1/2


最近、事故や怪我が元で死んでしまう兎が増えた。
永遠亭にいる兎達の死因は主に老衰、稀に行方不明。事故死などが起きだしたのは○○がここで生活するようになってから。
でも私は○○が原因とは思えなかったし、何か他の原因があるのではないかと思い、師匠の元に向かっている。
「失礼します。師匠、鈴仙です。」
師匠の部屋の前から声をかける、許可なく入って射ぬかれそうになったのはトラウマになっている。
「優曇華? ちょっと待って……いいわよ、入ってきなさい」
お許しが出たので襖を開ける、部屋には薬草や器具が散らばっていた。
「あれ、薬の調合中でした? 急ぐ用でもないので後にしましょうか?」
「いえ、ちょうど休もうと思ってた所だから……で、何かしら?」
「少々気になる事がありまして……最近、兎達の死亡事故が増えている件についてです」
そう言うと、師匠は腕を組んで遠くの方を見つめるようにして呟いた。
「……気にする事はないわ。姫が、そのお心を向ける対象が変わっただけの事だから」
「どういう……事ですか?」
「わからないの? 姫様にとって兎達よりも大切な者ができた、それだけよ」


理解できない、納得していないと態度で示してくる優曇華に用事を言いつけ、部屋から追い出す。
ぼうっと虚空を眺めていると、不意に襖が開いた。
開けたのはてゐ、その顔は普段見る事の無い無表情。
「……ねえ、永琳。契約は、どうなっている?」
「忘れたの? 私達が与えるのは智慧。違えた覚えはないのだけど」
私とてゐの間で大昔になされた契約。それに兎達の生死を保障する、という項はない。
しばらく沈黙が続き、遂にてゐが折れた。
「……そうだったね。あれは姫様の善意だったからなぁ……」
そう言ってため息を吐くと、肩を竦めた。
「お邪魔したね、お師匠様」
「そうね、ついでに用事を頼まれてくれないかしら……って居ないか」
てゐはさっさと逃げたようだ。しかし、これで兎達の不安も解消されるだろう。
優曇華はあてにならないが、地上の兎達を纏める立場にいるてゐは納得した。
頭が何も言わないなら下の者は何も言わないだろう、組織とはそういう物だ。
いや、そうあるのが正しいように思う"智慧"を与えた。
胡乱げな動作で首を回すと、中断していた調合をやり始めた。
不意に、想いが勝手に口から出ていた。
「わかっているわよ。でもこれは輝夜の"お願い"なのよ? 私が断るわけないでしょう?
 ああ、輝夜。可愛い可愛い私の輝夜。あの子の望みは私の望み。それを無碍にできる理由などないわ。
 あらゆる人倫、道理を捨ててでも彼女の"お願い"は叶えてきた。今回だってそう。
 私はあの子に頼られて傍にいれればいい。私が男だったら○○のような立場を望んだかもしれないけどね。
 それを邪魔する障害は……」
そこまで言って口を閉じた。誰に聞き耳を立てられているかわかったものじゃないもの。




2/2


「なあ、輝夜。まだ外には出ちゃいけないのか?」
俺に対する外出禁止令が出されて早二週間、いい加減飽きた。
ただ、好意を持っている輝夜が四六時中そばで相手してくれるのはありがたかった。
「まだ駄目よ、永琳が『いんふるえんざ』のワクチンがまだ出来ないから病原を外に出せないって」
クスクスと笑う彼女は美しかった。だが、いい加減この竹林も見飽きたのだ。
「だけどなぁ……もうこの景色も見飽きたぜ?」
「こんなにいい女性を見飽きたですって? ひどい人ねぇ」
目を細めながら相変わらず笑う輝夜は、不意に提案してきた。
「ねえ、賭け事しない? 永琳が薬を完成させるのに何日かかるか……
 敗者は勝者のお願いを一つ聞く事で、どう?」
「いいぜ、俺は三日に賭ける」
問われた輝夜は、ニヤリと口元を歪め、言った。
「そうね。後、二週間と言った所かしら?」


三日経ち、俺の負けが確定した為、俺は輝夜の"お願い"を聞いた。
内容は、ある"薬"を飲む事。
そういう経緯で俺の目の前には薬が置かれていた。
「……インフォームドコンセント、いや薬の説明は必須だと思うんだが」
「薬名、胡蝶夢丸ナイトメアPhantasm 効能はよりより悪夢を見せる、以上」
輝夜は手に持った紙を読み上げた後、俺に見せた。
「……つまり、死ねと?」
「死なないわよ……死なないわ、もう」
なんだ? 一瞬妙な気がしたが……まあ、いいか。
「退屈だったしな……少しは刺激的な夢でも見るさ」
そう言って俺はいっきに飲み干すと、すぐに意識が暗転した。


崩れ落ちた○○を抱きかかえたまま、輝夜はわらう。
「お馬鹿な殿方、その薬が本当はなんなのかも知らずに」
ああ面白い、本当に。笑みが広がるのを止められない。
「でも、もう遅いわ。あなたが目覚めたらその時は既に私達と同じ存在」
彼女が飲ませたのは胡蝶夢丸などではない、彼女が○○に飲ませたのは"蓬莱の薬"。
私が持つ『永遠と須臾を操る程度の能力』それを用いれば彼の心なんて、どうにでもなる。
愛しい愛しい彼はもう私の手から離れる事はない。
月の影から身を隠しつつ、この時の止まる場所で永久に愛してあげるわ。
「あと十一夜で満月よ。ああ○○……楽しみだわ、あなたもそうでしょう?」
そう言って輝夜は意識のない○○に口づけをした。


姫様が永遠亭にとって最良の未来を選んでいたのを止めて
○○の心象をいいものにしようとした結果が冒頭部分
実は後日談もあるんだけどバトル物になってたからうpしない

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年03月04日 01:01