彼が好きだ。ここには彼が居るから好きだ。
彼がここで眠るから好きだ。彼の匂いがするから好きだ。

春に濡れる紫陽花の色合いが 夏にだけ住む向日葵が
秋の凍えるサザンカが    冬に咲く梅の香りが

そんな素敵と同じくらいの価値が詰まったこの部屋が、こうやってドアノブを回す瞬間が、
入って貴方の寝顔を見るのが、全て、全部、

好きだ。

 

「ねえ起きて」

枕元に肘を置いて語り掛ける。反応が無い事はわかっていた。

「起きたくない理由が外にあるなら」

「過ぎ去った貴方の過去なんて」

「今すぐぜんぶぶっ壊してあげるから」

誠心誠意 本気で語り掛ける。彼の目は開かない。いつも いつも。


「こんな方法しか知らない私を許してね」

「全部作り直してあげるから」

「そしたら凄いねって褒めてね」

それでも笑顔で続いている。他の誰かに見せる作ったものでは無い。
彼を思って話をすると自然に笑顔になる・・・彼の為だけの顔。

「ありがとうって 言ってね」

こうやって笑ってる時 私は幸せ。でもそれだけじゃ足りないの。
だから、貴方のこの笑顔も 少しでいいから 欲しいの。

ねえ起きて おねがい。

「嘘でもいいから」

おねがい





「・・・幽香、もうちょっと普通に起こせない?」

凄い勢いで目が覚めた。
声の調子がマジだった。アレは本気だった。

「よかった。寝坊するところだったのよ?」

その反応にわざとらしいところはなく、大真面目に俺が起きるのが嫌な理由が外にあると思っていたのだろう。
膝の上には俺が見やすいように「○○&ゆうかランド見取り図」が開かれてある。メルヘンな絵柄とは裏腹に
よく見ると細かい段取りが裏にびっしり書かれていてその用意周到さが恐怖に拍車をかけている。

「おはよう」

「ああ・・・おはよう」

文字通りに輝くような笑顔が、寝ぼけ眼には少し眩しいぐらいで
さっきまでの台詞は些細なものよ と彼女は笑っている。

「さあ起きて、今日は大事な日なんでしょう?」

「はーい」

俺の為にならなんでもすると言った。俺の為だけに尽くすとそうも言ってくれた。
異常な程の愛に目がくらみそうになる。だが自分の行動が本当に俺の益になるのかと不安になるのか、
必ずこうやって許可を求めに来る姿に愛おしさを感じてしまう。

「幽香」

「なあに?」

「ありがとう」

そんな気持ちが伝わったのか、ああ、彼女は 風見幽香は今日も満ち足りていた。

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最終更新:2017年04月08日 04:48