天邪鬼の呪い

「なあ、○○、あんまり私みたいな妖怪に近づくんじゃないよ。」
どうして?と尋ねた僕に正邪は言った。

「妖怪は人を恐れさせる。妖怪の存在意義が成り立たなければ、
その妖怪は生きていけない。所詮、妖怪は人間を食い物にして
いるだけさ。」
焼き鳥屋にて日本酒を傾けながら、隣に座る僕にそう言った
彼女は、なんだかとても苦しそうに見えた。


 また、やってしまった。家で私は頭を抱えてしまった。○○を意識
すればするほど、自分の舌は○○を拒絶するような言葉を吐いてしまう。
いくらしないようにしても、そうなってしまう。天邪鬼の性とも言える
そのことは、私自身を深く傷付けていた。しかし妖怪である私には他の
生き方は出来ない。○○の好意を食いつぶしているだけのように感じ、
私はそんな自分を嫌っていた。
 

 僕の周りの里人が、急に僕を嫌ってきた。狭い村社会の中では、到底
村八分となっては生きていけない。困り果てていた僕に、正邪は唯一
まともに接してくれた。周りの人間が僕を嫌う中で、彼女は口では
僕を遠ざけようとするも、僕に接してくれる唯一の者であった。そんな
彼女に僕は依存してしまっていた。


 私は考えていた。○○を得るにはどうすれば良いかと。どうあがいても
私は○○を拒絶する言葉を言ってしまう。私から彼との距離を縮めることは
出来ない。しかし私に悪魔のような考えが降りてきた。私と○○の距離が
縮まらないのなら、○○と他の人の距離を広げればいい。コロンブスの
卵のような閃きが私に降りてきて、私はその誘惑に負けてしまった。
 もはや彼の周りの人間は全て、彼を嫌っている。彼の今まで築いて
いたものを壊してしまうのは、心苦しいものがあったが、心を鬼にして
私は彼への好意を反転させていった。他の人間が全て彼から離れた今、
私だけが彼の側に居られる。彼が頼れる人は私しか居なくなった今、
私だけが彼と共にいる。

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最終更新:2016年05月23日 22:53