私は何時ものように照明を落とした部屋で、まだ水揚げ前の娼夫を待つ。
今日は「身調べ」の日。
水揚げ前の娼夫を閨で抱き、店にあげても問題が無いかを調べる。
私が担当する娼夫は少々特別だが・・・・
「お待たせしました・・・・」
扉を開き、娼夫が入ってくる。
その娼夫は少年と呼ぶにも幼すぎ、色素が薄く髪は白い。
「かしこまらなくてもいい。私は礼儀作法には疎いからな・・・」
「藍様からは本当の客と同じようにおもてなししなさいと言われています」
「そうか・・・名は?」
「○○と申します」
私は内掛けで隠した蜘蛛の足を広げる。
「怖いか?」
○○は床に三つ指をついて頭をさげる
「よろしくお願いいたします。ヤマメ様」
この遊廓には女妖達の尽きることない欲望を満たすために様々な娼夫が用意されている。
○○も「特殊」な要求なために用意された娼夫の一人だ。
硝子細工のように抱きしめるだけで砕けそうな、腰を抱きしめ○○自身をより深く向かい入れる。
客の中には娼夫が死ぬ寸前まで、快楽を貪ることを好むものもいる。
私はまぐわりながら、○○に妖力を流し込む。
こうすることで「死ぬ」ことはない。
私と○○との情交はこれで終わり・・・・○○は店に立った。
何時ものように身調べを終え、私は茶屋で口直しの強い酒を煽っていた。
「でさぁ、水揚げされたばかりの娼夫がいるっていんで試したんだよアタイは」
病魔
キスすれば歯痛、足コキすればインキンタムシ、まぐわえば・・・・毛ジラミになる。
病そのものの妖怪である彼女は、人里で病を移しまくるよりはとココでほぼ顔パスで入り浸っている。
「人間腹上死してもアソコは立ってるもんだな!アイツも粗チンをビンビンにして白目剥いていて、つい笑っちまったぜ。名前は○○と言ってい・・・・」
「その娼夫はどうした?」
「ヤマメか?あんたも男を咥えこんだあとかい?今度おすすめの娼夫を紹介してくれよ」
「どうしたかと聞いている!!!!!」
病魔の首を掴む。
「2回抜いた後、番頭を呼んださ。・・・・離せよ」
遊廓の奥 娼夫の部屋
一人の娼夫が質素な布団に寝かされていた。
「○○・・・・」
妖力が息づいていることから死んでいないとはわかる。
○○の白い肌は死人を思い出させる。
「ヤ・・・マ・・メさん?」
「○○!起きたのかい」
「僕・・・また気絶してしまったんですね」
― 違う!気絶なんてしていない!本当は死んだんだ! ―
「○○泣いているのかい?」
「嬉しいんです・・・ヤマメさんが見舞いに来てくれて。生まれつき心臓の弱かった僕は外ではいらない子供でした。お母さんもめったに見舞いには来てくれませんでしたし」
「○○・・・」
「ここでは年季が明けると楼主が一つ願いを叶えてくれることになっているんです。」
「願いは何だい?」
「外に戻ることは望みません。僕は青空の中、どこまでも歩いていける身体が欲しい・・・」
私は乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。
「ホメオパシー、身体に毒物を与えることによって抵抗力をつけて病を完治させる。なぜ人間はこんな理にかなった治療法を疑似科学というのかしら?」
ここは楼主 八雲紫の屋敷
「・・・・知らないわ人間じゃないもの」
「あなたが身調べでしていることよ?水揚げ前の娼夫に毒性の強くない病原菌を植え込んで抵抗をつけ、危険な病気が蔓延することを防いでいるんだから」
「・・・・話がある」
「後で聞くわ。それよりも年季が明けた○○が貴方に会いたいって。会ってからでも遅くないわよ」
「?!」
私は足元に開いた裂け目に為すすべもなく吸いこまれていった。
そこは身調べで私が使っている部屋だった。
白い肌
白い髪
やや紅い瞳
あの日のように、雪のような絹の着物を着た○○がいた。
ただ・・・
「!・・・○○その身体は!」
「楼主に頼んだらこの身体をくれました。これでヤマメさんと一緒ですね・・・・」
○○が身体を伸ばすと、畳まれた蜘蛛の足が開いた。
「ヤマメさん好きです・・・・僕を抱いて」
あの日のように○○が私を抱きしめる。
私は彼を突き放した。
○○が倒れ伏す。
「ヤマメさん・・・抱いてくれないの?僕が娼夫だから?汚れた雄だから?」
涙を流す○○を見た瞬間、私は彼を抱きしめていた。
「違う!違うんだ!私は・・・私は○○にもっと自分を大切にしてほしんだ・・・」
「優しいんだねヤマメさんは」
○○の手が私を抱きしめる。
「おやおや、お熱いわね」
振り向くと紫が立っていた。
胡散臭い笑みと、獰猛な殺気を隠そうとしない。
「生まれたばかりの蜘蛛妖怪は意外と脆いわよね?誰かが、ちゃんと教えてあげないと・・・」
「辞めることは許さないということか?」
「いいえ。でも、最愛の人が居なくなると○○は悲しむわよね~後追いしたくなるほど」
「仕事は続ける」
「賢明な判断ね。彼は私からの遅いボーナスと思ってくれても結構よ」
「空はこんなにも広かったんですね。ヤマメさん!!」
「ああそうだな。あたしもついこの前まで知らなかったさ」
地下への洞窟へ、青空のなか蜘蛛妖怪のつがいは歩いていた。
蜘蛛妖怪の雄が輝くような笑顔を見ると、その妻は笑みを浮かべた。
最終更新:2012年03月15日 14:42