側にいて

「はい、もう一歩、もう一歩、大丈夫ですよ。ゆっくりと、ゆっくりと、
はい、お家に着きましたよ。よく頑張りましたね、○○さん。」
地霊殿の周りを散歩する僕の肩を持ち、歩みに合わせて僕を支えるさとり。
道行く通行人といった普通の人(或いは妖怪)からすれば、
献身的に僕に尽くすように見えるのであるが、それが偽りであることを知る者は少ない。
トラウマを植え付け、精神に異常をきたさせることにより、
今の僕はさとりが居なければ外を出歩くことすら出来なくなっていた。
自分のために相手を踏みにじり、徹底的に支配する。
全てを彼女に握られている僕は、人形師によって操られるマリオネットのように、さとりによって操られていた。
 玄関で荒く息をつく僕を満足そうに眺めるさとり。
彼女の心が歪んだ独占欲で埋め尽くされていることは、心が読めない僕にも分かる
ことであった。
「うふふ…。」
丁寧に僕のほほを撫でる彼女。
第三の眼によって心が鷲づかみにされ、ザラザラと削れていく音が聞こえた。
ふと良い事を思いついたかのようにさとりが言う。
「○○さん、食べ物や飲み物って、案外溢しやすいんですよ。
○○さんも注意しないと、ちゃんと口に入れることが出来ないですからね。
あと、無理に口に突っ込んではいけませんよ。きっと気管に詰まってしまって咽せてしまうか…」
僕の顔を自分の方向に少し寄せ、目を覗き込みながら彼女は言う。
「息が詰まってしまうかもしれませんからね。」
ああ、最早僕に残されているのは息をすることだけなのかもしれない。
そんな絶望に濡れた僕の心を彼女は読む。
「大丈夫ですよ。それは「まだ」しませんから。」
その時はそう遠くないような、そんな予感がした。






感想

名前:
コメント:




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2018年06月29日 21:10