4月1日、私が人里へと続く道を歩いていると、○○とばったり出会った。それ自体は珍しいことではない。
 この日の彼は奇妙なことを口走った。家の裏手から金貨が出てきたから、何か奢ってやろうと言うのだ。
私は彼の家に度々足を運んでいるが、私のダウジングロッドが反応したことはない。
もし本当に金貨が埋まっていたのであれば絶対に気がついたはずなのだ。
 これは噂に聞いたことのある四月馬鹿、エイプリルフールという奴だろう。
「君はそんな危うい嘘を不特定多数に喧伝するつもりだったのか?」
 ○○の面食らった表情を見て、予想が正しかったことを確信した。
「君が最初に話したのがこの人気のない場所で良かったよ。
 親しい人間にだけ言ったとしても、耳聡く聞きつけてくる人間が町中では現れてしまうものさ。
俺も俺もと奢らなければない相手がねずみ算式に増えていってしまうことが目に見えているーー」
 仕事に行かないと…と呟く○○をどやしつけてその場に正座させ、説教を垂れることにした。
彼の吐くつもりだった嘘は性根の悪い人間を引き寄せてしまいかねない。
 しかし、○○が私に冗談を言ってきたことに悪い気はしない。彼との関係が深まったようで嬉しかった。
 それに、この嘘はこれから私と○○だけの秘密になる。二人だけの秘密というのは甘美な響きだ。
それがどれだけしょうもない内容であっても。

 エイプリルフールの嘘をダシにして食事に誘いナズとの距離を深めようと思ったのだが、何故だかバレてしまった。
まあ、不自然な嘘ではあったし仕方ないことか。
 ここのところナズとはこの道でしょっちゅう顔を合わせているが、顔見知りや話し相手の域を出ていない。
この現状に俺は満足できていない。
 俺はナズのことを好いているし、ナズも俺のことを悪く思っていないだろう。
 一緒に食事でもして、あわよくば俺の家に誘えたら、なんて思っていたのだ、が、現実はそこまで甘くなかったようだ。








感想

  • ナズが○○に気付かれないように彼の家を特定してしばしば足を運んでいるという意味が分かるとヤンデレな話だったりする -- 名無しさん (2019-08-23 18:48:28)
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最終更新:2019年08月23日 18:48