警備団のけーねさんは言いました。
「あれは人食い妖怪だ」
この言葉に男はビックリしてしまいました。
「……人食い妖怪……ルーミアが?アンナ可愛らしい可憐な少女が?……冗談はやめてくださいよ」
「いいや、冗談なんかじゃない。奴らはどんな成りをしていようと妖怪なんだ」
「………まさか………」
けーねさんは、うつむく男を哀れそうに見ながら、厳粛な顔になって言いました。
「とにかく、命が惜しいのならば、彼女には一度も会わないことがいい。妖怪は仲良くしたとしてもケガをしないとは保障できない」


  ★

 俺は慧音さんの言及を受けて、今一度ルーミアに問うてみた。
……お前は人食い妖怪なのか……ドウナンダ……と。
するとルーミアは臆面もなく言った。
「うん、そうだよ。アナタの言うとおり。私は人食い妖怪だよ」

 俺はタチマチ動揺してしまった。
すると、ルーミアはそれを察したらしく、急いで補足を加えた。
「……そんなに怖がらないでよ……。……モチロンアナタは食べないよ……好きだもん」

 この言葉に少なからずホッとした俺は、ルーミアを悲しませてはすまないと思い、へらへらしながら言った。
「……ハハハ、そうだよな。大体人を食うのだって人間が家畜を食べるのとソンナに変わらないもんな」

 この回答に、ルーミアの表情はパアァ…っと明るくなった。
「わはっ……わはははー。わかってもらえて良かったのかー」


  ★

 ある日の時計の針が深夜の時間を指したころ、人食い妖怪が男の家のドアをドンドドンドンと力いっぱい叩きました。
男が驚きながら、ドアを開けると、人食い妖怪は小さい体と綺麗な金髪を震わせシクシク泣いていました。

 男がドウしたんだイッタイ……と聞くと、人食い妖怪はこう言いました。
「…………アナタがいなくてコワイの。コワくてコワくてしょうがないの……。
アナタと一緒にいないと、オカシクなってしまいそうなの…………。怖い……恐いよぉ……」
人食い妖怪はピッタリと男に抱きつきました。

 男は一旦事情を聞くためにくっついた人食い妖怪を離そうとしました。
しかし人食い妖怪は爪を立ててギリギリと力イッパイ男の肌と洋服を掴んでいるらしく、トテモ話せそうにありません。
しかたなく男は人食い妖怪を家に招き入れました。


  ★

 俺は、ルーミアをベッドに寝かして、泣き止むのを持った。
俺が安楽椅子に座りながら書物を読んでいると、次第にルーミアのススリ泣きは落ち着いてきた。

 俺は書物にしおりを挟んで、机の上に投げ出して、事情を聞こうとした。
すると、ルーミアはただコッチを見ながら手でベッドをポンポンと叩いている……ドウヤラ添い寝してほしいらしい。
俺は別に少女との添い寝ぐらいは何とも思わない性格だったので、ルーミアの頼みにしたがった。


  ★

 俺と同じ布団をかぶったルーミアは、俺の手をガッシリ掴んで離そうとせず、時々涙目で俺の体に頭を擦り付けたり、頬を摺り寄せたりした。
俺はこの様子に対してトテモ可笑しく感じた。
…………何が人食い妖怪だ……蓋を開けりゃタダの寂しがり屋な少女じゃあないか…………。

 俺が何があったのか聞くと、ルーミアはユックリ話し出した。


 ★

 ……何時からかな。……アナタがいないとトテモ不安になるの。
…………前までは、コンナことなかった。……ただ配給された人間を食べて、テキトウに暮らすだけだったから。
…ケド、アナタと出会って、私は変わっちゃった。
アナタは私に優しくしてくれた。……人を食べると知ってもなお、好いていてくれた。
だから、私もアナタのコトが好きになっちゃったの。
…でも、妖怪と人間は仲良くしちゃイケナイ。殊に私みたいな人食い妖怪は。

 ……よく説明できないけど、アナタがいないとき、宵闇を纏ってると、不安でしょうがなくなるの。
……アナタが突然私を恐れて、拒んで、去って行っちゃうんじゃないかって。

…………だから…………だから…………。


 ★

 ルーミアは、話しているうちに、またカタカタと震えだした。握られた手には汗が浮き出てきた。
「アナタに嫌われちゃったら……私もう生きていけない……生きていたくない……
…………だから…………イッショにいて……お願い………お願いだよぅ……」

 俺はルーミアの悲痛な訴えを聞いて、同情をせずにはいられなかった。
ルーミアが話終わると、俺はわしゃわしゃとルーミアの撫でた。
「……もちろんさ。ルーミアを見捨てることなんてゼッタイにしない、誓ってもいい」
これを聞いた刹那、ルーミアの震えは止まった。
「ホント…………?」
「あぁ、ホントさ」
ルーミアの顔が、ポッと赤くなった。
恥ずかしくなったのか、ルーミアはコッチに背を向け後ろを向いた。

「……わはっ……わははははっ……イッショ……ずっとイッショにいられる……………いてくれる………
 ……やった……やった……ずっと……ズットズット……」


 ★

 人食い妖怪と共に住み始めた男は、ある朝人食い妖怪と共に人里に買出しに行っていました。
人食い妖怪と男が喋りながら歩いていると、横からスッと、人里の女が入り込んで、男と人食い妖怪に挨拶をしました。
ドウヤラ男と女は顔なじみのようです。

 この女を見ると、男はタチマチ人食い妖怪そっちのけで長話をし始めました。
二人の会話を聞いて、人食い妖怪は時々ギリギリ歯軋りしながら女の方を睨んでいました。

 会話が終わって、女が去っていくと、人食い妖怪はすぐさま男に詰問を始めました。
「……ネェ、あの女の人誰なの?どういう関係なの?どうしてアンナ嬉しそうに話してたの?」
「……あぁ、そうだった。ルーミアには言ってなかったっけ……。
  あの女の人はね、俺の彼女さんなんだよ」

 人食い妖怪は思わず…えっ…と声を出しました。
そして不機嫌そうな顔を前面に表しました。
人食い妖怪は、スッカリ口を告ぐんでしまいました。

 この人食い妖怪の態度を、男は不思議に思いました。


 ★

 ある朝、男は自宅に彼女を連れてきました。
いずれは同棲を始めるので、その前に人食い妖怪と仲良くなってもらおうという算段からでした。

 男は二人を打ち解けさせるため、二人を家に残して、自分は買出しへ向かいました。


 ★

 買出しから帰ってきた俺は、家の中の有様に、思わず呆然としてシマッタ。
……彼女の服が部屋に散乱している……。
……至るところに鮮血が飛散している……。
……その鮮血がルーミアの口元にも付着している……。
「……ルッ……ルーミアッ…………!」
「……あ、おかえり○○ー」
「……ナッ……何があったんだこれは……」
「ナカナカ美味しかったよ、あの女の人」
…………俺は思わず仰天してしまった……。
「……ナンデ……ドウシテ……」

 ルーミアはニッコリ笑って話し出した。
「だって、いらないじゃん。○○には、私以外の彼女なんか」


 ★

 俺が憮然として佇んでいると、ルーミアは慌てて椅子から立ち上がった。
「あっ……こんなに散らかしてゴメンね……今拭くからネ……」
俺は、この一言に、風穴を開けられたようなポカーンとした心から、フツフツと怒りが湧き上がってくるのを感じた。
「ねぇ○○ー、雑巾ってどこに置いたっけー?」
「………ルなよ…」
「あっ……私の机にあった…。ゴメーン○○、気にしなくていいからねー」
「フザケルナッ…………!!」

 俺がルーミアを殴ったパンッ……という音が、空虚に響いた。


 ★

 俺はルーミアの、短い金髪を掴んで、それを引っ張って投げ倒した。
手には金髪の髪が6、7本ほど引っ付いた。
「……っ……○○……!?」
 
 俺は倒れたルーミアの腹を思いっきり蹴った。
「がっ……痛いよ○○っ……!やめ…」
「ウルセェウルセェウルセェウルセェウルセェウルセェウルセェウルセェ!!!
畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜畜生畜生畜生畜生生畜生畜生
畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生
畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生
こンの外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道
外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道
外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道
外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道……」

 俺は何度もルーミアを蹴った、殴った、掴んだ、投げた。
俺の拳にはルーミアうす赤い唇が切れた血が付いた。
殴る音の合間にルーミアの痛がるこえが聞こえた。
俺は殴り続けた。

「外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道
外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道
外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道外道……」


 ★

「あっ、○○。そこ段差あるから危ないよ」
「…………うん」

俺は、あの日以来、視力を失った。
反撃されたルーミアに目を潰されたのだ。

今や俺はコイツ無しには生きられない廃人になってしまった。
光なんかない。
ただ、深い宵闇が広がっているばかりだ。

今、思えば大人しく慧音さんの意見を聞くべきだったと悔やんでいるが、すべてはもう元には戻らない。

「……ゴメンね…目を潰しちゃって……でも、これで今度こそズットイッショだよね…」


 ★

「あっ、○○。そこ段差あるから危ないよ」
「…………うん」

俺は、あの日以来、視力を失った。
反撃されたルーミアに目を潰されたのだ。

今や俺はコイツ無しには生きられない廃人になってしまった。
光なんかない。
ただ、深い宵闇が広がっているばかりだ。

今、思えば大人しく慧音さんの意見を聞くべきだったと悔やんでいるが、すべてはもう元には戻らない。

「……ゴメンね…目を潰しちゃって……でも、これで今度こそズットイッショだよね…」

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最終更新:2017年02月12日 14:40