「〇〇さん、こんにちは」

刃を擦る音の中に少女の澄んだ声が混じる。こんなボロ屋にわざわざ来るのはあいつしかいない。

「何だ、また来たのか。これで何度目だ。」

銀色の髪にちょいと長めのボブカット。黒いリボンを付けて、腰に二振りの剣。
そして何より目が行くのはふわふわと浮いてる人魂。
彼女の名は、魂魄妖夢。

「はい。〇〇さんのお蔭で楼観剣は元通り。いえそれ以上に良くなりました。」

訳あってこいつの刀を鍛冶屋の俺が直したのだ。妖夢が言うようにかなり良く仕上がったと思う。だが終わったにも関わらず、毎日うちに来るのだ。

「だったらもういいだろ。来んな。只でさえ客なんか来ねえのに半人半霊が出入りしてるなんて知れたらどんな風評をくらうか………。」
「え……あ…あのそこまで迷惑でした…?」

妖夢は途端に顔を歪ませ、今にも泣き出しそうな様子だ。

「…おい。そんな顔すんな。ちょっと言い過ぎた。」
「じゃあまた来てもいいですよね?」

前言撤回。やっぱ来んな。

「何でそうなる…。話を戻すが、刀はもう直ったんだろう?何故未だ此処に来る。こんなボロの鍛冶屋に。」
「理由も無く来ちゃだめですか?」

理由も無く来てたのか……。




「だから俺が困るんだ!!」
「人間のお客は来ないんでしょう?でしたら私がたった一人のお客ですよ。」

こいつ…。太々しいな……。呆れて物も言えん。だがこいつしか客が居ないのも事実。

「はぁ………。じゃあなんか買ってけ。」
「ではこの脇差を一振り。」

おいおい。正気か!それ、かなり高値で吹っ掛けてある刀だぞ?お前程の達人なら大したもんじゃない事ぐらい分かるだろ!

「本気で買うのか!?」

「はい。買いますよ?…あ、そうだ忘れてました。お菓子持ってきたんですよ。一緒に食べましょ?」
「そうかい…。はぁ、調子狂うなぁ……。」

ほんと、見た目通りふわふわした奴だ。何考えてんのかよく分からん。

「ねぇ〇〇さん。」
「ん?何だ?」

「ここ最近は人里の周辺も妖怪があまり出ないそうですよ。偶には外に出て私と一緒にお散歩でもしませんか?」

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最終更新:2016年03月29日 21:13