・」
「馬鹿ね・・・」
視界が闇に包まれる瞬間、彼女の唇が重ねられた

暗い空間
老いた身体の私は遥か遠くの光目指して歩いていた
光に近づくにつれ、老いた身体は若返っていった
ゆっくりとした歩みは何かに押されるように走り始める
光の輪をくぐり、眩しさに目を閉じた私は暖かなぬくもりに包まれ、恐る恐る目を開けると
今生の別れをしたはずの妻の顔があった。

人としての一生を終えた私は妖怪の仔として、再び生を受けた
泣きそうな顔で生まれたばかりの私を抱きしめる彼女を見た時、私は決意した

決して裏切らない式神を家族と呼び

能力のない人間を夫にし

自らの屋敷を誰にも教えず孤独に生きる

幻想郷の管理者として人妖問わずに恨まれる彼女
たとえこの身が異形と成り果てても彼女と共にいることを
幻想郷という檻に閉じ込められようとも
私は彼女を「愛」す。



O★M★A★K★E

【おまえら】魔の館【助けてくれ】

1きつねーちゃん 123gensoukyo
 主の家がイカ臭くて入れない!!
 助けくれ

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最終更新:2012年03月15日 14:09