無限ループ

「○○さん、私を付き合ってくれませんか。」
 鉢植えに植えてあるコスモスの花が紫色の綺麗な花を咲かせる頃、真剣な面持
ちで古明地さとりは僕にそう言った。彼女から大切な話があるとして呼び出され
たのだから、今までの彼女の僕への好意を考えると当然のことなのであろう。
そして僕は考えていた答えを彼女に言った。
「ごめん、古明地さん。貴方はいい人ですけれど、付き合えません。」
「え…。」
人の心が読める彼女にしては珍しく、予想だにしなかった答えに彼女は言葉を無
くしていた。
「嘘、ですよね…。」
「御免なさい。」
嘘であって欲しいとばかりに、彼女はの第三の眼は僕の心の奥底を深く深く探っ
ていく。そして、僕の心の中を全て読み取ったのだろう。
「い、嫌、ぁああああ!」
悲鳴を上げた古明地は爪を噛みながら小声で呟く。
「嘘、嘘、嘘、そんなことない。○○さんは私の彼氏、○○さんは私を愛してくれ
ている。そんなの嘘、嘘、嘘嘘ウソウソウソ…。」
なおも現実を認めない彼女の第三の眼を持つ。僕がキスでもしてくれると思ったのだ
ろうか、呆けた顔をしている彼女の眼を、僕の心臓に突きつけてやる。これでも食らえと
言わんばかりに。
「ああああぁぁぁぁ!!」
叫び声と共に眼から涙を流す彼女の姿が、不意に薄くなったかと思うと、僕の意識は
急に途切れた。


「○○さん、私と一緒に地霊殿で住みませんか。」
恋人のさとりは、病み上がりの僕が寝ているベットの枕元に座りながら、僕を気遣う
かのように言った。僕の私室に置いてあるさとりがくれたコスモスの花は、秋の訪れと
共に紫色の花を咲かせており、僕に季節の変化を感じさせていた。流行の風邪で汗をか
いたのであろうか、僕の服はすっかりと湿っておりすこし不快な感じがした。
 さとりは真剣な面持ちで僕に尋ねている。彼女の妹が時々している軽い思いつきではな
い、重い気持ちがひしひしと僕に伝わってきている。そして僕は彼女に対して本心で答えた。
「うーん、面倒臭いからいいや。なんかそういうの古いし。」
さとりは驚きの余り息を上手く吸い込めなかったのか、-ひゅ-と声にならないような
音を漏らし固まってしまっていた。この際だからと、僕は彼女に普段から思っていること
をぶちまける。
「なんか、さとりとの関係が面倒っていうか、もっと普通の関係がいいんだよね。なんて
いうか、重すぎるみたいな。」
「嘘、っですよね…。」
心が読める癖に、否定して欲しくてさとりは僕に問いかける。前にも見たようなデジャ
ビュの感覚に襲われながらも、僕は彼女を否定する。
「本当のホント。」
そして僕の意識は急に暗転した。


「○○さん、わ、私と、け、結婚してくれませんか…。」
緊張の余りであろうか、たどたどしくなっているさとりが僕に言った。普段は僕とさとりは
地霊殿で住んでいるのであるが、僕がかつての自室のベットに入っている分を見ると、恐らく
偶々自分の部屋に戻ったのであろう。酒でも飲み過ぎたのか、霞が掛かって思い出せない記憶
に軽く心の中で悪態を吐きながら、僕は体を起こす。窓を締め切ったさとりと二人っきり部屋
の中では、コスモスの花が紫色の花びらをふわりふわりと揺らしており、僕の無聊を慰めていた。
「は、流行病で○○さんが倒れてしまって、だから、結婚すれば、い、一緒にいられると
思って。」
普段の落ち着いた様子とは違い、テンパっているさとりであるが、突然のプロポーズ、それも
逆プロポーズとなれば、そういう物なのかも知れない。インフルエンザの高熱で汗をかいた
せいか、前がぐっしょりと濡れた上着を扇いで風を体に送り込みながら、僕はさとりに
無意識で返事をしようとした。
「い…」
-嫌だ-と言おうとして、口が固まってしまう。コスモスの花の辺りから、何やら強い視線に
射すくめられるような、心臓をナイフで刺される様な殺気を感じ、僕の口は生存本能に任せ
勝手なことを口走る。
「いっ、いいよ。」
-やってしまった-と本心でも無い事を言ってしまって舌の根も乾かないうちに早速後悔する
僕の耳に、さとりの声とは違う小さな声が聞こえた。
「良かったね、二度あることは三度ある、じゃなくって。それとも仏の顔も、の方かしら」

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最終更新:2017年01月16日 21:25