地底は陰気なところです。ソンナ陰気な場所の住人がより一層陰気になるのは必然でしょう…。
そこに現れた一縷の光明、私が唯一無条件に信頼できる存在……それこそが○○さんでした。

 彼が地霊殿に現れたのは、いつも通り陰鬱な午後に私が煙管を吹かしていたときでした。
モクモクと上っては消える煙をナントモナシに見ていると、ペットが急に私の部屋に侵入してきました。
リラックスタイムを邪魔されたんですから、多少はイラッとしましたが、主人としてそんな過敏な神経を露呈するわけにはいきません。
私は仕方なしにペットの心を読み取りました。

 ドウヤラ、ペットによると、地霊殿入り口付近に外来人の男が一人行き倒れているらしいのです。
私はその日、別に用事があるわけでもなかったので、暇つぶしにその哀れな男の顔を嘲笑しに行くことにしました。

 私はピンクのスリッパを脱いで、外履きに履き替えてから、ペットと共に外に出ました。
すると、ホントウに玄関のすぐ傍……というところに、外界特有の奇天烈な衣装をした男が倒れていました。
私は首を伸ばしてイッタン男の全身を一瞥して、次にマジマジとその男の顔を凝視していますと、ウッスラと男が目を開けました。

 ……私はあのときほど仰天したことはありません。そしてこれからも永遠にないでしょう……。
似ていたのです。瞳が。………その男の瞳孔が、私にソックリソノママ……瓜二つなんです。

 男の目は、世の中に心底ウンザリし疲れきった……そんな目をしてしまいました。

 私は妙にこの男に心を惹かれましたから、とりあえず介抱して、その淀んだ瞳の秘密を暴くことにしました。
ほんとにその時の心情は奇妙なものでしたので、明確に言い表すことはできませんが……キット、仲間が欲しかったんでしょう。

 私は男を医務室のベッドに寝かして、二言三言話を交わしました。幻想郷へ流れ着いた経緯や外界では何をしていたか……主にソンナ内容を。
男は私の推察通り、現世に疲労困憊しきった末、幾度の自殺未遂を繰り返した果てに此処に流れ着いたらしいのです。

 彼との対話は、摩訶不思議な中毒性を孕んでいました。
私は彼が回復するまで、毎晩毎日のように病室に向かい、薄暗い会話を繰り返しました。
人間の、生物の心というのは様々な多面性を帯びていて、コロコロ変わるもので、私はその変動が嫌で嫌で仕方がありませんでした。

 しかし彼にはソンナ心の上がり下がりが全くないのです。
彼の心にはピンからキリまで一定とした……薄暗い空気が纏っていたのです。

 気づいたときには、私の心は、彼の心に見事に食い破られ、侵食され、犯され、一切の自由が効かなくなっていました。

 私はチョットだけ悩んだ末、彼をこの地霊殿に定住させることにしました。
この考えには、彼も大賛成で、すぐさまyesの返事を貰えました。……ドウヤラ、彼も私との度々の会話で、私の思想にマッチしてくれていたようでした。

 さて、地霊殿の彼の働きぶりは、トテモステキに素晴らしいものでした。
彼は移住してタッタの一ヶ月で、旧地獄のアイドルと化しました。
彼はペット、妖怪、全てに分け隔てなく、笑顔で接していました。それが陰鬱な住民達の心をガッチリ掴んでしまったのでしょう。

 ……しかし、彼は本心から笑顔を「振り撒いていた」わけではありません。
彼の本心は地霊殿の住民に負けず劣らず捻くれていましたので、かなり疲れきっていました。

 次第に彼は、鬱と躁の二重が交差し、此処にきた時異常に悲観的になってしまいました。
その心を支えたのが……他でもない私でした。

 私は彼が疲労している時には進んで声をかけました部屋に向かって励ましのことばをかけてあげました愚痴も聞いてあげました時には哲学的な話も交わしました。
シダイシダイに彼も私も私が必要彼が必要と交錯し密着し依存し合いました彼には私の心がシッカリと理解できるようになりました。
私と彼は表裏一体二人で一つ同じ生物同じ人物のように溶けあい混ぜあいとろけました。
彼の心がドキンドキンと鳴ると私の心もドキンドキン鳴るのです……えへへ、えへへへへへへへ…………………………。

 私の心は彼と同様……私の瞳は彼と同じ色……。
ある晩、私は彼の寝床に忍び込み、無理やり刃物で心臓を突き刺しました。

 彼の血管は悉く破れ、そこから血がドクドクと脈打ち、鮮血がベッドも、私の心も真ッ赤に染め上げてしまいました。
……こう話しているだけで頭が狂ってしまいそうなんですから、その時の私の興奮具合はもう思い出すことさえできぬほどです。

 私はサード・アイのチューブを引き裂き、彼の心臓に突き刺しました。

私と彼の心は完全に繋がれたのです。

 彼は小さな声で言いました、
「ドウシテだ……さとり……ドウシテドウシテドウシテドウシテ……」
 私の心に彼の声が流れて来ました。
彼の血液がドクドク溢れる……そしてピクッ…ピクッ…と微動する……それが私の体にも微弱ながら、だからこそ大きな意味を持って感じられました。

 私はツイニ興奮の絶頂に達しました。

私はオモムロに、馬乗りになった状態で、彼の血液が付着した唇を奪いました。
私はまず舌を侵入させ、彼の舌にピッタリくっつくようにしました。彼が逃げよう逃げようとしてン――ッ、ン――ッとウネリ声を上げ、体を揺らします。
スルト……口の中でピチャピチャと血液と唾液が交じり合った音が、閑散とした部屋の静寂に寂しげに響きました。

…………………………その音が私のココロに流れ込んで来ました。同時に彼のオボロゲで消えそうなココロも共に…………………………。

私はあまりの変態性欲の絶頂のあまり、そのあとがどうなったか覚えていません。



 私が話せるのはここまでです。四季様。

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最終更新:2017年02月12日 14:14