OO月OO日
今日、ペットの烏が死んだ。猫や妹や他のペット達は泣いていたけれども私は泣けなかった。烏のことは勿論家族として大切に接してきた。けれども心がふわふわしただけで何にも感じなかった

OO月OI日
葬儀はあっという間に終わった。その後地底の妖怪達は宴会は開いていたけど、興味がなかったので行かなかった。そういえば見かけない外来人をみたけどどうでも良かった

OO月II日
今度は猫が消えた。地底の妖怪達も必死で探してくれているけれども見つかる気配がない。とにかく無事を祈るしかない

OI月XX日
猫が見つかった。だが時既に遅し、死後の状態で発見された。ああどうしてこんなことに…。ともかく葬儀は明日やろう。妖怪達にも感謝しなくては。それにしても、私と妹だけだとこんなにも広かったのか、地霊殿は

OI月OX日
最近は私の代わりに妹が色々とやってくれるようになった。曰く、「お姉ちゃんはこのままだと死んじゃいそうだから」だとか。別に死ぬつもりはないものの、確かに私はこの頃ぼーっとしていることが増えた気がする。妹に心配をかけないためにも何とかしなくては…

OI月II日
食事が喉を通らない。折角妹が作ってくれているのに情けない。いつまでこの状態でいるつもりだ、私

II月II日
妹が久しぶりに出かけた。最近は私の面倒ばかり見てくれていたのでいい気分転換になってくれるといいな

II月IO日
おかしい。普段ならもうそろそろ帰ってきてもいいはず。…少し、遊ぶのが長引いてるだけだ。そのうち帰ってくる

IX月OX日
今朝マヨヒガから使いがやってきた。妹が行方不明らしい。………何故だ。何故此処の所はこうして私の周りから段々と大切なものが失われていくのだ。…ともかくもう寝よう。願わくば妹が無事でありますように

XO月II日
妹は一向に見つからない。私はもう諦めた。もうどうなってもいい。ただ、死後は皆に会えますように…

II月OI日
およそ1年ぶりだろうか、この日記は開くのは
地霊殿に外来人がやってきた。何でも紅魔館では読めない本があると聞いてやってきたらしい。かなり変わってはいたが、とりあえずそれなりのもてなしをした。あそこまで感謝されたのは初めてだ。正直嬉しい

II月XX日
今日も例の人間はやってきた。本を読むだけでなく彼の話も聞いたりした。彼の話す東海道や東京、横浜に大阪は、本でしか得ることの出来なかったものばかりでとても新鮮だった。また来てくれるかな

XX月XO
今日思い切って彼に私が覚り妖怪だと打ち明けた。けれども彼は笑っていた。心の中では一応信じてくれたようだ。私が心を読んでいるのに怖くないのかと聞くと「それで怖がるんだったら最初から来ないよ」と答えた。何だか在りのままの私を受け入れてくれたみたいで嬉しかった。時々「可愛い」って心の中で思われたのは恥ずかしかったけど、でも嬉しい


II月XI日
今日は彼から神戸、高松、福岡、鹿児島の話をしてもらった後、一緒に料理した。以外にも彼は料理が得意なようで今まで食べたことの無い味でとても美味しかった。それに神戸の夜景、鳴門海峡、明太子、桜島。未だに彼の話は忘れられない。明日はどんな話を聞かせてくれるのかしら

XX月VI日
どうして?なんで突然帰るなんて言い出したの?私があなたの故郷の話をさせたから恋しくなったの?それとも私が目障りになったの?そんなの嫌よ。やめて、嫌わないで、もっとこっちを見て。あなたがまだ読んでない本もあるわ。もっと私に話を聞かせてもっとあなたで私の心を埋めてもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとももっともっともっともっと
<中略>
…身勝手でごめんなさい。でも私を受け入れてくれるのはもうあなたしか居ないの。だから、

ワ タ シ ト イ ッ シ ョ ニ ナ ッ テ


日記はここまでで終わっていた
あとは何かの術式と思わしき文字が不規則に連なっているだけで、OOが有力と思える情報は無かった
OOは机の上に日記を戻した。すると
「…見てしまったのですね」
声がした。振り向いて主を確認する
「すまない。勝手に読んでしまって」
「いいえ、別に構いませんわ」
さとりは、目線こそOOに向いてはいるもののいつもよりもひどく、その『目』は何処も見えていない程澱んで見えた
おそらくは、先日、自分が無意識に拒絶したことが原因だなとOOは思った
「…っつ、それについてはもう触れないでください。それよりも」
さとりはOOが見ている方向とは逆に歩き出し、天井に届いてそうなほど高い本棚を弄ると、大きな扉をOOに見せた
「一緒に来てください。…別にとって食おうなんて考えてません。ただ、あなたが今考えている疑問を解消してあげますわ」
OOは扉へと向かう。気づけば、先ほどまで感じていた恐怖はすっかり消えていた

扉の先に広がる景色は、ooが既に忘れかけていた景色だった
赤レンガで造られた東京駅、静かな佇まいの高層ビル。そして、21世紀において確信的な変化をもたらした卯酉新幹線卯東京駅の入り口
間違いなく、ここはooが居た世界、外の世界だった
「驚きましたか?」
隣に居るさとりが尋ねる
「まぁな…。しかし、少し静かすぎるな」
「私とあなた以外人なんていませんからね。あ、電車はちゃんと動くのでご安心を」
「電車に乗るみたいな口調だな」
「お気に召しませんか?」
「いいや」
「よかった、どうやら気に入ってくれたみたいですね。さ、電車に乗りましょう」
さとりは駅へと歩き出す。ooも追いかけるように歩き出した





「なんで新幹線じゃないんだ?」
東海道を走る電車の発車を待ちながらooはさとりに問いかける
「私はゆっくりと旅を楽しみたいので」
電車の扉が閉まり、ゆっくりと動きだす
ooは改めて車内から外を見渡す
「どこか懐かしいでしょう?なんせ、あなたの記憶から作ったのですから」
「…ああ、どうりで」
銀色の車体に緑や赤、青に黄、といった鮮やかな色を纏った電車。空高く、まるで天にまで届くかの用にと作られた高層ビル群。そして何より、この空気
「どうりで見覚えがありすぎる訳だ。あの罰も、こういう意味だったんだな」
「…ごめんなさい」
「謝る必要ないよ。むしろ感謝したいくらいだ」
「え……」
「こうして、元の世界を懐かしめるのもさとりのおかげなんだしな」
ーーこの言葉に、君は嘘がないか確かめているのかな
「失礼ですね。まるで私が疑心暗鬼みたいじゃないですか」
ーー疑心暗鬼だから、俺をあんなゲームに付き合わせたんだろ?
「……」
さとりは俯いた。核心を突かれたような表情を見せる
「なんて、冗談だよ。気にすんな」
それでもさとりは動揺をせざるを得なかった





電車が「横浜」を過ぎた頃、さとりが口を開いた
「教えてあげます。何もかも」
その言葉に対して言葉で返すのは無粋だとooは察し、心で答える
ーー全て、ってことでいいんだな?
「はい。全てです」
さとりの目はいつものように澱んでいるものの、どこかを見据えているようでもあった
「まず、この世界。私の部屋から続く第二の日本。ここはあなたの記憶と私が本で得た知識から作ったものです」
ーーで、出口は?
「…ありません。先ほど、私が封じました」
ーー…ま、だろうな。半分諦めてたんでいいんだが
「随分あっさりしてますね」
ーーもうどうでもいいんでな。それよりも、そもそも何であんな風に閉じ込めたりしたんだ?
「…日記に書いた通り、あなたが私の心を支えてくれたから。あなたが消えてしまった家族の代わりになってくれたから」
ーー…なるほどな。それが聞けただけでもいいか
「ねぇ、あなたはこれからも私と一緒になってくれますか?私だけの存在になってくれますか?私の、私のかけがえの無い存在になってくれますか?」
ooに迫るさとりの表情は、まるで獲物を逃さまいとばかりの顔つきであった
数分の沈黙の後、先手を打ったのはooであった
「悪いが、お前の望みを叶えるつもりはない」
「…!?」
それは、さとりにとって衝撃的な一言だった
「どうして!?」
「どうしてって、こんなものつけられりゃ、誰だっていやにならぁ」
そういってoo第三の目を差し出す
「さ、こんなお遊び、もう終わらせよう」
「あ、あは、あはははははははははは!!!!!!!!」
さとりが変わった、否、凶変した。ooはそう直感した。事実、さとりの心は闇に支配されたような状態であった
「嫌です。逃がしません。逃がしたくありません。やっと手に入れた幸せです。やっと手に入れた大切なものなんです。…終わらせません。永遠に続けさせます」
瞬間、ooの体が何かに縛り付けられる
「私と永遠にこの世界で暮らしましょう。あなたが見てきたこの世界で。私が憧れたこの世界で…」
「随分と狂っているな、お前は」
「ええ、でもそんな風にしたのは誰ですか?自覚はしているはずですよね?今その責任を果たしてもらいましょうか…」
言い終えるとさとりは、自ら唇を重ねた。ooはそれに従うしかなかった
「大丈夫、今度こそ私色に染めあげてみせます……。あなたは二度と離しません…」
さとりはもう一度唇を重ねる
銀色の電車の中、一人の男と女はそれぞれの体を重ね、壊れ合う
それはとある偽りの国の、ささやかな出来事であった
<東海道に狂気の花は咲く・了>

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最終更新:2015年06月13日 23:25