目次
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「――早苗、どこ? 一人にしないで……」
寂しくて、心細くて、僕は早苗を探し回る。
しばらく歩いていると、神奈子様に会った。ちょうどいい。
「あの、神奈子様。早苗がどこに行ったか御存知ないですか?」
「早苗? あの子なら博麗の巫女の所に出てるよ。まあ、宴会の打ち合わせなんかじゃないの?
聞いてなかったのかい?」
不思議そうに首を傾げる神奈子様。それも道理だろう。
僕自身、早苗が何も言わずに出かけたことが未だに信じられない。
悲しい、寂しい、苦しい、怖い。
嫌だ、早苗、何で。
いつも僕に断ってから出かけてたのに。
体が震えてくる。
歯もカチカチと鳴ってしまう。
心が冷え切ってくる。
「……○○、顔が真っ青だよ。早苗なら直ぐに帰ってくるさ。早苗があんたを放り出す訳が無いんだから。
それより、あんたがそんな顔してたら、早苗に心配かけるよ?」
……神奈子様の仰ることも尤もだ。
早苗が僕を見捨てるわけがない。ずっと前に言っていたじゃないか。
かつて、とあることで絶望していた僕に言ったのだ。
『心配しないで、○○さん。絶対に直してみせます。私はコレでも現人神ですよ?
神奈子様と諏訪子様もおられますしね。それに――』
その言葉に、僕はどれだけ救われたか。
『――ずっと護りますから。あらゆる事から○○さんを』
男として情けないとか、女々しいとか、色々と意見はあるだろう。
しかし、僕は早苗に縋った。縋ってしまった。
心が壊れそうだった。そこに救いをくれたのが早苗だったのだ。
それから、早苗は僕を洩矢神社に置いてくれて、僕の心の支えになってくれた。
ひどく当たり散らしてしまったこともある。
それでも早苗は僕を見放さず、献身的に世話をしてくれた。
陳腐な表現だが、女神の様だと思った。
尤も、早苗は現人神なので、本物の女神であるのだろうが。
「ほら○○、もう部屋で休んでな。あんたのことに限っては、早苗は本当に心配症なんだから」
神奈子様が心配そうに言うので、部屋に戻ることにした。
早苗がいないのは悲しいが、それで体調を崩せば早苗に心配をかけてしまう。
早苗、まだかな……。
忙しなく、10分毎くらいに外界の産物の腕時計を見る。
幻想郷の空は、くっきりと澄み渡っている。
それでも、隣に早苗がいなければ、こうまで味気ないものなのか――。
今ここにはいない早苗のことを想い、寂しさから溜め息を吐いた。
〈後書き〉
いわゆるプロローグです。○○の、早苗に対する依存の深さを感じてくだされば幸いです。
なぜ○○がこうなったのか? それはまた次回に。
『早苗さんの策謀&病み劇場』、開幕です。
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すいすいと、この青い空を泳ぐように飛びます。とてもいい気持に……。
――っと、いけませんいけません。のんびりしてはいられないんでした。
私、東風谷早苗は現在、帰宅を急いでいます。
何時もは○○君に告げてから外出するのですが、今日は急な呼び出しだったため、
ついうっかり言わずに出てきてしまったのです。
らしくないミスをしてしまいました。
○○君はとても寂しがり屋です。それこそ、永遠亭の兎さんともいい勝負でしょう。
神社には神奈子様も諏訪子様も居られますが、こればかりはお二人といえど、私の代わりは出来ません。
私と○○君は、世間一般で言う『恋人同士』ですからね♪
ふふっ、やっぱりいい響きですよねぇ~。
彼は私を必要としてくれて、私も彼を必要とする。
恋人ならそんなの当たり前?
私たちは上辺だけの関係とは違いますからねー♪
私は○○君のいない世界なんて興味はないんです。
○○君にも、以前に冗談で『私が居なくなっちゃったらどうします?』って訊いてみたんですけど――。
訊いたことをこちらが後悔するくらいうろたえ、悪い所があれば直すから、と必死に縋ってきたんです。
私が居なくなってしまうと勘違いしたのでしょう。
私が○○君を見捨てるわけがありませんからね。
すぐに冗談ですよと言ったんですが、その時の瞳は忘れられません。
私しか映っていない、私だけを移すその瞳――。
どうです? まさに二人だけの世界です。
そう、私たちは二人で一人。
世界の半分は○○君で出来ていて、もう半分は私です。
他には何も要らない。○○君がいれば、他には何も――。
ほう、と息を吐き、私はこれまでの事を思い出していた。
私が○○君と初めて出会ったのは、幻想郷に来てからではなく、外界の学校でした。
目立たないし大人しく、本ばかり読んでいる地味な人、というのが第一印象でした。
言葉を交わすこともあまりなく、ただのその他大勢の人で終わる可能性もあったでしょう。
それが変わったのが、あるお正月でした。
○○君が家の神社に初詣に来たのですが、その折に挨拶を受けたんです。
普通にクラスメイトにするような挨拶だったのですが、ちょうどその時に諏訪子様が私に声をかけて、うっかり返事をしてしまったんです。
はたから見れば、何もない空間に話しているようにしか見えません。
どう誤魔化そうかと必死に考えていると、東風谷さんも見えるの? と、○○君は諏訪子様の姿をしっかり捉えていたんです。
驚いたのは私と諏訪子様でした。
諏訪子様は土着神の頂点に立つような力の持ち主です。多少霊視が出来る程度では、とても視認できません。
訊いてみると、○○君は物心ついた時にはすでに霊的な事象が見えていたそうです。霊と話すことさえ出来たと。
しかし、それは周囲からすれば奇異にしか映らなかったそうです。
何もない空間に話しかける我が子――。
まず、親に気味悪がられたそうです。嘘じゃないと訴えても、軽く流されてしまう。
取り合ってくれない親に早々に見切りをつけた○○君は、一番の友達に話したそうです。
しかし、やはりと言うべきか、子どもというものは自分達と異なるものは、受け入れません。
そしてそこには、子どもゆえの残酷さも含まれます。
○○君は周囲から仲間はずれにされたそうです。お前は嘘吐きだ、と言われて。
それでも見えると訴える○○君は、ついには両親に叱られたそうです。
誰も信じてくれない――。
そう結論付けた○○君は、周囲との付き合いを最低限にし、一人でいるようになったそうです。
私は黙って聞いていました。
たぶん今まで誰にも話していない事だったのでしょう。学校で見る○○君からは考えられないくらい饒舌でした。
それに、その話は私にも通ずるモノがありました。
私はこの家系に生まれ、そういう霊的なモノは物心つく前から当たり前にあったものでした。
家族も当然、私のことを奇異な目で見たりしませんし、神奈子様も諏訪子様もいて、そんな日常が当たり前でした。
外でも、最初はおかしな顔をされてしまいますが、私の出自を聞くとあからさまに馬鹿にするような態度はされなくなりました。
それでも、透けて見えるものはあったので、面白くありませんでしたが。
私は信じてくれる人が周りにいるだけ幸せだったんだな、ということに気付かされました。
話していた○○君は、はっとして黙り込んでしましました。いきなりこんな重い話を聞かせてごめん、と。
全然迷惑には思っていませんでしたし、一緒に聞いていた諏訪子様も首を横に振っていました。
○○君は明らかにホッとしたようでした。幼いころにそんな思いをしたのなら、その反応も当然でしょう。
その後も私と○○君の交流は続きました。
神奈子様にも○○君を紹介しましたが、やはり驚いておられました。幻想の力の薄い外界では、神様を視認できる人などそうそういませんしね。
○○君は、神奈子様と諏訪子様のお眼鏡にも適って、とても気に入られました。
神を奉ずる家系に生まれなかったにも関わらず、○○君の態度が適切なものだったからでしょう。
非日常(私と○○君にとっては普通ですが)を共有していたからか、私と○○君の距離は非常に近いものとなりました。
きっとその頃から、無意識下では思っていたのでしょう。ずっと一緒にいたい、と。
楽しい時はあっという間に過ぎ、私たちは幻想郷に旅立つことになりました。
しかし、頭では仕方ないと理解していても、心は悲鳴を上げていました。
旅立てば、○○君に会えなくなることは明白です。この時の私は、もう完全に○○君のことを好きになっていました。
悩みに悩んだ私は、○○君はこの世界は嫌いだと言っていたし、いっそのこと一緒に行ってしまえば……とさえ考えました。
そして、そんな事を考えてしまった自分を酷く嫌悪しました。
○○君が言っていた事は本当だけど、私たちは別の世界に行くのです。
○○君を連れて行きたいなど、とても許されません。彼に全てを捨てさせる権利なんて、私にあるわけがない、と。
ひどい顔をしていたのでしょう。神奈子様も諏訪子様も、心配そうにしていました。
おそらく、私が何を悩んでいるかもお見通しだったと思います。生まれてからずっと一緒にだったのですから、それも当然でしょうが。
そして旅立ちの日、私は自分の手で、○○君の記憶を消すことを決断しました。
向こうに行ってしまえば、この世界から私たちの痕跡の一切が消えうせるため、いちいちやらなくてもいい事ではありましたが、
私としては、○○君だけは自分の手で記憶を消したいというのが、悩んだ末の答えでした。
公園に○○君を呼び出して、術をかけました。術をかけられる瞬間まで、○○君は笑っていました。私の大好きな笑顔で。
崩れ落ちた○○君をベンチに寝かせ、私はその場を後にしました。振り切るように、全速力で。
途中で息が切れたとき、どうしようもなく悲しくなり、止め処なく涙が溢れてきました。夜で人通りがなかったのは幸いだったのでしょう。
泣きたくなるほど人を好きになるなんて、以前の私からは考えられませんでした。そんな物は話の中だけのことだ、と。
もう○○君の事しか頭に浮かびませんでした。
私と話をして笑顔を見せてくれた○○君――
神奈子様にからかわれて困った顔をしていた○○君――
諏訪子様に引っ張り回されてクタクタになっていた○○君――
もっと、もっと一緒にいたかった……!
もっと、もっと○○君の事、知りたかった……!
もっと、もっと私の事も知ってほしかったのに……!
だけど、結局想いを伝えることもできなくて。
悩むばかりで行動に移すこともできず、挙句、私がしたことは彼の記憶を奪うことのみでした。
こんな酷い女は、彼に忘れられた方がいい――
そんな考えに落ち着いた私は、神社に着いた後、痛ましい表情の神奈子様と諏訪子様に出来る限り平気に見える顔で、事の次第を告げました。
お二人はしばらく黙っていましたが、早苗が決めたことなら私たちはそれを支持する、と言って下さいました。
やはり、神奈子様と諏訪子様には全てお見通しだったのでしょう。お二人の心遣いに感謝しました。
かくして、私たちは幻想郷へ旅立ちました。
新天地ではやることも多く、忙殺される毎日でしたが、私にとってはむしろ救いでした。
暇になると○○君のことが浮かんでしまい、やり場のない悲しみを持て余すことになるのです。
それでも、悲しみというものは時と共に薄れるものです。
行き違いから私たちが騒ぎを起こしてしまい、霊夢さん達にコテンパンにされたりするうちに、
多少は落ち着いて○○君の事を考えられるようになっていました。
神奈子様と諏訪子様にはずいぶん心配をかけたことだし、もうしっかりしないと――
そう考えていた矢先の出来事でした。
この幻想郷で――
妖怪に襲われている――
○○君を見かけたのは――
続く……
〈後書き〉
続きます、ゴメンナサイ……。
ヤンの成分が冒頭に少ししかないですね(汗)。
でも、早苗が○○を好きになる過程はどうしても書きたかったので、平にご容赦を。
さて、ついに幻想郷にやってきた○○。
吹っ切れかけていた早苗は○○と再会し、もはや想いを止められない。
どうなるどうなる二人の顛末!?
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信じられないモノを見ると、何も考えられなくなるって本当なんですよ?
再会したあの日、あの瞬間の私は、まさにそんな感じだったんですから――
人里に用事があった私はその帰り、妖怪に襲われている人を見かけました。
必死に走って逃げているその人は、里の人たちとは違った、外界の人たちが着るような洋服を着ていました。
しかし、どうにもその服には見覚えがあったんです。
目を凝らしてよく見てみると――
その瞬間の私は、頭が真っ白になっていたのでしょう。
それでも、体はその瞬間から動いていたみたいですが。
○○君……?
○○君……。
○○君――!!
私は全速力でその場に向かい、○○君に手を出そうとしていたその妖怪を滅しました。
妖怪の体はバラバラに風化していきました。
その近くで、木に背中を預けていた○○君は、呆然としてこちらを見ていました。
お互いに言葉が出ませんでした。
○○君は口をパクパクさせるばかりで、これ以上ないくらいに混乱しているようでした。この幻想郷にいきなり来てしまったとすれば、無理もない反応です。
私は私で、ただただ○○君のことを見つめていました。
伝えたいこと、謝りたいことは星の数ほどあるのに、上手く言葉にできませんでした。
でも、考えているうちに体は自然と動いていました。
私は○○君に抱きついていました。彼の名前を呼びながら。
私はもう、考えるのを止めていたのでしょう。
愛おしくて愛おしくて、仕方がありませんでした。
私はその時に、初めて気がつきました。
ああ、私は○○君のことが好きだったんじゃなかったんだな――
○○君のこと、愛してたんだ――
○○君も落ち着いてきたようで、私に抱きしめられてあたふたしながらも、ここが何処なのか訊いてきました。
抱きついていては説明できないので、私は残念に思いながらも離れました。
一通り、幻想郷についての説明が済むと、今度は私から○○君に尋ねていました。
何をしていたらこの世界に来てしまったのか、ということです。
私としては、彼がここにいるということだけが大切なのですが、外界での彼の事も聞いておきたかったのです。
あの別れの日、○○君はあの後しばらくして目が覚めたそうです。
なぜこんな時間に公園にいるのか訳が分からなかったそうですが、そのまま帰宅したそうです。
それからしばらくは、何か違和感を感じながらも普通に過ごしていたそうです。
ただ、いよいよその違和感に我慢がならなくなり、自分で調査をしてみることにしたそうです。
手始めに、街の中を歩いてみることにしたそうです。自分でも行き当たりばったりだと思ったそうですが、学生に取れる手段などこんなモノしかないと諦めたそうです。
調査といっても街中を歩いて回るだけ。それに、その調査したいものというのは『違和感』という、何とも漠然としたもの。
○○君も何かが分かるとは思っていなかったそうです。
そして、しばらく経ったある日、○○君は神社の方に足を伸ばしたそうです。本当に何となくだったそうです。
境内に入り、しばらくぼうっとしていたそうですが、初めて来るはずの場所なのに何故かそうは感じなかったそうです。
気になった○○君は神社の中を歩いてみたそうです。
すると、唐突にフラッシュバックが走ったといいます。
会った事の無い筈の、3人の女の人と話す自分の姿――
しばらく蹲っていた○○君は、そこで全てを思い出したそうです。
次の日には、学校で先生に私のことを訊いてみたそうです。しかし――
東風谷早苗という生徒は、いない。また、過去の卒業生にいたこともない。
それが分かっただけだったそうです。
愕然とした○○君は、今度は役所に行ってみたそうです。
そしてうちの神社のことを訊いてみても、私の存在だけが消えている、といった具合だったそうです。
失意の○○君は、無意識に神社まで来ていたそうです。
境内に入り、呆然と辺りを見回し、そしてようやく神奈子様たちの気配が消え失せているのに気がついたと。
そして、私たちがこの世界から居なくなっていることを、ようやく認識できたそうです。
何も考えられず、○○君は帰宅したそうです。
それからしばらくは、神社に入り浸る日々が続いたそうです。暇な日には、殆ど神社に居たといいます。
そしてしばらくしたある日、○○君は私が掃除に使っていた箒を見つけたそうです。
私たちの一切の痕跡が消えていたため、見つけたのは本当に偶然だったそうです。
神奈子様と諏訪子様、そして私の気がかすかに残っていたその箒。
それを持ったまま呆然としていると、楽しかった日々の記憶が蘇り、涙が止まらなくなったと。
また会いたいと、会えるなら、その為ならこんな世界に未練なんてないと、そう願ったと。
叶うはずもないと思いつつも、願わずにはいられなかったと。○○君はそう言いました。
そして、それからすぐ、ザアッと一陣の風が吹き、目の前が真っ白になったか思うと――
知らない森の中にいた、ということだそうです。
○○君は照れたように彼方此方に視線を彷徨わせていました。顔も赤くなっていました。
もっとも、私もいい勝負だったと思いますけど。
また私は○○君に抱きついていました。想いが溢れて止まらなかったんです。
○○君の話を聞いて、○○君も私のことを……? と思ってしまうのは仕方のないことですよね?
どちらともなく、自然と私たちは見つめあっていました。私は期待するような眼をしていたと思います。
やがて○○君が、早苗、と私の名前を呼びました。初めて呼び捨てにされた私は、心を躍らせました。
そして――
好きなんだ、と。これからもずっと一緒にいたいんだ、と。
何度も夢見たその言葉を、私にくれました。
私たちの影は、自然と重なりました。
もう離れません。今まで離れていた分も、ずっと一緒だと。
違う世界という壁で隔てられても、私たちはまた会うことが出来たんですから。
何物も、私たちを阻むことはできません――
手をつないで神社に帰ってきた私たちを、神奈子様と諏訪子様が出迎えて下さいました。
しかし、お二人は○○君がいることに驚いていません。
気になったので訊いてみると、驚きの事実が発覚しました。
あの箒を残していったのは、なんとお二人だったそうです。
なぜそんな事をしたのか訊いてみると、バツが悪そうに答えてくださいました。
早苗が○○に惚れているのは最早明白だが、私たちは幻想郷に行かなければならない。
自分たちの力で○○をさらって、無理やり連れていくこともできるが、早苗がそんな事を望むとも思えない。
結局は早苗に○○の事を諦めさせることになってしまうが、それでは余りに不憫だと。
そして、これを解決するために、一寸した試練――というか、もはや賭けに近い方法を思いついた。
消された記憶を取り戻し、私たちのことをはっきりと思い出して、
その上であの箒を見つけ、そして心から早苗に会いたいと○○が願えば、こちらに来られるような細工を箒に施すことにした、と。
その話を聞いて、私は涙を流してお二人に感謝しました。
お二人は、私たちが早苗の幸せを願うのは当然じゃないか、と仰いましたが、その心遣いで、また○○君と出会えたのです。
お二人は○○君に近寄り、
全く、大したもんだよ。世界まで越えるなんて――
そこは○○の早苗への愛情の深さだよねー、神に引き裂かれた二人の男女が再びめぐり合う、なんてさ――
おいおい、それじゃ私らがまるっきり悪者じゃないか――
実際そうじゃない? でもいいよねー、早苗もさ。女として最高の幸せだよ、ここまで想ってくれる男がいるなんて――
まあ、それは言えてるね。いい男には、神も人間も関係ないのかねぇ――
本当にねー。ということで○○、早苗を絶対幸せにしてあげてよ? じゃないと――
神様二柱で祟るからね?――
○○君は確りと頷き、約束します、と言いました。
神奈子様も諏訪子様もニコリとして、それからは外界に居た時のように話し始めました。
あの時と同じように神奈子様がからかい――
あの時と同じように諏訪子様が引っ張り回すその光景――
私は、最高の幸せ者です――
それからしばらく経って、○○君も幻想郷に慣れてきた頃――
ある事がありました――
皆さん知っているでしょうけど、念のため、もう一度言っておきましょうか――
私は○○君のものです――
○○君のためなら全てを捧げられます――
○○君も私のものです――
神奈子様や諏訪子様ならともかく、それ以外の人が軽々しく接していいはずないんです――
だ か ら
○○君に手を出そうとした人には――
すこーし『お灸』をすえちゃいましたけど――
それも仕方のないことですよね――?
え――?
その話、興味あるんですか――?
へぇ、そうですか。なら仕方ありませんね――
では私、東風谷早苗の講談会――
は
じ
ま
り
は
じ
ま
り
続く……
〈後書き〉
今度は病み成分が終わりに少し……(汗)
全体に渡って病みを期待していた方々、拍子抜けさせてしまってすみません。
いきなり病みバリバリで書いてもいいのでしょうが、やはり病む下地って大事だと思うんです。
今回は、想いを伝えあった二人でした。
これでもう、早苗さんの○○好き好きメーターは、いつ振りきれてもおかしくありません(笑)。
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再び出会った二人――
しかし、早苗の○○への愛は常軌を逸し始める――
『――あはっ、やっとわかりましたよ。
この幻想郷では――
常 識 に
囚われては
いけないんですね――♪』
――愛している女は、男から愛されていないのではないかといつも恐れている――
こんな言葉を知っていますか?
なるほど、人間、というか女性の心理をうまく表現してるなと、私も思っていました。
思っていたのは過去ですよ? 今はそんなこと微塵も心に浮かびませんしね。
お互い信じていれば、怖いものなんて何もないんですから!
障害なんて、何ほどのモノじゃありませんとも!
障害なんて――
障害なんて――!
邪魔なものは、すべて取り除くんです!
誰にも私たちの邪魔はさせません!!
それなのに――
それなのに――!
何デ私タチノ幸セヲ壊ソウトスル人ガイルノ――?
詰マラナイ人ガイルンデスネ――
本当ニ哀レナ、イケナイ人デス――
人ノモノヲ盗ッタラ泥棒ナンデスヨ――?
泥棒ニハオ仕置キガ必要デスネ――
トイウ訳デ――
障害ハ――
排除シチャイマス――♪
あはははははははははははははは――!!
人の恋路を邪魔する奴は、という諺を知らなかったんでしょうかね?
まあ、知らなくても許しませんでしたけど♪
それにしても○○君、こちらの人たちには矢鱈と好かれやすいんですよね。
はじめから幻想郷にいたと言っても、全然自然な雰囲気ですし。
でも、このままだと○○君、悪い虫に食い物にされちゃいます。
○○君は傷つきやすいんです。そんなのは完全に却下です。私も神様も許しません。
ですから――
私が大切に、大切に、愛情いっぱい注いであげるんです。
それが私たち二人のため――
そう、私たちは二人で一人――
私のすべては貴方のために――
貴方のすべても私のために――
どちらが欠けても、生きていけない――
○○君もそうでしょう――?
貴方のためなら私、何を捨てても惜しくはないんです――
常識に縛られた生き方も、何でも、なーんでも――!!
貴方は私の生きる理由
貴方は私の存在理由
貴方のいない世界なんてゴミ同然
貴方がいるから私も生きてる
好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、
すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、
スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、スキ、
愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる。
○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、
○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、
○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、
○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君、○○君。
だーい好き!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
○○君、どうしたんですか? そんなに落ち込んで。
人里の知り合いが亡くなった?
ああ、もしかしてあの人ですか?
何でも、はるか遠方での弾幕ごっこの流れ弾が『運悪く』命中してしまい、それ自体に殺傷能力は無かったからよかったものの、
当たった弾の勢いまでは殺しきれなくて転んでしまって、それが原因でまたさらに『運悪く』頭を打ち付けて亡くなったあの人ですか?
そうですか、知り合いだったんですね……。
あの、○○君。これから言うこと、落ち着いて聞いて下さいね?
非常に言いにくいんですけど……、そのお知り合いの方が亡くなったの、○○君の、とある霊的体質の可能性が高いんです。
鍵山雛さん、御存知ですよね? そう、この山にいらっしゃる厄神様です。
○○君の体質は、その厄神様の性質と変わらないんです。そう、周囲の厄をため込んでしまうんです。○○君には影響無いんですけど……。
……その通りです。体の周囲にため込んでいた厄を、そのご友人にうつしてしまったんです。
その結果、まるで普通では考えられないような不運で亡くなられた、というわけです……。
……○○君、どこに行くんですか?
止めてください! 死ぬ気ですか!? そんな事をしてどうなるっていうんです!
貴方は人殺しなんかじゃない! 私もこの事件のことがあるまで知らなかったんです! 神奈子様や諏訪子様だって御存知なかったはずです!
故意じゃないとはいえ、人を死なせてしまったのは事実? だから○○君も後を追うと?
――ふざけないで下さい!!
○○君が死んだら、また悲しむ人たちが増えるんですよ!?
人里の仲のいい人たち、神奈子様と諏訪子様、それに――私。他にも心当たりはあるでしょう!?
そんなこと、絶対に駄目です!
それに、諦めるのは早いですよ。
体質改善のための心当たりがあるんです。私が対策も無しにこんな、○○君を追い詰める様な事をいうわけないでしょう?
それで、方法なんですけど……。
十年間、うちの神社から一歩も出ないでもらいたいんです。
神社の中を歩き回るのは構わないんですけど、外に出てはだめなんです。
とてもつらいと思いますけど、厄を落としきって、体質を解消するためなんです。
分かってもらえますか――?
――そうですか、よかった! じゃあ早速今から――。
――? どうしたんですか、○○さん?
え、どうしてこんなに親身になって助けてくれるのか、ですか?
――理由なんて、必要ですか?
まあ、あえて言うなら○○君のことを、あ、あ、愛しているから、でしょうね。
ね、愛する人を助けるのに、理由なんていらないでしょう?
ああ、泣かないで、○○君。
絶対に貴方を助けますから。
他の人が貴方を見捨てても、私だけはずっと傍にいますよ。
だから安心して?
ずっとずっと、貴方の事を護りますから。
どうでしたか? 私と○○君の愛の劇場!
神話の神様でも、こんなひた向きな女性はなかなかいませんよ?
これからも、私たちの物語は続いていくんです! 良ければ応援して下さいね?
――え? ○○君の霊的体質は本当なのか、ですか?
うーん、そうですね……。まあ、いいでしょう、貴方は口が堅そうですから。
――嘘も方便って諺、知っていますか? ○○君に嘘を吐くのは本っっっっっ当に心苦しいんですけど……。
○○君を悪い虫から守るためなんです。○○君は私が大切にするんです。傷つく可能性のある外になんて出せません。
まあ、最近は○○君も外に出たがらないんですけどね。
神社ではいつも私の傍にいて、「早苗、早苗」って。ふふっ、可愛い○○君♪
これも私の、献身的なお世話のおかげです。
ん、そろそろいいんですか? そうですか、ではまたお会いしましょう。
あ、そうそう。
貴方が今日聞いたお話は、オフレコでお願いしますね?
誰かに話したりしたら、その人もろとも――
転 ん で 死 ん じ ゃ う か も し れ ま せ ん か ら ♪
では、またお会いできることを祈ってますよ?
ふふっ――♪
〈後書き〉
これにて完結です。
僕的には、こうやって策謀でもって主人公の方が離れられないようにするタイプが好みです。
さて、策士早苗さんのヤンデレ、いかがでしたか?
みなさんが少しでも楽しめたなら、幸いです。
最終更新:2010年08月27日 11:34