地上人で外来人で、彼女達からしたら人類の最底辺だそうだけど、
なんだってまた好かれてしまったのか。
嫌じゃないし、気恥ずかしいばかりで嬉しいんだけどさ。
理由なんて聞くのも野暮だけど、鈴仙はよくわからないなあ。

ちょっとばかし愛が重くって、嫉妬深い彼女は他人と話す度に膨れていた。
それを面白がって、烏天狗がからかって、意図を汲んだ俺がそれに乗っかって、事は起こった。
スペルカードなら生易しいさ、自分の行動が間に合う辺り彼女だって躊躇する無意識はあっただろう。
とっさで拳銃を構えて発砲した鈴仙、文を庇った自分。
ええ、動けない?
いやあ、伊達に平和ボケした国で生きてたんだ。
銃は危険なんて体は教わってなかったのさ。
でもよく考えれば、文は妖怪なんだしたいした事はなかったのかも。




目が覚めて辺りを見回したが、
永遠亭のベッドではないようだった。
鈴仙が運んでくれたのか?
起き上がろうとしたところで腕、いや手足の感覚が無い事に気づく。
「え・・・」
手足の付け根には包帯が巻かれていて、そこから先は、
無かった。
「え、えぇ・・・」
痛さとか経緯よりも先に、言い用の無い喪失感が心を襲った。
むしろ虚無感と言うべきか、ああ、もうあんな事は出来ないんだろうな、
と、そんな思考が走馬灯のように走り巡る。
起きてごそごそしていたのに気づいたのか、隣の部屋から鈴仙が入ってきた。
「鈴仙・・・俺の、体は?」
彼女は黙ってうつむいたままで、小さく「ごめんなさい」と言った。
許すものか、でも、なんというか、ねえ。
「頭を撫でて励ましてやれないけどさ」
「河童とか永琳なら良い感じに義手とか作ってくれるさ?」
気にしないから、気にすんなよ。
そう伝えるのがやっとだった。


永琳の提示した金額は余りにも高く、
理由を聞いてみれば「河童が」と言う。
河童に聞いてみれば「一部の金属部品を作るのに採掘から始めないといけない」と言う。
結局、後払いでなんとか返す事になった。
こんなどことも知れぬ離れにわざわざ来て貰って申し訳ない。
とりあえずの義足が出来るまで鈴仙が身の回りを世話してくれる事になった。
結局ここがどこなのか教えてくれなかったが。



時々、あるはずの無い手足が痛む。
幻肢痛だったか、覚えてないが。
鈴仙が痛み止めを持って来てくれた。
永琳謹製なだけあって効果は高い。
「中毒でもならんかね」
「まさか」
鈴仙は笑っていた。

二度目に永琳が訪れた時、
彼女は輝夜を連れていて、鈴仙はちょうど留守だった。
「ああ、見舞いに来てくれたのかい?」
永琳は嫌悪するような表情で、
「あなた・・・今まで一体!」
何かを怒ろうとした所を輝夜がたしなめた。
「あの子が選んだ道よ」
言葉の意味は理解出来なかったが、
とりあえず永琳は引き下がり、懐から小瓶を取り出した。
「自決するぐらいの覚悟・・・いや、ただの、強い痛み止めよ・・・」
「ちょ、ちょっとまってくれよ。
だからまだ手足が無いんだってば」
永琳は何故か一瞬戸惑いながらも、懐に小瓶を忍ばせてくれた。
「うどんげには内緒よ」

彼女達の来訪を告げると鈴仙は大いに取り乱した。
挨拶できなくて申し訳ない、と言っていたがどことなく不自然だった。
その日は痛みが酷かった。






薬が切れてしまい痛みが酷い。
応急策として狂気の瞳を受ける事になった。
効果は抜群で痛みは消えるようだった。
しかし、
歪まない、狂わない、惑わない。
いくら彼女が力を制御しているとはいえそう上手くいくものか。
力が使えるのなら元より治療に使うんじゃないのか。
一つとして変わる事なく、甲斐甲斐しく世話をする鈴仙が、怖かった。

「お前は本当に鈴仙なのか?」
「意味が分からないよ」
「本当は狂気が見せた幻像じゃないのか?」
鈴仙は優しく唇を重ねてくれた。
「この温かさが証明にならないかな?」
ああ、よかった。
鈴仙はちゃんと居てくれる。
疑ったのが少し申し訳なく感じた。
すると鈴仙は頭を撫でて、
「寂しい思いをさせちゃったんだね、ごめんね」
と言った。
なんだかそれが申し訳なくて、
身を乗り出して喋ろうとしたとき。
ごとり、小瓶が懐から落ちた。
「・・・何、それ」
「永琳が前来た時に渡したんだ」
隠しようもないので素直に言ってみれば、
頑張って笑顔は取り繕うものの目に見えて不機嫌になっていた。
「ふーん」
薬は彼女にも判別つかないようで、
それが一層機嫌を悪くしたようだ。
「隠しててごめんね」
「や、そうじゃないよ、◯◯は悪くないよ、うん」
鈴仙は焦ってそれを否定した。
それで有耶無耶になったものの、
結局薬の正体は分からず仕舞いだった。
まあ構わないが。
永琳が意味ありげな言動を取ったところで、
鈴仙にも検討がつかない薬をおいそれと飲む訳にはいかない。
まあ、永琳だからなあ。
「そういえば、林檎買って来たんだけど剥いてあげるね」
「ああ、ありがとう」
というか自分が「あーん」ってやりたいだけなんだろうなあ。

嬉々として林檎を剥く鈴仙。
ふと思えばフォークが無い。
直接手で食べさせて貰うのも悪く無いが、それとなく聞いてみた。
鈴仙もそれをすっかり忘れていたようで、
すっと立ち上がりナイフを机の上に置いたが、
たまたま、それが滑って布団の上に落ちた。

「え・・・」
そう、理解していたはずだったが、
ナイフは布団から15センチほど上に、
何かに刺さったように立っている。
それに、幻肢痛が酷い。
なんだこれ、まるで、手足があるみたいだ。
「◯◯」
鈴仙が顔を覗き込み目が合う。
いや、疑念を持った俺は視線を逸らした。
「痛むの?」
鈴仙は焦ったようにナイフを取り除き隠した。
「永琳の・・・薬」
「あ、あれはダメよ◯◯」
「痛み止めって言ってたし・・・」
下手に拒絶しない方が良いと思ったか鈴仙は薬を取り出し、
観念して飲ませてくれた。

痛みが目を覚ます、
意識ははっきりと、幻を掻き消す。
「え・・・手が・・・ある?」
「◯◯それは幻覚ざ」
この手は、勢いよく鈴仙を突き飛ばしていた。
「なんで、幻覚なら君を突き飛ばせた?
なんで幻覚なら刺された傷があるの?
なんで・・・銃創なんてどこにも無いんだよ・・・」
「あ・・・うぁ・・・」
「騙したのか・・・鈴仙?」

ざあざあと音が立ち霧が晴れていく、
この霧も歪んだ力によるものか?
道理で誰も訪れない訳だ。
「あ・・・嫌・・・お願い・・・嫌わないで」
鈴仙は怯えていた。
違うよ、馬鹿だなあ。
悪いのは君がこんなに脆い事に気づかなかった俺だから、
よく我慢したよ、いつだってダルマにする機会があっただろうに。
それでもそんな事をしなかった君の気持ちは分かるから。
「鈴仙、それを離せ・・・」
ナイフを握って、震えていた。
自分よりよっぽど強い軍人崩れが。
力の無い自分の手が届くと信じて、
久々に足を働かせた所で、
「こうすれば・・・一緒だから」
情けないなあ、俺は。





車椅子に乗るのは四肢の繋がった鈴仙。
結局、彼女の思い通りに動いてしまった俺は、
自殺なんかするつもりの無い彼女のナイフをずらし、
半身不随という重い後遺症を負わせてしまった。
もちろん、責任は自分にあるので身の回りの世話は自分がする事になった。
まさに立場逆転だ。
彼女からすれば俺が自分から離れないのが御満悦なようで、
「ん」
動く手を伸ばすので前に立ってあげると、
そのままたぐり寄せて、強引にキスをした。
「ごめんね、◯◯」
「何が?」
「動けない自分が、好きな人を手繰り寄せる嬉しさ。
君に教えてあげられなかったね」
そっちかよ、よりによって。
狂気の瞳で記憶を改ざんして監禁した事はお咎めなしか。
ちょっとむかついたので、
そのままぎゅっと抱きしめる。
「じゃあ俺が経験してない、
好きな人が抱きしめてくれてるけどキスできない苦しみを教えてやるよ」
「んなっ!ずるいよ◯◯!ああ頭撫でないでよ~!」

やれやれ、手篭めにされたのはどっちなんだか?

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最終更新:2010年08月27日 10:12