●●は、生け贄にされるはずだった。

ミシャグジのお告げを受けた神主は、例外なく私に命を捧げてきた
別に私が血肉に餓えているわけではなかったが、信者達……いや、王国の国民たちは、それが信仰の証だと硬く信じていた。

状況が変わったのは、神奈子に征服されてからだ。
私に対する王国の信仰心を、なんとか神奈子が得ようと無駄にあがいていた。そこで誰の目にも明らかにキャッチーな「人間の生け贄廃止」を謳ったのだ。

だが国民たちは当たり前のように生け贄を続け、神奈子の計画は失敗した。
だが、国民は逆らっても私が逆らうわけには行かない。
私が降伏した意味がなくなってしまえば、国民は軍隊に踏み躙られるだろう。

だから私は、生け贄になるはずだった●●を婿に迎えることで生け贄の必要性を下げたのだ

私にとって誤算だったのは、私が本気で●●を好きになってしまったことだ。
私を、ただの女の子として扱った初めての男性だった。
身も心も、●●には全て許した。永遠の愛も誓った。
だが、●●は人間だ。
当時としては非常に長生きで、40歳に届いた頃、寿命が尽きた。

寂しく、悲しかったが、彼との間に授けた子達が支えてくれた。
子供たちが神奈子に仕えることで、国の内外も安定した。

ずっとずっと、●●の面影を子孫に追い続けていた。


「――幻想郷暮しも悪くないわね」

「洩矢様にそう言って戴けると助かります。なにしろ八坂様はお一人で決めてしまいましたから」

早苗は、プラスチックの食器を片付けながら安堵のため息を吐くように答えた。右手の人差し指で、軽く右頬を掻く仕草。●●が安心したときの仕草そのもの。

「ところで早苗、お付き合いしている男性がいるって本当?」

あぁ、おたおたと慌てる仕草は似てないのね。
少し悲しいわ。
でも、神奈子と違って文句なんて付けない。
●●の血を継ぐなら、相手なんて誰だっていいもの。
「〇〇って言うの? え?まだ告白してないの……今度神奈子と私に会わせなさい。 しっかり見定めてあげるわ。神奈子の評価は厳しいわよ~」



数日後、〇〇と連れ添うように歩く早苗を見かけた。

一目で解った
〇〇は、●●の生まれ変わりだ。
ぞくりと、それに気付いた私に芽生えた感情の恐ろしさと背徳感に背筋から震えた……

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最終更新:2010年08月27日 11:40