今日も神社から何人かの外来人が元の世界へと戻っていった。
護衛の仕事が終わり、報酬を貰って帰途につく。
巨大な縦坑を降りる前に、天を見上げてみる。
眩しいぐらいの太陽の輝き。ああ、妬ましい。
この輝きの下で穢れなく生きる者達も、希望を持って外界に戻る彼らも妬ましい。
穢れ故に幻想の郷に大した齢も経ぬまま追いやられ、果てには地底にまで至った我が身を鑑みるに妬ましい。

漸く上手くなった飛行の術で縦坑を降りる。
途中でキスメの追跡(人肉が食いたいらしい)を振り切り、ヤマメに挨拶を交わす。

そして、我が家である橋のたもとの一軒家の扉を開ける。

「戻ったのね……」

奧のベットからもそりと人影が起きる。誰かは言うまでもない。
妬心が行き過ぎて地上に出る以外は何時だって彼女は引っ付いてくる。
地上に居る間は我が家に篭もり、外に出ていた我が身を嫉妬しているのだとか。

「太陽の光を浴びて来たのね……知り合いと話をしてきたのね……」

ベットに近付くと、充血した目で彼女は手を伸ばし私の頬を撫でてくる。

「巫女とも話をしたのでしょ……戻れない外界に思いを馳せたのでしょ……この地底に戻る煩わしさに胸が引き裂かれそうだったでしょ……」

ベットに引き込まれる。彼女がマウントをとり、馬乗りになって私の胸を叩く。

「妬ましいわ、妬ましいわ、なんで私と一緒に居ないの、なんで地底から出るの、なんで他の女と口を聞くの」

彼女の言葉はもっともだ。
だが、人間と妖怪は始終共には居られない。地底ばかりに居れば人間は身体がおかしくなる。
コミュニティが隔絶したら色々終わる。最後のは妬心と彼女の気持ちを考えれば理解できるが。

「……そうよね。だけど、もう貴方の都合は変わるわ。私と同じになるから。解っているんでしょ?」

歓喜に満ちた笑みを浮かべ、しがみついてくる彼女が妬ましい。
何もかも失った俺を助け、その代償に地底とこの世界に括り付けたパルスィが妬ましい。
それだけに飽きたらず、身体すら変えてしまった事も。

だからこそ、なんだけどね。わざわざ彼女が嫌がる事をするのも。
私を独占出来ずに妬心に狂うパルスィが愛おしい。
他の女と関わりを持つ私と、他の女を妬まずに居られないパルスィが愛おしい。
パルスィが嫌いな太陽と温かさを持つ世界にわざわざ出かけ、その良さを口にした時の彼女の歪んだ面持ちが愛おしい。

だって、彼女は妬心で生きている存在だから。そうあってこそ一番輝くのだから。
涙を浮かべ嫉妬にのたうち回り悔しがるパルスィを抱き締め、優しくその緑色の瞳に唇を落とす。
目蓋に溜まっていた涙を啜り、そのまま唇を吸ってから彼女に告げる。

「解っているよパルスィ。でも、そうやって私に執着する君が一番綺麗で君らしいんだ」

爪が背中に食い込むが、気にはしない。
彼女の瞳から涙が更に溢れる。悔しいのか、それとも嬉しいのかは両方だろう。

「私を愛してくれ、誰よりも、そして、その愛の深さで妬心に満ちて欲しい。
 例えそれが負の感情でも私を誰よりも思ってくれるならそれはまさしく愛だ。
 そんな君を妬ましく思えてくるのであれば、私も君と同じ存在に近づけたと嬉しくて堪らないのだから」

私は病んでいるのだろう。彼女と等しく。
だけどそれは私と彼女が愛し合っている証拠。他者から見てそれが歪でも構わない。
私と、パルスィが愛し合っている。それが、一番大事なのだから。

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最終更新:2013年07月04日 10:33