慧音は確信していた。
半妖と化し絶望に浸っている〇〇を放っておいたらその内に本当の妖怪になってしまう。だから人里に置いて監視しつつ保護する必要があると。
だから慧音は今まで〇〇を人里に置く事に拘ってきたのだ。

しかし、最近は古明地こいしが〇〇の近くにいる。
ひょっとしたら彼はまた妖怪に近い存在になるかも知れない…

慧音は村人たちと相談し、〇〇の休養期間の最終日に〇〇の家を訪ねる事にした。


一方その頃〇〇の家ではこいしが料理を完成させていた。
見た目はやや崩れているが、中々の物が完成した。焦げ臭さもない。
「やった!かんせーい!」
「おお、出来たのか」
「ほら、食べて食べて!」
「じゃあ、いただきます」

味も中々のものだった。料理の一つ一つにこいしの努力が感じられる。〇〇は久方ぶりの旨い食事を堪能した。怪我をして以降、基本的に食事は簡単なもので済ませていたのだった。

「ふう、ごちそうさま」
「お粗末さまでした。どうだった?」
「うん、前よりずっと美味しかったぞ」
「そうでしょ!家で練習頑張ったんだよ、えへへ…」

こいしははにかんだような笑顔を浮かべた。それは桜の花のように可憐で安らかなものであった。

「ところで〇〇は最近何してるの?」
「最近はずっとリハビリするか寝てるかだな」
「え、外には行かないの?」
「行っても何も面白いものはないしな。畑にも今は急ぎの用は無い」
「ふーん」
「まあ、この体ももうすぐ治るしな。そうすれば畑の警備で忙しく…」
「だめだよ、そんなの」

こいしは唐突に〇〇の発言を遮った。

「あんな仕事したらまた怪我しちゃうよ。今回は助かったけど次はもっと酷い怪我になるかもしれないんだから。だからそんな仕事しちゃだめだよ」

こいしの声は暗く冷たかった。

〇〇はこいしの強大な威圧感と妖気に圧倒された。
ここで機嫌を損ねられたら、何が起きるか分からない。しかし何とかしてこいしを説き伏せなければならない。

「そうは言っても、これが仕事なんだから仕方ないだろ。ここで生きるためには金がいる。金は仕事をしなければ入ってこない。俺には人間に無い力があるから俺はこの仕事をするんだ」

〇〇は思い付く中で最善の言葉を選び抜き、説得を試みた。
それだけに、それに対するこいしの返事は予想外だった。

「じゃあ、地霊殿に来てよ。地霊殿ならそんな事しなくていいんだから」
「…えっ?」
「お姉ちゃんにお願いすればどうにかなるよ、きっと!」

こいしはうまい打開策を見つけたとばかりに嬉々としていた。一方〇〇はまさかの提案に戸惑った。
本当に他の住民を説得して地霊殿で暮らせるならば、これは〇〇にとっても悪い話ではない。慧音に聞いて知っているが、どうせ地霊殿には妖怪しか居ないのだ、人里よりも居心地は良いかも知れない。
しかし、今の自分の仕事は誰がやるのだろうか?また半妖が流れ着くのを待つのだろうか?それまでどうやり過ごすのか?
〇〇が休養している間は妖怪の襲撃は無かったが、警備がいなくなると今度こそ村人が襲撃にあって本当に全滅しかねない。本格的に武装して対妖怪の為の戦闘訓練をすれば、まだどうにか対処できるかもしれないが…。

「いや、それは止めておこう…」
「どうして?」
「俺は食い物の好き嫌いが激しいし、地霊殿には俺の仕事も無いだろうしなあ」

とっさに口を出たでまかせだった。しかし、それでもこいしを悩ませるには十分だったようだ。

「うーん…」
「だから、俺はここに残って働く。これでもそこそこ俺は強いしな。」
「分かったよ〇〇。それじゃあ、今日は帰るね。」

〇〇は何とかこいしの説得に成功し、安堵した。

一方こいしは地霊殿に戻っていた。
「ねえ、お姉ちゃん。一つお願いがあるの。」
「何?お願いなんて珍しい…」
「新しくペットを飼いたいんだけど、いいかな?」
「余裕もあるし、危なくなければ構わないわ」
「じゃあ、今度連れてくるね!」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2015年10月11日 20:51