地底にある人間と妖怪のの老夫婦がいた。もっとも、年老いていたのは夫だけであったが。
夫の方は、肺に岩が溜まっており、地上の医者にかかっていた。
病んで2年がたつと、すでにろれつが回らなくなり、痴呆が始まり妻に名前を聞くようなこともあった。
その翌年には、医者が目を離したすきに痰をのどに詰まらせあっけなくいってしまった。
妻は、夫が病に伏せっている間、毎日地底から通っていたが、夫が段々と変わり果てていく姿を顔色一つ変えずに見届けていった。
彼が、死んだと知らせを聞いたときは、彼の遺体を見に行かず、医者に火葬の願いを出して、遺骨だけを自宅に持って帰った。
その後、彼女は見舞いに行っていた時間、彼と出会う前にいつもいた橋の上で過ごすようになったが、周りから見ても彼女に異変はなかった。
それから、5年ほどたった頃彼女は橋から身を投げた。
検視の結果、彼女の胃には毒と骨粉が検出された。
葬儀の後、彼女の友人たちが彼女の遺品整理を行った。
彼女の部屋は、殺風景で整理が行き届いていたものの、箪笥の引き出しが一つ開かれ、
彼女の机の上には、夫妻の婚儀の時の写真が置かれていた。

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最終更新:2017年01月01日 21:31