どうだい、最近の調子は?…そうか、それなら良いんだ。君がそう言うならなら僕も安心だよ。ああ、僕の方
かい?そうだな…、まあまあ、とでも言えばいいのかもしれないな。おや、不思議かい?そうだな、君がそう思
うのもある意味当然の話かもしれない。何せ君はこう思っているだろう「紅魔館の図書室でずっと居られるのに、
どうして満足していないのか?」ってね。
 まあそうだね、そう世間から思われるのは納得できる話しだね。勿論さ。ここの生活は何不自由はないさ。木っ
端妖怪とは違って、押しも押されぬ吸血鬼となれば、その友人としても過分の待遇を貰っているからね。知識人
を囲うのはきっと貴族の嗜みなんだろうね。

 そういえば君は、僕がどうしてここに居るのか知っているかい?いや、大した話しじゃあないんだ。ただ単に
何かの切っ掛けでここの図書館の本を読み、それから何度かお邪魔している内に、いつの間にかここに居着いて
しまったんだからね。全く他愛もない話しさ。この話しは此処でお終い。絵本にすれば一ページで収められる、
ただそれだけの物語なのさ。
 だけれどもね、この物語には裏が有るのさ。ああ、存在すると言ってもいいね。それは実在するという意味で
はなく、人に観測されることによって情報の渦の中に、あるいは量子として存在が確定すると言ってもいいかも
しれないんだ。ああ、ごめんごめん。流石に外来人の君でもちょっと飛躍し過ぎたかな。実は妻と一緒に図書館
に籠もりきりになっているせいで、話しの内容がこしゃまっくれてしまっているんだ。人里の人間と話している
と、全く駄目なんだよ。いや、正確に言うと話すことすら出来なくなってしまいそうになっているんだ。まあ、
普通に八百屋で買い物をする程度は…うん、多分大丈夫だと思うんだがね…、こうして少し雑談をすれば、彼ら
にとってみれば訳の分からない言葉が入るせいで、適当に流されてしまうんだ。だからこうして君と話す時間は
僕にとってみれば、とても心安らぐ時間なんだよ。ところで、君はミーム汚染って聞いたことがあるかな?僕が
その言葉を耳にしたのは、たしか架空の生物を創作して楽しむファンサイトだったんだけれどもね、なんでも話
す言葉や、思考回路があるイメージに誘導されるってことを意味する概念のようだね。本人にとっては、不本意
だという意味も暗黙の了解としてあるんだろうけれどね。

 今思い返せば、全くもって僕はそれに嵌まっていたんだろうね。図書館に行って本を読むことが当たり前にな
り、彼女と話すことが当たり前になり、ああ…話すことが普通は先なんだろうがね、全くもって彼女らしいね。
そして図書館に居ることが当たり前になれば、僕は立派な紅魔館の一員となってしまったって訳さ。中々鮮やか
な手口だったよ。流石、魔女の名前は伊達ではないね。しかし本当に恐ろしいのは、僕が自分では全く今の状況
が不自然だと思わないことさ。いつの間にか、彼女の存在が当たり前になり、いつの間にか自分の居場所が紅魔
館になっていたのだから、普通は疑問に思わないといけないんだろうがね、僕は今でもそれが当然のことのよう
に、呼吸をするのに一々気を遣わないのと同じ様に思っているのさ。こうして君と話しながら考えることで、漸
く普通の人がするであろう思考回路を使うことで、どうにか言葉にすることができるだけなのさ。今この瞬間も
僕の心は、それが不自然だとは思っていないのだから。
 だからさっき僕は、まあまあだと言ったんだよ。心臓が動いているのが珍しいと考える人はあまりいないから
ね。それが自然に与えられている限り、病気にならない限り健康の価値が分からないように、それは意識されな
いのさ。まさにそれこそがある種の誘導なのかもしれないけれど、そう考えても僕には何の感慨も湧かなくなっ
てしまったんだ。ひょっとすれば、僕がそう考えるようになってしまったから、今君とこういう話しを出来るの
かもしれないね。おや、それはないと思っているね。…いや、君は幸福さ。彼女は流石にそんな事まではしない
なんて、そう思えるのはある種の幸福なのさ。明治の文豪ならば豚的幸福と酷評するんだろうな!

なにせ僕は今朝方久し振りに、妻から文々新聞を見せられたんだからね。 …ああ、勿論君が写っていたとも。
題名かい? 君なら分かるだろう? 「花嫁、花婿特集」って所まで漱石の小説にそっくりだったよ! 





感想

  • この話難しかった -- 名無しさん (2023-01-01 10:19:34)
名前:
コメント:




+ タグ編集
  • タグ:
  • パチュリー
  • 標準的なヤンデレ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年01月01日 10:19