節分が近くなると、豆に弱い鬼たちは地下や山に隠れて
時期を過ぎるのを待つと言う。

自分がいた世界の神社では「鬼も内、福も内」と言いながら豆まきをする神社もあると聞いてるが、
結局豆をまいてるので鬼はどんな気分だろうと思う事がしばしばある。

ので、今年の豆まきは炒り豆を使わないことにした。
「鬼も内、福も内!」と豪快に叫びながら殻つきの落花生を撒く。
落花生の方は炒らずに天日干ししたものなので鬼にも優しかろうと思うての事だ。。

特に地下の鬼と自分の体の大きさを変えて酒をたかりに来る飲兵衛2人は
時折荷物を運んでくれたり、地下の案内をしてくれる故に無碍に出来ない。

暫く庭で落花生撒きをしていると、晴れてるのに傘と蓑で人目を忍ぶように星熊勇儀が現れた。
その姿は日ごろの豪快さもかくやと言うほど疲れ切っている。
「まーったく。この季節は鬼にはは文字通り鬼門だよ。」
そう言う彼女の蓑の中からもう一人の飲兵衛、翠香が小さくなった姿で現れる。
「里人もこちらが手出しできないのをいいことにもう投げる投げる・・・。幾ら姿を隠せても
痛いものは痛いんだよね。」

その言葉に苦笑いしながら勇義が突っ込む。
「おいおい、人を盾にして言う言葉じゃないなあ。」
「結構蓑越しでも痛いんだよあれ。」
なるほど、2人の腕や足の所々には赤い腫れが出来ている。

「ところで○○、お前なんか変な事を言いながら豆以外のもの撒いてたけど、アレってなんだ?」

自分は外界では豆ではなく落花生を投げる所もあり、所によっては「鬼も内」と言いつつ豆をまく所が
有ると説明した。
「へえ、そんな地方もあるのか。○○は良く知ってるな?」
「いや、外界の本で見ただけだし。落花生は天日干しで殻つきだから食べられると思うよ?」

とりあえずまいた落花生を回収して軽くホコリを払って酒のつまみに出す。
上機嫌で2人とも食べている所を見ると、どうやら退魔の力は無かったらしい。
そして暫く経ったころ、当然ながら出来上がってしまった2人に絡まれて
「確か向こうの風習には恵方巻?とか言うのがあってさあ?食べるとその年安泰になるって訊いたけど
 本当にあるのかそれ?」と訊かれた。

事実自分が住んでるところとはもっと西の国の風習だと言う事と、食べてる間は恵方を向いて
一言も話したりしてはいけないと言う事は説明した。
「随分簡単そうじゃないか。一回やってみるか?」

一応街で太巻きの鉄火巻は買ってきたがご利益が有るかどうかはわからない。
とりあえず3人で寿司にかじりつき、恵方の方角を向いたとたん・・・。

2人が豪勢に吹き出した。

その先には無縁塚で見つけた映画のポスターが貼って有ったのだが、外すのをうっかり忘れていた。
「何だよこれ!こんなもの何処から見つけてくるんだよ!」
「最初見て笑わないほうがおかしいって!何このタイトル!」

そこに貼られていたのは「日本以外全部沈没」のポスター。
いや立派な2次創作映画なんですが(外界では)
何がツボに嵌ったのか、2人は咳き込みながらも腹を抱えて笑うのを止めない。
酔っ払いすぎてるかも知れない。

少したって笑いが収まった頃、半分怒りつつも笑いながら2人が詰め寄ってきた。
「お前のこれのせいで私の今年の福が逃げてってしまったじゃないか!」
「私もそうだぞ!結局完食出来たのお前だけだろ!」
2人の目が据わってる。
「ここは平等に今年1年、○○が私達に福を与えてくれないと公平では無いな!」
「私もそう思っていたところだよ。勇義。」
顔を見合わせたと思った刹那、2人が自分に向かってジワジワを詰め寄ってくる。
「・・・あの、具体的にどんな意味で福を私から頂くんですか?」」

とても何かよからぬ笑みを顔に湛えて2人は言った。
「まずはその体内の福を私達に分けてくれないとな?」
「そうそう、笑って吹き出した福の分以上に搾り取ってやらないと」

あの、それはもしかして?
「身に過ぎた福は身を滅ぼすんだよ。適当に搾り取っていけばお前も私たちも幸せだ。」
そこで彼女達の目がある種の好色さに満ちている事に気が付く。
「いや、自分は分相応のしあw・・・」
そこで言葉はさえぎられた
「心配するな、今、お前からは不幸の匂いは全くしない。久しぶりに良い夜が過ごせるな!」
「あんたの福がどんな味か、今から楽しみだよ。なあ○○。」

そう言ったが早いが、彼女達に抱えられ、自分は外を飛ぶような速さで運ばれていく。
福を搾り取られるついでに別のものも搾り取られるのがあからさまに解ってはいたが、今更逃げようにも逃げられない。

朝日が昇るまでに自分がミイラ化してない事だけを祈ろう。
それ以前に自分は何時家に帰れるか、そんな考えがよぎったが・・・多分ムリだろうなあ。
「」
「おい

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最終更新:2013年07月04日 11:17