俺は昔から特別な存在でありたいという想いがあった。
    まぁ、妖怪やらそれ以上の力を持つ巫女やらがいる幻想郷で特別も何もあったもんじゃないが。
    それでも一般人を見下せるぐらいの力は欲しいなという想いがあった。

    だから、リスクを承知で邪仙に弟子にしてくれるように頼み込んだ。
    気まぐれに弟子にしてくれればそれにこしたことはないが、機嫌を悪くしてしまえばその場で殺されるかもしれないだろう。
    なんか脇に妖怪っぽいのもいたし。(後にキョンシーと判明)
    結論から言えば、邪仙・青娥娘々の気まぐれによって俺は弟子にしてもらえた。
    それ自体は喜ばしいことなのだが、ひとつ問題がるとすれば、そう。
    師匠に気に入られ過ぎた。


    「はい、今日はここまでよ」
    「え、師匠。まだ俺まだやれるんですけど?」
    「あら?師の言うことが聞けないのかしら?」
    「……わかりました」
    「怪我してない○○?特製の薬を塗ってあげるからいらっしゃい」
    「いえ、怪我していないんで結構です」
    「さっき岩に体をぶつけていたじゃない。痣になってないか見てあげるから服を脱ぎなさい」
    「いえ、結構で…」
    「芳香~」
    「はい」
    「あ、ちょ、おま……」

    いつの間にか背後にいた芳香に組み付かれる。
    そして薬を手に持って指をワラワラと動かしながら近づいてくる師匠。

    「待って、待て待て待って……」
    「○○~」
    「うわあぁぁぁぁぁ!!」


    俺と師匠と芳香は現在、人里から少し離れたところにある洞窟に拠点をかまえている。
    日課である俺の修業を終えると、芳香が食料の買い出しなどの雑用で出かけたり師匠が用事(用事の内容は不明)で人里に行ったりする。
    俺が弟子入りする前はふたりは大体一緒に行動していたらしいが今はどちらかが残って俺のことを守ってくれている。
    修業の成果により弾幕というか、なんとか弾を出せるようになった俺だが、1人で留守番をさせてもらったことはない。

    なんというか、師匠に気に入られ過ぎて過保護的に守られているのだ。
    修業だって、俺的にはもっとビシビシとスパルタで来てほしいのに緩い感じだ。
    その不満を今日もどこかに出かけようとする師匠に無駄だと分かりつつもぶつける。

    「もっと厳しく修業つけてくださいよ。もっとどんどん力付けたいんですよ俺は」
    「あら、○○は才能ある方だから焦らなくても大丈夫よ」
    「親馬鹿……というか師匠馬鹿的な評価は聞き飽きましたよ。
    というか、こっちはやる気があるのに俺の怪我とか気にしてあんな緩い修業じゃ欲求不満状態ですよ」
    「欲求不満?じゃあ、相手してあげるわよ」
    「そっちの意味じゃないんで」

    若干服をはだけさせながらそんなことを言ってくる師匠に突っ込みを入れる。
    とはいえ、俺と師匠はそういった大人的な意味で夜を共にしたことはないことはない。というか結構ある。
    とはいえ、正式な夫婦・恋人関係にはなっていないあくまで師弟の関係だ。
    何を考えているのかよくわからない師匠はともかく、俺としても恋人関係になる気はない。
    女性として魅力的な師匠ではあるが、色々と腹黒な面とか知ってしまったわけだし。
    それでも師弟愛を超えている愛情を注がれている気はするが。

    「じゃあ、○○、芳香行ってきます」
    「師匠今日はどこ行くんですか?人里ですか?手伝えることとかあります?なんなら荷物持ちでも……」
    「大丈夫よ、○○。あなたは留守番をしていて」
    「あ、でも……」
    「師の言うことが聞けないのかしら?」
    「はい……」

    師匠にふたつ程禁止されていることがある。
    ひとつは不純異性交際。要は女性と恋人関係になること。そうじゃなくても売春などの性的なことを禁止されている。
    あんたそういうの禁止する様な堅物的な性格じゃないだろと言いたいことはあるが、弟子入りした師の言うことは聞かざるを得ない。
    ただ、芳香は例外らしくたまに夜を共にする。ふたりがいることで禁欲というわけではないので年頃の男として持て余すことはなくて助かってはいるので特に問題はない。

    問題はもうひとつ。
    人里への進入の禁止だ。
    師匠や芳香同伴でも駄目らしい。
    というか、禁則事項の一つ目とかぶってる気がしないでもない。
    人里に行かずにどうやって恋人作ったり性的なことを他人とするんだよ!?
    いやまぁ、妖怪の少女とかと稀に散歩中に遭遇するけどもさ。

    というか、一般人にはない力を手に入れ誇示したい俺の目的と食い違うんだよな。
    力は手に入るだろうが、それを一般人に対して自慢することができない。
    なのでひとつめを守ればいいだろうと文句を言ったことがあるのだが

    「駄目よー。私の○○を他の女共の目にさらしたくないもの」

    というよくわからない理由で却下になった。そりゃあ、若い女の子の人口密集率が幻想郷で一番高いところは人里だろうけどもさ。

    というわけで本日も師匠権限で黙らされて留守番。
    やることもないので芳香に以前買ってきてもらった本を読む。一緒に留守番している芳香はというと後ろから座っている俺の首に手をまわして寄りかかってきている。
    特に何かを言ったり、何かしてくるというこはなく、単に体を密着させてくる。
    芳香と俺の間にたまにあるスキンシップではあるがここまで露骨に甘えてくるのは珍しい。
    そういやさっき、師匠に人里に連れいってくれるようにせがんだ際に、俺の服の裾を掴んできてたな。
    俺が人里に行こうとする意志を見せたから何か思うところがあるのかもしれない。


    芳香とのこののんびりと過ごす時間は嫌いじゃない。
    なので今日ものんびりと過ごしていたわけだが、ふと考えてしまった。
    師匠とは夜の関係もあるとはいえ基本的には師弟関係だが、俺と芳香ってどんな関係なんだろうか。
    師匠の作ったキョンシーということだが、姉弟子か?俺の感じから言うとそういうんじゃないんだよな。
    なんというか、そう。通っている道場の師範の娘さん的な感じか。うん、自分で言っていてよくわからん。
    芳香は俺のことをどう思っているんだろう。……これも俺の勝手な感じ方だが、あまり下には見られてはいないと思う。むしろ甘え方が妹が兄にする感じか?
    俺もこいつと接していると子守をしているような感覚になる。まぁ、実際は外敵から守られているのは俺なのだが。

    ふむ。やっぱり芳香も俺が人里に行ったり他の女性と仲良くなるのは嫌なのだろうか?
    俺としては、師匠との縁を切って人里に帰ることも検討中なわけだが。すでに一般人を超越した力は得たし。弾撃てるの自慢したい。
    まぁ、もう師匠が許してくれないだろうけどな。というか、検討中とはいえ実際に師匠に言う気は皆無だ。
    言った後の反応が怖すぎる。想像しただけで体の震えが止まらん。
    それ程までに普段から師匠は俺のことを気にってるということを。
    言葉で、態度で俺にしっかりと伝えてきている。

    ここで新たな疑問。
    「縁を切って人里に帰ると」師匠ではなく芳香に言ったらどうなるんだろうか?

    「なぁ、芳香」
    「なに?○○」

    体勢を立て直して芳香に向かいあう。
    寄りかかっていた芳香も一度離れて座りなおしている。

    「もし、俺が師匠の弟子をやめて人里に帰るって言ったらどうす……」
    「……」
    「冗談だけどな!ほら、『もし』って言ったし俺!さて、この話はやめやめ!!この後どうする?なんか山に追加の食料とりにでも行くか?」
    「うん、行く」

    後悔した後悔した後悔した!!
    芳香ですら言いかけただけであんな圧迫感をかけてくるとは思わなかった。
    凄い睨まれ方した。ちょっとどんな反応をするか見たかっただけなのに……あ、駄目だ、まだ体の震えが止まらん。
    やっぱ芳香も妖怪なんだと実感したわ。
    というか、今の俺ならわかるんだけど睨んできた瞬間の芳香の妖力がやばかった。爆発的に濃くなってた。
    芳香に対しても禁句か。まぁ、本気ではなかったが俺は一生芳香と縁をきることはできないことが判明した。
    ……いやまぁ、芳香がどんなスタンスだろうと元々師匠からは逃げらんないだろうことは確定していたけどな。
    それにしても、その表情は怒りと共に深い悲しみの色を混ぜ込んでいたように感じた。……夢に見そう。

    「遅いな師匠」
    「遅いね」

    夕飯を食べて、普段3人が寝る時間になっても師匠は帰ってこなかった。
    まぁ、以前もこんなことはあったし先に寝てしまおう。
    寝たのは良いのだが、ふと目が覚めた。なんか毛布の中に人がいることに気付く。
    深夜に帰って来た師匠だ。


    「師匠、なにやってんですか?」
    「いや~ん!師匠なんて堅苦しい呼び方じゃなくて青蛾ちゃんって呼んで~」
    「あんた酔ってんのか!?」

    顔は真っ赤でいつもよりハイテンションな青蛾が布団の中に入り込んでいた。

    「青蛾ちゃんって……もう寝たらどうです?」
    「いや~ん、私も芳香みたいにいい子いい子ってして」
    「そんなに強く抱かないでくださいよ。ちょ、芳香助けて」

    いつの間にか目を覚ましていた芳香に助けを乞う

    「青蛾はたまにはむずかしいことは考えず、○○に甘える時があってもいいと思う。
    いつもは師匠らしくいようって気張っているみたいだし」

    と、そんなことを言ってまた寝てしまった。
    師匠がむずかしいことを考えてたりするのだろうか?というか師匠らしく気張っている?
    あんな過保護で、無理やり服をはいでくることがあるのに?

    「いや~ん、私を見て○○~」
    「わかりましたから落ち着いてください」

    その後も、気が付いたら師匠が寝ているまで。
    師でもなく邪仙でもない。ただの女の子状態の相手をした。
    確かに普段よりも見た目相応の女の子のような感じだ。異常にハイテンションではあるが。
    相手と言っても話をしたり抱き着かれたりといった具合だったが。

    それにしても。
    仙人はここまで酔わないと思っていたが量を飲めば泥酔することもあるのか。
    ……ということは。


    「頭痛いわ……それに気持ち悪い」

    翌日。やはりというか。
    起きてみたら二日酔いに苦しんでいる師匠がいた。

    「大丈夫ですか?師匠」
    「ああ、おはよう○○」

    師匠は俺が起きたのに気付くとヨロヨロと立ち上がって来た。

    「じゃあ、朝食前に今日は修業を行いましょうか」
    「いや、師匠顔色悪いですよ。無理しないでください」
    「大丈夫よ。修業したいんでしょう?ほら、行くわよ」

    あきらかに無理をしていた。
    修業をつけてくれるのは嬉しかったのだが、あきらかにそんなことができる状態じゃなかった。
    実際、最終的に、修業が始まり少し動いただけで嘔吐しながらぶっ倒れてしまった。


    「こんなことになるぐらいなら、自分の体調を優先してくださいよ」
    「ごめんなさいね、○○」

    師匠を布団に寝かせる。

    そして時間がたって現在は午後。
    芳香と山に食材を取りに来ていた。
    貧乏生活と言うわけではないが、山でただで採れる物を利用しないてはない。
    出発前には師匠の顔色はだいぶマシになっていた。

    周りを見渡していたら、ある程度離れた位置に猪の妖怪がいるのが見えた。
    妖怪なんだか、ただのでかいだけの個体なのかわからないようなタイプの妖怪だ。ただの動物にしてはでかすぎるが。
    ふと、あれを相手に今の自分の力を試してみたい衝動に駆られた。
    過保護な師匠やなついてきている芳香以外と戦って自分の力量を確認したかった。

    「○○、どこ行くの?」
    「お手洗いだ」

    そう言って芳香から離れる。
    普段素直に俺の言うことを聞いてくれる芳香に嘘をつくことに若干の罪悪感を感じでしまった。
    あの動物型の妖怪に接近し、戦闘を挑んでみることにする。


    過保護な師匠が毎日の修業をたくさん厳しくしてくれなかったからなんて言い訳や責任転嫁をする気はない。
    どっち道、無理な修業内容だろうが一般人である俺が力をつけるのには時間がかかるのだ。
    だから、今、力がまったく通じず猪の妖怪に追い詰められているのは俺の責任だ。止めときゃよかった。
    特に攻撃はまだくらっていないが、こっちの弾は決定的な傷を与えず、壁際においつめられている。
    今にも突進がきそうだ。これがまだ、弾幕ごっことかならば死なずにはすむだろうが、相手が原始的すぎる。
    スペルカードルールのスの字もない純粋な闘争である今、下手しなくても死ぬ。

    猪がとうとう突進を開始しようとし、俺が死を覚悟した瞬間。
    猪の巨体が横に吹き飛んだ。
    俺はなんとか、横から弾幕の弾が着弾していたのを目でとらえることができた。

    見ると、芳香がいた。さすがに遅かったので探しに来てくれたのだろう。
    芳香は、そういえばこの少女は妖怪だったなということを再認識することができるレベルの殺気をだしつつ猪妖怪を蹂躙した。
    そして蹂躙後。


    「ありがとう、芳香。助かった。死ぬかと思った」
    「……お手洗いじゃなかったの?」
    「あ、悪い。その、腕試しがしたくて。お前が側にいたんじゃ絶対させてくれないと思ったから嘘をついたんだ。
    それで、相手にちょうどよさそうな奴がいたから、つい。全然ちょうどよくなかったけど」
    「嘘つき」

    この前の圧迫感のある表情とはまた違う表情。
    悲しみの方が強く、それでも怒りも十分に孕んだその表情でこちらを睨んでいる。

    「○○、帰ろう」

    そう言う芳香に俺は引っ張られるようにしてこの場を後にした。



    そして現在正座中。

    目の前には芳香と話を聞いた師匠。
    芳香と違い師匠は笑っている。それはもうにっこりと。
    だが、芳香より断然怖いのは何故だろうか。
    そういえば二日酔いは治ったのだろうか?それは良かったなと現実逃避。

    「○○?」
    「はい!」
    「私、勝手に力を試したりするのを禁止してなかったかしら?」
    「はい」
    「師の言いつけを破ったという自覚はあるのかしら?」
    「はい」
    「私が芳香の話を聞いて、あなたがいなくなってしまうことを想像しどれだけ寂しいがわかるかしら?」
    「え?師匠?」

    いつもまにか、師匠が衣服を脱いでいた。その後ろの芳香も同様に生まれたままの姿になっていた。

    「罰として、今夜はあなたのことを肌で感じさせてもらうわよ、芳香と一緒に」


    師匠、青蛾が普段の夜の営みの際に、修業をつけているとはいえ基本的には普通の人間の域を出ていない俺に気を使っていることが良く分かった。
    要は、めちゃくちゃ疲れた。
    勝手な行動をして心配させ、心細い思いをさせてしまった罰としての今夜の営みはそういった気遣いはあまりなく、邪仙と妖怪の体力に付き合うこととなった。
    俺はいつのまにか気を失い、気が付いたのは次の日の太陽が高くあがった後だった。

    「あら、○○?起きた?今日は修業は休んで一日中寝ていなさい」
    「言われなくても動けそうにないです……時に師匠」
    「何かしら?」
    「昨日までなかった俺の手首のある刺青?とにかくこの謎の印に心当たりは?」
    「私がつけたわ」
    「……なんなんですかこれ」
    「あなたは言っただけじゃきかないみたいだから。私の言いつけに背いた場合に発動する術式をかけたのよ」
    「今回のことでこりたんでもう勝手なことはしませんよ。ちなみにこれ発動したらどうなるんです?」
    「試してみたら?」

    そう言ってにっこりと笑う師匠。
    だが、その笑顔は昨日と同じ恐怖を感じさせるものだった。素敵な笑顔のはずなんだけどな。
    恐らく試したら公開するなとその笑顔から俺は感じ取った。


    今回のことで大目玉をくらい、変な印はつけられたものの、師匠・芳香と俺との間で特に変わったことはなかった。
    今まで通り、修業したり留守番したり山に食料を取りに行ったり夜の営みがあったり。
    ただ、強いて言うとしたら……

    「○○、どこに行くの?」
    「糞してくるだけだ。ついてくるなよ」
    「駄目。そう言ってまたどこかに行く気でしょう?」
    「いや、そんなことしたらこの印で恐ろしいことになるだろ。本当に用を足してくるだけだ」
    「信じられない。見張ってる」
    「あの、芳香。いいか、さすがにお前のことを何度も抱いちゃいるけどよ。そんな関係だとしてもさ。
    さすがに用を足すのをじーっと見られるのは勘弁して欲しい」
    「あの日もそんなこと言って危ないことしてた。信じられない。最初から最後まで見張る」

    芳香はあの日以来、どんな時でも俺を一人にしてくれなくなった。
    風呂はともかく、用をたすときでさえも。
    俺は助けを求めるように師匠の顔に視線を向けるが。

    「自業自得よ○○」

    師匠から注意する気はないようだ。

    「せめて後ろ向いててくれない?」
    「駄目」

    どうしてこうなった。
    とうぶんの目標はせめて用をたす最中に直視してくるのをやめさせることかなぁ……。

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最終更新:2015年02月03日 11:54