ノックス破り

「つまり、犯人は貴方です。レミリア・スカーレット…いえ、フランドール・スカーレットさん。」
洋館の中で探偵が高らかに宣言する。
お決まりのように関係者を全て集め、神の見えざる手に導かれるかのように犯人を指差す。
ミステリー小説では有終の美を飾る筈の光景はこの空間では少々常識に囚われてしまっていたようだ。
例えば、誰かが探偵の推理にケチを付ける程度には。
「誰…?」
「どなたでしょうか?」
「お嬢様に御家族が居らっしゃるなんて、存じておりませんわ。」
「うーん、知りませんね。」
いきなり出だしで躓いた探偵だが、なおも諦めずに推理を展開していく。
「事の始まりは五年程前、レミリア・スカーレットは妹のフランドールを幽閉したんですよ。
そしてその事を恨みに思っていた妹が、今回の犯行に及んだのです。
即ち密室になった部屋の外から当主のレミリアを秘密の通路のトリックを利用して殺して、その後で自分がレミリアに成り代わっていたのです。」
「レミリア様が入れ替わったのなら、多分皆、気づくと思いますけれど…。」
「そうです。美鈴の言う通り、お嬢様を見間違うなんて事は絶対にあり得ません。」
忠実なボディーガードや瀟洒なメイドから反論が起こるが、探偵はなおも話しを続ける。
「いいえ、彼女はそれが可能なんです。とはいえこんなトリックをする事が出来るのは最早、フランドールだけになってしまったと言えるでしょう…。」
探偵は指を再度掲げ、青い髪の少女に突きつける。
「何故なら、彼女はこの世でただ一人の吸血鬼だからです!」


「ぷっ、ははは、貴方馬鹿じゃないの?」
「ほんと笑ってしまいますね。流石、当てずっぽうの名探偵の二つ名は伊達じゃありませんね。」
「よりによって吸血鬼なんて…そんなの「現実の世界」にいる訳ないじゃないですか。」
「お客様、お帰りはあちらのドアですよ。」
そのまま探偵達は回転寿司がコーナーに流れていくように、あっという間に館を後にすることとなった。
取って置きの推理を否定された探偵は、憤懣やるかたないといった案配だったが、
隣のさとりは何処吹く風といった涼しい顔をしている。
たまらず探偵はさとりに話しかける。溜まったものを吐き出すかのように。
「さとり、どうしてそんなに平気でいられるんだい?」
「いえ、流石に直感だけでは、どうしようもありませんからね。……それに当主の方からの依頼は大成功でしたので。」
さとりに否定されたと思った探偵は、不満げに反論する。
「さとりも僕の推理が間違っているって言うのかい?これについては本当に、当たっている予感がするんだよ。
まさに心の奥底から確信と共に、急に湧き上がってきた傑作なんだから。」
「…推理の方は当たっていますよ。でも、真実を暴くのが誰からも望まれるとは限りませんからね。ほら、
こいしが来ましたよ。」
探偵の空いていた方の腕に急に重みが掛かる。今の今まで気づかなかった探偵が声を上げた。
「うわっ!びっくりした。今まで何処に行っていたんだ?折角の推理を聞かせられなかったじゃないか。」
「えへへ…。」
探偵の腕をこいしが掴み、ヤジロベエのように体が揺れる。
「まあ、向こうのように妹に全て譲るなんてことは出来ませんから、丁度分け合う位が良いのかも知れませ
んね。今のように。」
「ふふふ…。」
探偵の耳をすり抜けていったさとりの言葉は、こいしには届いたようであった。






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最終更新:2018年12月16日 20:58