○○は静かな生活を望んでいた。
ふとある日、自分の世話を見てくれるメイドに話した。
今の騒がしすぎる生活がもう少しどうにかならないかと。
メイドは瀟洒な笑みを浮かべて言った。

「○○様の仰せのままに」

以来、館は随分と静かになった。
所詮人の身でしかない○○は護衛無しでは館の外には出られない。
必然的に屋敷の中で暮らす事になったが何も不自由はしなかった。
自室は常に綺麗に保たれた。食事は○○が席に着けば瞬時に出て来た。
風呂は脱衣所に入れば直ぐさま湯船に湯が張られ、サロンの本棚には○○が好む本が丁寧に並べられていた。
確かに○○は静かな生活を手に入れた。
否、静かすぎる生活を手に入れた。

だが、○○は知っている。
朝起きた時の寝間着とシーツ、掛け布団が寝た時のものではなく交換されている事。
風呂に入った時、自分の身体が『隅々まで丁寧すぎる程に』清められている事に。

アレ以来、メイドの姿を見た事はない。
だが、気配だけは常に感じ続けていた。

そして三年後、彼は遂にこう呟いた。

「やはり、静かすぎる生活は良くないな」と。

翌日、屋敷に1人の幼女が訪れた。
銀色の髪の幼女は出迎えた○○を見上げ、こういった。

「あなたが、わたしの、おとうさん、ですか?」

唖然としていた○○が返事するよりも先に幼女に答えを与えたものがいた。

「ええ、そうよ。さ、早くご挨拶なさい。これからはみんなで賑やかに過ごすのだから」

幼女の肩に手が置かれる。
視線を上げるとメイドが笑顔で幼女の後ろに居た。
最後に見た時と変わらない美しさと瀟洒さ。しかし、そのお腹は大きく膨らんできた。
○○の視線に気付いたメイドは、穏やかな笑顔で膨らんだお腹を優しく擦って見せた。

「大丈夫ですよ○○。家族の賑わいであれば……みんな心穏やかに過ごせます。そうよね、あなた?」

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最終更新:2012年11月11日 13:54