寝室の襖を開けると、紫が眠っていた。
「帰るのが面倒だから、今日はここに泊まるわ」とのこと。
スキマを使えばすぐだろうと言い返せば、「それが面倒なのよ」だそうだ。
生憎とここは宿泊施設ではなく、布団は一つだけ。
俺はどこで寝ろと言うのか。
思えばいつもそうだ。幻想郷最強の妖怪、八雲紫。
いつも突然やって来ては、人の迷惑を考えない真似をやってくれる。
この間は確か式のエサを切らしたとかでやって来て、当然のように三日分くらいの食料を持っていきやがった。
抗議に対して「あなたをエサにしないだけありがたく思いなさい」などと平気でのたまう始末。
いつも余裕たっぷりの微笑、人を馬鹿にしたような言動、何者も恐れぬ態度。
……気に入らない。
いつもそうだ。
……腹立たしい。
あいつのせいで、無駄に苛々が募る。
……あの女が憎い。
だったら、あんな奴いなくなってしまえば……

……殺してしまいたい。

気が付けば包丁を片手に寝室に入っていた。
頭の中は紫への憎しみで埋め尽くされている。
枕元に立つと、紫を見下ろした。
穏やかな寝息をたて眠っている。
目の前に命を狙う人間がいるというのに、なんと無防備なことか。
幻想郷最強の妖怪が聞いて呆れる。
ゆっくりと包丁を振り上げ、首筋に狙いを定めた。
「さよならだ。八雲紫」
包丁を握る手に力を込める。
そのまま首筋に突き刺さるはずの包丁は…
「……っ!」
動かなかった。

「…どう……して」

幸せそうな寝顔が不愉快で、腹立たしくて、憎らしくて。
……でも愛しい。
どうしようもなく憎らしくて、だけど愛しい。
「……くっ!」
憎くて憎くて仕方ないのに……
「紫っ!」
沸き上がる気持ちを理解しきれないまま、紫を抱き締めた。


〇〇の胸の中で紫は妖しく微笑む。
「そうやって愛と憎の境界の中で、私のことだけを想って生きてもらうわ、〇〇」

平和的にヤンデレなゆかりん……になってるかな?

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最終更新:2011年03月04日 01:12