「どうして彼女を殺したんだ。」
疑問では無く、断定。目の前の彼女を問い詰める。
直接的な証拠は無く、もっと言えば状況証拠すら無い。
彼女がそんなヘマをするとは思えない以上、ただ勘だけを頼りにさとりに向かい合う。
「○○さん。」
さとりの目が歪む。楽しそうに、愉快なように、第三の眼は僕からの敵意すら貪欲に貪る。
好意の反対は敵意ではなく無関心と人は言うのであれば、裏を返せば敵意すら好意になり得るのだろうか?
「ええ、そういうこともありますよ。」
僕の感情を読んださとりが言う。
哀れむように、慈しむように、天使のような笑顔に悪魔の心が宿らせ、彼女は独白をする。純粋に、た
だ僕の問いかけに答えるために。
「○○さんは優しすぎます。」
「友人の人がいくら大切だからといって、それを助けるのはあくまでも、おまけでしかありません。」
「そう、おまけのおまけ。世界で一番○○さんが大切なんですから、それで○○さん自身が危なくなっていては、元も子もないのですよ。
例えば、逆手に取られて脅されるなんてこと…。」
痛い所を付かれた。友人を助けようとしてノコノコ罠に飛び込んだ挙げ句に、
スマホで「証拠写真」を取られてしまっては返す言葉もない。
「まったく…。実は結構○○さんは危なかったんですからね。
あのまま放っておけば、○○さんの方が犯罪者として祭り上げられていたんですから。
それも…とびっきりの下衆野郎として。」
「だから殺したのか。」
「ええ、勿論です。」
-折角ですから、命乞いの悲鳴でも聞いておきますか?-と彼女は言う。
気楽におまけを付け足すように、なんの感慨も存在しないかのごとく。
彼女にとって全てのことは一か零なのであろう。只ひたすらに、彼女は自分の求めるものだけを追求する。
「人を殺して大丈夫とでも思っているのか。」
「うふふ…。」
袖で口を隠し、笑う彼女。僕が気に掛けてくれたから嬉しくなっている、
なんていうイカレた想定は、今回の場合に限っては、まだマシな方の想定である。
最悪の場合…。うるさい、うるさい、これ以上笑うな、笑うな…
「笑うな!」
「ハハハハ、残念でした。そっちの方ですよ。」
笑顔の奥で彼女の目が僕を捕らえる。
肉食獣が獲物に牙を突き立てるように、そして気道を締めてゆっくりと窒息死させるように。
見えないトラウマで彼女は僕の心を締め上げていく。
「記憶を操れば幾らでも、どうとでもなるのですよ。あんな連中は。」
既に何人が犠牲になったのか、それを知るのは悪魔のみである。
「ひどいですね、こんなに○○さんのために働いた私を悪魔呼ばわりなんて。
まあ、私は○○さん限定で心が広いですから、○○さんになら、何を言われても大丈夫ですよ。」
「記憶を、消してくれ…。」
余りにも酷い現状にこれ以上、耐えきれないと思った。
「だーめ、です。」
クルリと一回転し、僕に指を突きつけるさとり。
「私を受け入れてくれるのは、○○さんだけなんですからね。
私が○○さんの記憶を消したら、それじゃあ駄目なんですよ。意味がないんですよ。
そのままの私を○○さんに受けいれて貰いたいんですからね。だって、好きな人には、何だって認めて欲しいじゃないですか。」


 「ねえ、○○さん。だから、私と一緒にいて下さいね。何処までも…。」






感想

  • 依存が垣間見えるところが良い -- 名無しさん (2019-10-27 00:25:19)
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最終更新:2019年10月27日 00:25