『ミキシング(入り混じり子)』

 ○○の娘を第二の弟子として永遠亭に迎え入れてから、随分と経
つ。彼女は大層美しい少女。私や、彼女を可愛がっている輝夜の贔
屓目無しでも、うどんげをはじめとした兎たちや、人里の者たちも
その器量を認めている。

 どうかすると、私と瓜二つとも言われる。しかし彼女は、○○が
私との間に為した子供ではない。彼には既に妻が居て、その女性と
こさえたのだ。

 ただし、彼女が私に似ているのは、単なる空似なんかじゃなくて、
本当に私の血が混じっているからというのはある。

 私は○○を愛していた。なのに彼は、私が近寄るより前に別の女
を娶ってしまった。その女に嫉妬していなかったと言えば嘘になる。
彼の眼差しの、その中で一番欲しかった眼差しを、あの女は一身に
受けていた。すぐ近くに居るのに手を伸ばせないもどかしさ、これ
に煩悶する私の気持ちなんて露知らず、女は○○の妻として彼の
そばに佇んでいた。

 そんな矢先に、好機が舞い降りてきた。

 何と、結婚してから二人の間に子供が出来ないのだと、○○と細君
が永遠亭を訪ねてきたので、検査してみたところ、細君の卵子に問題
があり、受精が出来ないのだという結果が。

 この結果が出た時、心臓がどきどきと喜び跳ねた。これが、私が
あの夫婦の間に付け入る糸口となるものだと。そうしてしばし考え
たのち、一つの策を思い付いた。

 二人に検査結果を宣告した時、卵子を復活させる治療の方法を告
げた。勿論二人はそれに飛び付いた。受けるかと私が訊けば、二人
して沸き立ちながら首肯し、受けますと口を揃えて言った。

 そこで私が告げたのが、細君の卵子を、私――八意永琳の卵子を
使って復活させるというものだった。これには二人も驚愕していた。
特に細君のほうは、――同じ男を好いた私だからこそ気付けたが――
僅かばかり○○以上に動揺していた。

 しかし二人はもう後戻りはしないと、私は確信していた。再び私
が、受けるかと訊くと、二人は気後れの様子を見せながらも承諾し
た。なればと私は、出来るだけ早く治療に取り掛かった。○○夫妻
の……妻のほうの気が変わらない内に。

 それで生まれてきたのは女の子だった。玉のように可愛い子……。
彼女を○○の妻の腹から取り上げた時、彼女は生命に満ち満ちた産声
を上げていた。――いつまでも見ていたい、――このまま攫ってしま
いたいという衝動を私は抑え付け、努めて穏やかな声音で○○の妻を
労って、娘を抱かせた。

 そして数年後。髪も伸びてきて、顔立ちもはっきりしてきた我が
子を見て○○夫妻は首を傾げた。どこか既視感を感じると思ったら、
私に似ているのだそうだ。それは至極当たり前、何せ彼女には私の
遺伝子が含まれているのだから。そう、私は治療の際、細君の卵子
を復活させるに当たって、私の遺伝子を細君の卵子に仕込んでいた
のだ。加えて、彼女の優性遺伝子をいくつか排除させてもらった。丸
ごと私の遺伝子で侵しても良かったのだが、生憎と子供に授乳する
のは細君のほう。母乳は、別の母親から貰っても問題は無いけど、
理想としては血の繋がった母親から飲むのが好ましい。故に、敢え
て彼女の遺伝子を適度に残した。

 これらの姦計をひた隠しにして、私は二人に、この手術は子供に
卵子提供者の遺伝子が混じることがあると説明し、また細君の遺伝子
はちゃんとあることも証明した。細君のほうは腑に落ちないという
顔をしていたが、元外の世界の人間だった○○はすぐさま納得し、
逆に興味深そうな様子を見ていた。

 さて、こうして私はうまうまと○○との子供を作り出した。自分
自身の腹を痛めて産んであげられなかったのは残念だったけど、私
にはもう一つ策があった。

 彼女を――○○の娘を弟子にして、立派な薬師に育てる。そうす
ることで私は、薬師としての娘を生み出したということになる。私
が、彼女を育てる。彼女の頭に、私のミームを……。

 次はどうしましょうか。この頃○○も歳を取った。でも私からす
れば、歳を取って渋みが出てきたというか、深みが増したというか。
細君のほうも同様――ただしこちらは女として劣化し始めている。

 そうよ、男は若い母体――即ち若い女を欲しがるのだから、○○
のあの女への未練が薄れた頃を見計らって――、そうすれば或いは
――。

『完』

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最終更新:2018年03月29日 02:21