古明地さとりのカウンセリング8

 おや、外来人の方がお一人とは珍しいですね。大丈夫ですよ、ここはカウンセリングをする場所ですから。それではそこの椅子に
座って下さいね。ええ、リラックスして、どうかあなたの悩みを話して下さいな。

 ほほう、好きな人を手に入れるために超能力を使ったが、後になってそれに罪悪感が生じて来た訳ですか。成る程、中々に苦しん
でおられる様ですね。さぞお辛い事でしょう。
 そうですね、私が見た所あなたは少々ご自身を責めすぎていませんか。私の様な妖怪からすれば、自分の力で道理をねじ曲げて
無理を通すなどというのは、日常茶飯事なことなのですがね。別に相手の人も不利益を被っていないのですから、結果は上々と言う
べきで、そこにやいのやいの突っ込みを入れることは、少々野暮というべきではないでしょうか。

 はあ、人間は違うと、成る程、それはそうなのかも知れませんね。人間であるという気持ちこそが、人間たらしめる要素である
ならば、その罪悪感こそが重要なのかもしれませんね。ですが、人間とは何なのでしょうか。別に哲学者の回答ではありませんの
で気楽に考えて頂いて結構なのですが、大体の妖怪は確かに正義感やら倫理感を、燃えるゴミの日に出してしまったような連中が
大半なのですが、しかし人間にもそういった禄でもない種類というのは、割と居るものなのですよ。
 そうですか、そういった人間もやはり、人でなしとされますか。成る程、確かに越えられない一線を越えるか否かというものは
人間が人間らしく有りたいと願うが故のものなのでしょうね。そしてあなたはそれを破ったが故に、自責で苦しんでいると。

 楽になりたいですか…? ええ、そうでしょうね、わざわざこのような地底の奥底まで来られたのですから、それは当然苦しか
ったのでしょう。藁にも縋りたくて此方に来られたのでしょうね。ですから取って置きのことを教えて差し上げますよ。

 なに、簡単な事です。あなたは自分を認めれば良いのですよ。私はこんなにも汚い、卑怯な手段を使う人間なんだって。そして
それでものうのうと、罰を受けずに生きているのだってね…。おや、お気に召しませんか。自分は妖怪ではないと、ええ、そうで
すね、あなたは妖怪ではありませんよ。しかし、妖怪と同じ様な汚い部分はお持ちですね。あなたがやったことは、全てあなたの
ものなのですよ。いくら悩んだ末とはいえ、あなたの中にもやはり私達妖怪と、同じ様な部分が隠れているのですよ。
 いくら後で後悔したとしても、懺悔をすることで、別に罪が軽くなる訳では無いのですよ。生憎キリスト教は幻想郷には入って
おりませんのでね。あなたの自責には意味がないということになりますねぇ。おや、それは拒絶されますか。こんな汚い部分は私
ではないと。成る程、ならば試しにやってみましょうか。それでは、実際に心を切り離してみましょうか。

 さあ、心を二つに分けてみましょう。あなたの精神から悪い心をねじり取ってしまいましょう。おや、痛いですか。それは当然
ですね。何せ心をとっているのですから。なに、暫くすればその内乖離が起こって、なにも感じれなくなりますよ。
 さて、心が分かれて麻痺してきましたね。どうですか、視界は見えるのに脳には何も入ってこない、私の声は聞こえるのに、何を
言っているのか分からない。全身の感覚が消えてしまいましたね。そして心の中で何か凄まじい衝動がわき起こってきましたね。
外の世界を感じられない筈なのに、あなたの心はぐちゃぐちゃになっていますよ。あなたが拒絶した心があなたに迫っているからな
のですよ。私を捨てるなってね。

 いかがでしたか。もう一度体験されますか。あら、残念ですね。さとり妖怪の面目躍如たるものだったのですが、そうですか、
それでは止めておきましょうか。どうですか、汚い部分も受け入れた自分は。何だか落ち着きますよね。良い部分と悪い部分の両
方が揃ってこそ、あなたのなのですよ。ですから、どんなに悪いあなただったとしても、あなたはそのままでいいのですよ。自分
を責めなくてもいいのですよ。幻想郷が全てを受け入れるように、あなたも全てを受け入れていいのですよ。

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最終更新:2017年07月03日 20:02