古明地さとりのカウンセリング11

 こんばんわ。地上では蒸し暑い日々ですが、この地底では過ごしやすい気温ですね。本日はどうされましたか。ほう、恋人にいつも浮気されると。うーむ、しかしあなたは嫉妬の妖怪なのですから、
そうなるのはある意味当然なのではと思いますが。ふむ、自分が嫉妬を操るのはいいが、自分が嫉妬するのは苦しいと。そうでしょうね。あの丑の刻参りに代表されるようなあの種の凄まじい怨念は
当然自分を犠牲にしているものなのですからね。ここは少しあなたの内面に入ってみましょうか。そうすればあなたがどうして浮気されるのかや、嫉妬に苦しむのかが良く分かりますからね。

 さて、あなたの心の奥底に入りましょう。あなたが鬼になったその日のことです。夜になって京は夜に包まれていますね。夫があなたを捨て、新しい妻を迎えた事をあなたが知ったあの日ですよ。
あなたは神社で神託を受け鉄輪をはめ、そこに松明を付けます。その姿は二本の角を生やした鬼の姿、爛々と燃えさかる松明はあなたは狂気を照らしているようです。そしてあなたは夜の町を走りま
す。激情にかられながら。手に持った包丁は自分の手に吸い付いて一緒に脈を打っているように跳ねていますね。自分を裏切った夫と、夫を自分から奪っていったあの女に復讐が出来ると思うと、あ
なたの口は歪んで笑い声が響きます。目指すはあなたの思い出に残る、あの家です。二人で過ごした幸せな記憶が残るあの家です。それを激情の炎で焼き尽くすためにあなたは走ります。
 そして夫の元に辿り着いたあなたは二人を殺して鬼に成りました。

 どうですか。あなたの心の奥底では今もこの物語が息づいているのですよ。あなたが受けた苦しみ、そしてそれを裏切った相手にぶつけて復讐をする時の快感、あなたの心はそれを求めて止まない
のですね。だからあなたはいつも恋人に浮気をされるのですよ。初めからあなたの元を去って行く様な人を無意識に選んでいるのですし、それに心の奥底では恋人を浮気させるように仕向けているの
ですからね。恋人を束縛して余計に嫌われているのに、かえって余計に拘束してしまうことを繰り返していませんか?いつも自分を卑下して恵まれた他人を嫉妬していませんか?あなたの無意識はそ
うすれば、自分から恋人が去って行くことを知っているのですね。そして恋人があなたを捨てようとすれば、待ってましたとばかりにあなたは牙を剥くのですから、いやはや、文屋のマッチポンプ顔
負けと言わんばかりですね。

 しかしあなたの心はそうまでして隠したい、目を背けたい物があるんですね。自分に価値が無い、その恐怖からあなたは必死に目を、ええ、文字通りに死を弄んでまで目を逸らしているのですよ。
あなたは自分に価値が無いことを恐れて、だからそれを立証しようとする恋人を殺して、相手に捨てられるなんていう自分に価値が無いと起こらない事、まあそれもあなたが勝手にそう思い込んでいる
だけの話なんですけれど、それを否定して、そして浮気される苦痛と嫉妬と復讐の怨念で自分の心を麻痺させて、恐怖を感じないようにしているんですよ。
 素晴らしいまでの努力ですね。無意識の専門家としては、敬意を払いたい位のものですね。でも残念、あなたが必死に避けているその恐怖は、目を背ければ返って大きくなるんですよ。恋人に振られ
る度に、あなたの精神は悪化していますね。無意識が恐怖を押さえ込むために、より過激な苦痛で心を紛らわせているからなんですよ。いやはや、努力が返って無意味になるとは、人生ああ無情という
やつなのかも知れませんね。まあ、ジャン=バルジャンは死ぬことで救われましたが、あなたは死んでも怨念になって余計に悪化しますからね。
 ここから抜け出す方法ですか?簡単な事ですよ。あなたが恐怖に直面すればいいのですよ。目を背けるから余計に怖くなるのですからね。でも、果たして「あなたが必死に目を背けたその恐怖に、
直面することが出来る」んでしょうかね?専門家として申し上げるならば、無意識は中々に強敵なのですよ。意識以上にね…。

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最終更新:2017年08月14日 08:30