グリグリと輝夜は○○の胸の中で自分の体を精一杯に、そして嬉しそうにこすり付けていた。
(春画の時といい、今回の遊郭と言い・・・輝夜って結構嫉妬深い?)
「絶対、絶対、絶対に。○○は渡さないわ!私や永遠亭以外の誰が○○と釣り合えると言うのよ!」
結構所ではなかった。
告白が受け入れられて、喜色満面の表情と声ではあるが。その口から飛び出している言葉は相当タガが外れていた。

背筋の方で、ゾクリとした悪寒を○○は感じた。
ここまで一人の異性に対して。深くて、大きくて、重い愛情を抱ける物なのか。
しかし、そうであった方が。春画を破り裂いたり遊郭での激昂に対する説明はしやすかった。
とんでもない人に愛されたな。それが分かる範囲で事情を整理した○○の第一印象であった。

もしかしたら、○○が意図しない場所で。○○がどんなに気をつけていても、輝夜は自分にしか感じられない何かで、爆発するかもしれない。
こんなにも大きな愛だ。きっと、とてつもない程に繊細な均衡で成り立っているのだろう。
いつ爆発するか分からない爆弾を抱えているような物だった。
(この緊張感・・・想像以上に良い物だ)

輝夜の告白を受け。晴れて恋仲となった為に、○○の頬の肉は緩みまくっていた。
きっとだらしの無い笑みである事は、分かっていた。
そんなだらしの無い笑みを浮かべたまま、○○はチラリと永琳の方に目をやる。
残念ながら、永琳の様子はいつもの状態に戻っていた。
その理由は、輝夜の目であろう。
○○の被虐嗜好にはまだ永琳しか気付いていない。
幸いな事に、永琳はこの性癖を弄ぶ事に一定の快楽を感じてくれたのは、もう疑いようが無いだろう。
しかし、今しがた告白をしてくれた輝夜は。残念な事にまだ気付いてはいない。
相当に歪みまくって倒錯したこの感情、気持ち悪いと思わずに。つつき回し、いたぶる事を選んでくれた。
気付くだけでなく弄ぶ事まで選んでくれた永琳が例外中の例外なのだ。

多分それは永琳も分かっている。だから、輝夜の目に触れる可能性が高くなった今は、いつもの表情に戻したのだ。
輝夜だけではない、鈴仙やてゐの二人だって。いたぶる事に喜びを見出してくれるとは限らない。
思いっきり気持ち悪がられるのが常識的な反応だろう。

悪くは無いが、刹那的すぎる。それ一回限りで終わり、次への期待は絶望的な状況に追いやられてしまう。
それでは駄目だ。相変わらずグリグリと全身をこすりつけてくる輝夜の相手をしながら、心中で頭を降る。
○○が望む最大級に良い状況とは、今の永琳の状態を指していた。
つまりは、○○の被虐嗜好をいじくる事に対して、好意的な物の見方をしてくれる事だ。

(今度、てゐの仕掛けにわざと引っ掛かってみようかな)
しかしながら。永琳が好意的に反応してくれただけでも、相当稀有な例と言って構わないだろう。
○○も、それ以上は望みすぎだと考えた方が賢明な選択だとは思っている。
(今のこの状況だって、相当恵まれているんだから)
ただ、穏やかな気持ちと一緒に。てゐの悪戯にかかった時の周りの面々の「あらあら」と言うような表情を想像すると。
やはり、気持ちよかった。そして例に漏れず、だらしの無い笑みが漏れようとする。
(でも・・・これを耐えるのは。結構しんどいな)


輝夜はそんな○○の中で行われている、静かな戦いの事など知る由も無く。
相変わらず○○に抱きついたままだった。
「○○、さっきも言ってたけど帰ったら一緒にお風呂に入るわよ!私の匂いとお風呂の匂いで完全に遊郭の臭いを消すから!」
遊郭の事が何度も頭の一部をよぎるのか。輝夜の顔には憤怒の表情がうっすらと戻っていた。
次はいつ見る事ができるか分からない。○○は目をそらすことも無く、その残り香を少しも逃すまいとしていたが。
「・・・ちょっと待って輝夜。“一緒に”って言わなかった?今」
輝夜の言葉の中から1つ。気になるものを見つけた。
「当然よ!あたし達だから良いじゃない」
何処で覚えてきたのか、ビシッと親指を立てて。輝夜は○○にその旨に心配は要らないと言う。
「お屋敷に帰ったらすぐに用意しますね、それまでは姫様の服を着せればかなり和らぐのではないですか?」
「ちょっと、八意先生」

目の前で一人の女が男に逢引きの相談を。しかもその女は自分にとって、ただの主ではない。
なのに、にこやかに。逢引きの手助け・・・と言うよりは。背中を突き飛ばしているかのような言動だった。
いやもしかしたら。後半の一言は、○○に対するある種のいたぶり方か。
そうだったら良いな。そう思いながら、○○は永琳の顔を見るが。
相変わらずの笑顔だった、先ほどまでの見下してくれていた表情は一体何処へ行ったのか。

「何なら永琳の服も着せれば?私永琳の匂いも大好きだから。良いじゃない、永琳は側室みたいなものだし」
「・・・・・・え?」
とんでもない発言が輝夜から飛び出した。その発言に、どこか上せていた○○の気持ちは一気に現実へと引き戻された。
「あっ・・・」
そして、○○の理解が追いつかないと言う表情に。輝夜は不味い事をした、と言う表情へと変って言った。
八意永琳はと言うと。笑顔のままで、何も言葉を発しない。思考が停止してしまっているようだった。

しばらくの間沈黙が流れた。○○にとっては、最早完全に理解の範疇を超えていて。黙りこくる事しかできなく。
永琳は、輝夜が余りにも早く話を進めすぎてしまっている為。置いてけぼりを食らった感から言葉が見つからず。
輝夜はしまったと言う表情で「さっきといい今といい。これじゃ趣もへったくれも・・・・・・どっちも私が原因だけど」
と何かをしきりに後悔している。

「ああ、もう良いわ!○○!永琳は今日から貴方の側室だから!!」
「はい!?」
「嫌なの?」
「そ・・・そんな訳無いじゃないですか!先生のような・・・その・・・・・・美人と」
「じゃあ良いじゃない!私も許してるんだし」ヤケクソ全開でカラカラと輝夜は笑っていた。

「永琳、○○の前に座りなさい」
そして、輝夜は永琳を○○の前に座るよう指示する。
「あの・・・早すぎませんか・・・・・・?話の進め方が」
しかしながら、輝夜に思い切って告白を勧めた永琳も。いざ自分の番になると少々まごついてしまっていた。
「もう良いじゃない!早いか遅いかの違いなら早い方が良いに決まってるわ!」
輝夜はなおもカラカラと笑いながら、永琳の手を引っつかみ。
「とりゃ!」○○の方向へ放り投げるように引っ張り込んだ。

狭い籠の中。避けれるほどの空間も無ければ、避ける事の出来る時間も存在しなかった。
永琳が自分に突っ込んでくる。○○の反応速度ではそう思える野が限界で、永琳がつんのめる様にのしかかってくるのに対し。
○○はどうする事もできなかった。結局この日二回目の押し倒されであった。そして。
「ぶっ!!」
お互い豪快にぶつかり合った。火花でも散ったかと錯覚するほどの衝撃であった。
「ぐぇ!!」
そのまま○○は永琳の下敷きになった。背中の強打に加えて上からの圧迫は確かにあったが。
別に息が出来無くなるほどではない。それよりも、永琳の匂いが○○を刺激する。

最初の方は匂いだけ対して、○○は欲情を感じていた。圧迫感の方には特にこれといった感情は無かった。
○○は微動だにしなかったが、それは永琳の匂いと肌触りを長く感じたかったからに他ならなかったのだが。
一瞬、永琳の口元がニヤリと歪むのが見えた。

「う・・・・・・」
口元のゆがみこそすぐに消えてしまったが。永琳は体を上手く動かし、自分の体重を○○の上半身にそれとなく押し付ける。
先ほどの妖しい笑みを勘案すれば。これは、故意にやっていると考えていいだろう。
この時初めて、○○は肉体的な責め苦に対しても。欲情を感じるようになった。
声こそ多少は苦しそうではあるが、○○の心の中はバラ色といって過言ではなかった。

「うう・・・・・・」そこまで苦しくは無いが、息くらいは漏れる。
「大丈夫?○○」
大丈夫なので続けてください。輝夜がいなければそのような言葉を口走っていただろう。
「もう、姫様」輝夜に向けているその呆れ顔、出来れば自分の方に向けて欲しいと思っていた。
倒錯したこのどうしようもない感情をなじって欲しかった。

この感情に手を施すつもりなど、最早○○の中には存在しなかった。
ただ唯一、輝夜に対しては少し申し訳ないとは思っていたが。
論点はずれていた。なじられ、いたぶられる時間と体力は、出来るだけ輝夜のためにとって置きたいと考えていたから。
それなのに、永琳の攻めを受け止めている事も含めて。叱られたらいいなと、心の端で思っていた。
輝夜はまだ気付くそぶりすらないと言うのに。


「えーっと・・・・・・ごめん」
流石にやりすぎたと思ったのか。存外素直に、輝夜は謝罪の言葉を口にした。
倒錯を全肯定している○○の思考回路では、輝夜は謝る必要は全く無いのだが。
出来れば呆れてほしかった。そこに二言三言痛みに喜ぶ自分に対する度し難い感情を吐露してくれれば・・・最高としか言いようが無かった。

「ごめんね、○○・・・」
心の底から心配して、そして罪悪感を感じているであろう輝夜の顔に。チクリと痛いものが○○をさした。
一体どのように立ち回れば。輝夜は自分の倒錯した喜びに気付いてくれるだろう。
今の出来事は、意図せざる物とは言え。○○にとっては中々の趣向があった。
それに喜び、欲情していたが。その勘定を与えてくれた輝夜は、勘違いして酷い目にあわせたと思ってしまっている。
全くそんな事は無いと言うのに。誤解を解こうにも○○の話術では、むしろ誤解
が深まるだけになりそうで。
「大丈夫だよ、輝夜。全然苦しい事なんてないからさ」層声をかけるのが精一杯だった。







「・・・・・・・・・あ、空だ。綺麗だなぁ・・・って、そんな場合じゃない!!」
てゐの視界に広がる青空と、適度な量の白い雲。
それに美的感覚をくすぐられたが、すぐにそんな物思いにふけっている場合ではない事を思い出す。
飛び上がったてゐは辺りを見回す。遊郭から着たであろう男が倒れている事意外は、いつもの永遠亭の風景である。

「・・・痛い、足もある」
そして、自分の頬をつねったり、両足の無事を確認したり。
「良かった・・・!生きてる!生き残った!!」
自分が生きながらえた事を確かに確認したてゐは。ようやく意識だけでなく、いつもの思考回路も現世に呼び戻した。

「姫様と師匠は・・・!?まだ帰ってないか・・・・・・」
永遠亭の二本柱はまだ帰還していないが。輝夜が本気で能力を行使した以上、逃れる術は無い。
今頃は牛車に○○を乗せて、帰路へついているはずである。

「・・・・・・○○の部屋に行こう。○○は姫様と師匠に任せるのが一番良い」
○○の身の安全に関しては、ほぼ大丈夫であろう。永遠亭のことに考えをめぐらすと、真っ先に冷静さを失っている鈴仙を思い出した。
○○が春画やら何やらを掴まされて、部屋に保管していないか。それも大きな心配ではあったが。
それよりも心配な事は、鈴仙の行動であった。
永琳の励ましで持ち直したとは言え、泣き喚くほどの精神状態に陥っ手いたものがそう簡単に全快するはずはない。
「○○の部屋を家捜ししろって言われてたけど・・・家捜し通り越して解体して無いだろうね」
落ち着きを失い、必要以上に張り切る鈴仙の姿が。てゐの脳裏にはありありと思い浮かべる事ができていた。
「あいつ変に真面目だから・・・・・・パニくッたら絶対やりすぎる性質だよ」
てゐは最悪の予想をしながら敷地内の庭を駆けていた。

「うっわぁ・・・」
そしてその最悪の予想は。寸分違うことなく、現実の物となっている様子を目の当たりにした。
縁側を走っていると○○の部屋が位置するあたりから。一畳の畳が豪快にすっ飛んでいく光景が目に映ったからだ。
その光景を見て、絶句する以外になかった。
よくみれば。本棚やら、戸棚。着替えや細々とした日用品などが庭に乱雑に。さながら、放り出されたように散らばっている。
そこに先ほど飛んでいった畳が一畳。呆然と見ていたら、また一畳増えた。耳にはべりべりと言う何かをはがす音も聞こえてくる。
「うん、手遅れ」てゐは早々に、何かを諦めた。

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最終更新:2021年04月03日 22:17