ヤマメでピンと来た。
命を喰らうって、こういう解釈もあるかなあ、と。


『命の糸』


誰もが寝静まった旧都の長屋街を歩く。
迷ってしまいそうな程似た様な景色の連鎖の中を、余所見もせずに、目的の部屋へとただ真っ直ぐに。

私の糸に絡んだ餌は、今日もあそこにいるから。

「○○。」
「…ヤマメか。」

そいつは私が来たのを確かめると、無表情に灯りを一つ増やす。
外界を追われ、幻想郷に流れ。そして、自ら地底へと足を踏み入れた男。

「外で人を殺した。」

前に地底に来た理由を尋ねた時、彼が教えてくれたのはそれだけだった。
きっと、贖罪のつもりなんだろう。
別世界に流れても尚、彼は日の光を自ら捨てたんだ。

彼を裁いてくれる奴は、何処にもいないから。

座ったまま動かない彼に近付いて、一本の糸を垂らした。
蜘蛛の糸。
人間の物語なら、救いになるはずの糸。
それをそっと痩せた手首に巻き付けて、私は噛み付くみたいに彼を抱き締める。

掬ってあげる。
それで、救ってあげるよ。
その糸の先は、お釈迦様なんて大層なモンじゃ無く、怖い土蜘蛛がいる。

罰を、与えてあげる。

蜘蛛の雌は、最後には雄の命を喰らう。
巣に絡め取って、嚼り付いて。骨も、残さないで。

この髪を束ねるリボンをほどいて、彼の目を塞いで。
こうしてしまえば、もう私以外は感じられないだろ?

「なぁ、いつ殺してくれるんだ?」

「何を言ってんだい、今まさに殺してる最中だろ?
こうやって、“生きたまま貪って”さ。」

「…屁理屈だな、相変わらず。」

乾いた笑いが浮かぶ前に、押し倒して、唇を塞いで黙らせる。
獲物は静かに怯えるものさ。

そうさ。ゆっくりと、生きたまま貪ってるんだ。
彼の命を。
『残された人生の時間』と言う、命を。

『悪い土蜘蛛は罪人を捕まえて、いつか罪人が息絶えるまで、その命を喰らい続けました。
それが、罪人が受けた罰でした。』

そんな話で良いんだ。

美味しい獲物は、ゆっくりと味わうモノさ。
今もこうして、彼の命(じかん)を喰らってる。

いつか彼が、本当に息絶えるまで続く晩餐。
それまでは、この獲物は死んでも離さない。


…だからさ、もう「死にたい」だなんて言わないでおくれ、○○。
罰が欲しいなら、私が与えてあげるから。

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最終更新:2012年07月08日 12:08